PAGE.158「結社・アルカドアの旋律」
「アルカドア所属、“ノァスロ”という者だけど」
アルカドア。王都魔法学会に続く、かなり有名な魔法研究組織。この学園では第2位の座を争うくらいに大きな派閥の組織である。
黒の制服に身を包み、怪しい雰囲気を醸し出す眼鏡のレンズの先からは、徹夜のせいか若干潰れた目とシミのようなクマが見え隠れしている。しかし、そんな不健康な目元でさえも綺麗に見せてしまう美貌を持った女性だ。
アルカドアの職員である証拠に、胸元にはネームカードが刺さっている。
組織での立場、フルネーム、そしてナンバー。学園への立ち入り許可しようも首に引っ掛け、偽物ではないことをここでしっかり証明しておく。
「お待ちしておりました」
昼食を中断し、フェイトは席を立ち頭を下げる。
「ようこそ、学園へ」
「……」
それに続いて、コーネリウスとエドワードも頭を下げていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アルカドアの研究員・ノァスロと名乗る女性はあることを調べていたという。
ここ最近学園で発見される魔物達。そして魔物によって引き起こされている事件などを。
何故、突然王都の中で魔物が現れたのか。
何故、魔物が現れたことを騎士団が認識できなかったのか。
その多すぎる謎を解明するためにアルカドアからわざわざ足を運びに来たのだという。過去二回事件に見舞われたこの学園へと。
「原因はいまだに分かっておりません。エージェントも捜査中とのことです」
学園の施設を見回りながら、フェイトが補足の説明を入れる。
(魔物の出現、か。本当にそのような事が?)
フェイトとコーネリウスがどのような任務を受けているかまでは伝えられていない。しかし、彼も家柄が家柄ということもあり、学園でどのような事件が起きたのかくらいは数日前に聞き出し、把握した。
(……それを調べるのが今回の目的だがな)
随分とあっさり聞き出せたものであるが、それには理由がある。
フェイトとコーネリウスの任務。“ラチェットの監視、そしてその正体を探る”という件に関しては引き続き他言無用にて関わる事はない。だが、それ以外に任されている彼女たちの任務。それの協力を要請されたのだ。
この三人はアルカドアからやってくる研究者をもてなすために用意された案内係。この学園でも、来客に失礼のないように編成された優等生として選ばれたのだ。
「そうか……仕掛けらしきものは見当たらない。学生の悪戯なんかで出来る系統でもないはず……一体、どのような方法で?」
ノァスロと名乗る女性は首を傾げ、考え込む。
何もない虚空より突然魔族を出現させる。これは現地点にて発現が不可能もとい困難とされている“次元の干渉絡み”の魔法でなければ不可能な域に達している。
それだけの魔法使いが王都にいるのか。しかし、それほどの実力を持つ魔法使いが何故、こんな執拗で質素な事件を仕掛けるのか。冷静に考えて、本当にタダの事故なのか。謎は募るばかりだ。
考え込む。ノァスロは何か方法は見当たるかどうかと探りを入れている。
(ふむ)
……この三人が選ばれたのにはもう一つ理由がある。
(妙な動きは今のところないね)
(油断するな。奴から目をそらすなよ)
アルカドア。この組織には疑いがかかっているからだ。
魔物が発生した時、そしてここ最近で耳に入ってくる妙な噂……この魔物の事件はアルカドアが絡んでいる危険性があると精霊騎士団は調査を入れていた。
そんな組織の人間が学園に来たとなれば、何か事が起こる可能性がある。その対処を即座に行えるための精鋭として選抜されたのも理由である。
「……おっとすまない、お手洗いは何処かな?」
「こちらです」
学園の女子トイレにノァスロを案内する。
「すまない」
案内されるがままにノァスロは女子トイレの個室の中へと入っていった。
「念のため、見張っておくよ」
フェイトとエドワードに一言残し、怪しい真似をしないかどうか確認するために彼女の入った個室の前でコーネリウスが待機する。
二人も彼女を見送ると、女子トイレの前の廊下で待機することとなった。
……女子トイレ個室。
「ふぅ」
その中でノァスロは静かに息を吐く。
「それでは、」
小声。周りには誰も聞き取れないレベルの小さな声。ノァスロは呟く。
「実験開始だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外の廊下では二人は待機している。
中はコーネリウスが見張っている。怪しい事に対しては直感の働く彼女であるのだから、何か怪しいことが起きても何の問題もないはずだと待っていた。
『ぎゃぁあああッ!!』
「「!?」」
フェイトとエドワード。
突然聞こえてきた悲鳴に反応を見せる。嫌な予感がする。
「コーネリウス! そちらは頼む!」
個室トイレから動けないノァスロの護衛を彼女に託し、フェイトとエドワードは悲鳴のした方向へと全力で駆けて行った。
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