PAGE.164「パラサイト・クリーチャー(前編)」


 少女アタリスはそのショーへ飛び入り参加。殺戮ショーの被害者に成り果てようとしていたコピオズムの助太刀へと意気揚々に。


「同胞よ……救いを感謝する」

 アタリスが援軍に来てくれたことでコピオズムの恐怖はある程度取り除かれたようだ。さっきまでの死に物狂いだった表情に少しずつだが余裕が戻ってきている。


 コピオズムは優雅に立ち上がるとポーズを取りながら魔眼を披露する。伯爵をイメージするような笑いを微かにしながら、アタリスへと助太刀のお礼をしている。


「勘違いするな。言ったであろう。私もこの演目に混ぜてもらいたいとな」


 アタリスの視線は巨大な蟲を操っていた謎の少年へと向けられる。むしろ、コピオズムの事に関してはショーの引き立て役としても三流だったと無関心である。


 殺戮ショーの実行者。その少年へ鋭く指を突きさした。



「アッハッハ、クソガキの援軍にクソガキが来やがった! 悪いことは言わないからお子ちゃまは家に帰ってパパとママに甘えていな……って言いたいところだけど、お前達、タダのガキじゃないよねぇ?」

 袖の中をモゾモゾさせながら、赤いローブの少年は人形のようにケタケタと笑っている。変に動いているあの袖の中ではきっと次の武器を仕込んでいるのだろう。


 赤いローブの少年は挑発をしながらも、嫌な予感を口にする。

 アタリスにコピオズム。この二人は普通の人間にしては何かオーラが違う。


「“魔族”の匂いがするんだよなぁ~?」

 少年の予感。もとい直観は見事なまでに的中していた。

 といってもアタリス達は100パーセント魔族と言うわけではない、体の構造がどちらかと言えば魔族寄りの半魔族である。


「あのような下衆な種族と一緒にするな」

 当然、魔族のことを下衆な輩ととらえているヴラッドの一族の娘にかけたその言葉の方が一番の挑発となった。

 愉快そうに笑う少年に対し、アタリスは逆に怪しく微笑んでいる。その見た目からは相も変わらず子供らしくない大人の色気が滲み溢れている。色気のある唇にそっと触れ、アタリスは少年へ布告する。


「……念のため聞いておくが、そいつを渡せば見逃してやるさ。だからお前はとっとと帰った方が身のためだが。どうだ?」


 少年の気遣い。心の奥底から思っていないであろう余計なお世話。


「言ったであろう。混ぜろと」


「じゃあ、仕方ないのさ!」

 赤いローブの少年の袖の中が勢いよく暴れまわる。

 先程のムカデのように中から何かが出てくる予兆かもしれない。アタリスとコピオズムは二人そろってその場で身構えた。


「目撃者、二人まとめてあの世行きさ!」

 少年の袖の中からその害蟲は姿を現す。


 次に現れたのは人間一人飲み込む大型サイズのムカデと違い、一体一体は小さいモノの組織力は壮絶なレベルである毒蜂の軍勢だった。


 その蜂はスズメバチのような猛毒を持った種類。袖の中から現れた数千匹以上の蜂の軍勢がアタリス達に向かって襲い掛かる。


 これだけの蜂の軍勢だ。防御をしようものなら一気にその体を飲み込み、回避しようにも絶対に逃がしはしないスピードで追いかける。人間の足程度で振り切れるスピードではない蜂の軍勢はそう易々と凌げる攻撃ではない。




 しかし、アタリスにそれが効くかどうかとなれば。


「ふふっ」

 当然、無意味な組織力である。


 彼女の視界に入ったものは問答無用で焼き尽くされる。ましてや、ムカデ以上に耐久力もない蜂の軍勢。一体一体の生命力はこの手のひらで押しつぶせるサイズでしかない奴が群れになったところで何の意味も成さないのである。


 蜂の軍勢は一気に燃え尽きていく。


「やるな。やっぱりタダものじゃねーな」


 ローブの少年は面白可笑しく笑いながら雑木林の木々の中に姿を隠す。

 ここで火を放てば一瞬にして火事になる。下手をすれば、その場にいる彼女たちも巻き込まれると感知して、森をシールドとして利用しているのだろう。


 まあ、そんなことをしても彼女には関係ない。容赦なく焼き払っていただろう。

 だがここは王都。ここで火を放って火事を起こしたなんて妙な真似をすれば、コーテナ達にも彼女の罪が降りかかることになる。迂闊に燃やそうとしない為に、少年のやった行動は正解であった。



「しかし、何故あのような奴に苦戦した?」

 あの様子では少年とコピオズムの目は間違いなくあっていた。

 この地点で錯覚を与えることには成功しているはずである。しかし、何故あの少年はそれにも関わらずコピオズムを認識出来ているというのか。


「……我が道を塞ぐ刺客。それが原因だ」


 それでは伝わらないだろうとアタリスは呆れる。

 どう聞いたところでミステリアスぶる少年には意味がないと感じたアタリスは、何故彼の錯覚の瞳が効かないのかを考える。


 ローブの中で見えた少年の顔。

 その顔を思い出す。


(なるほど、そういうことか……瞳と瞳の間に遮蔽物があれば通用しないのか)

 恐らく彼の能力は瞳から瞳に対して見えない電波のようなものを送っている。それを伝達させなければ魔衝の発動は叶わないという事。




 あの少年、素顔に巨大なゴーグルをつけていた。

 ゴーグルが邪魔となって電波を送れない。錯覚の瞳が効かないということである。


 しかもその瞳は蟲のような小さな相手、および脳を持たない生き物には全く効果がないようである。


 面白い能力を持っているものだと思ったが、意外と言うよりも失望の方が大きい能力の弱点。アタリスの中でコピオズムの評価は滝のように下がる一方だった。


(視界から外れたようだが……さて、どうでる)

 アタリスは雑木林に隠れた謎の少年を探るべく、耳を澄ませた。

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