PAGE.152「野望のカリキュラム」


 王都ではそれなりに有名な小さいレストラン。

 お昼はランチメニューとなって値段もかなりリーズナブルに。その為に働き者たちは休憩時間にこのレストランへ訪れるわけである。


「……ふぅ」

 そんなレストランの真ん中で一際異彩を放つ二人組。

「うめうめ」

 精霊騎士団のサイネリアとホウセンだ。

 この2人は食事を共にすることが多い。“今日”もその辺の小さなレストランにて過剰な量の食事をとっているようだ。テーブルの上には二十枚近くの大盛用の皿が重ねられている。



「……こいつはちょっと面倒だな」

「ああ、面倒だな。俺は大歓迎だが」


 しかし、その二人の食事はどこか険しそうに見えた。

 思った以上に食べ過ぎたとか、ここの料理がそれほど美味しくなかったとかそんな些細な問題で困っているわけではない。


 元気がない割には二人とも異様なくらい食が進んでいる。原動通り、本当にキツイのかどうかを疑う相変わらずな食欲である。



「ホウセン、お前何処まで聞いた?」

「変な奴をエージェントが見かけた事」

 ホウセンは昼間から酒を片手に飲み干す。一升瓶というかなりの量をラムネ感覚で飲み干すその姿に周りの客たちは驚きながらも小声で歓声を送っている。


「あと……爆弾魔がこの街にいることか」

 ついに発見したという爆弾魔。

 例の怪獣が現れた後、ラチェット達は証拠となるスクラップ帳を片手に騎士団へ報告。アクセルが事前に報告を入れてくれたおかげでスムーズに事が進んだようだ。


 王都の守りは厳重となった。入り口では今まで以上に厳しい検問が始まり、王都中にも目を光らせる騎士達が大量にうろついている。


 

 ……サイネリアが面倒だと言っている理由は一つ。


 クロヌスを脅かす爆弾魔の存在。

 そして、王都に突如として現れた魔物達の謎。


 その解決を握る鍵達が二人同時にこの王都にやってきてくれたおかげで騎士団は大忙しだ。カモがネギを背負ってくると言った感じだが、少しばかりハードなスケジュールにサイネリアはどっと頭をテーブルに着ける。



「ったく、調べ物が多すぎて面倒なんだよ……」

「まあまあ、やり甲斐のある仕事がいっぱいで良いことじゃねぇの!」

 一升瓶のお代わり。それどころか大盛スパゲティもお代わり。

 その腹はブラックホールかと言わんばかりの無尽蔵だ……このセリフ、前にも言ったような気がしてならない。



「とりあえず、先に爆弾魔を見つけないとな」

 王都に現れた魔物達についてはエージェント達が調査している。

 ここ最近、王都の中で増え始める魔物達……それに絡んでいると思われる怪しい人物をついにエージェントが捕捉したのである。


 話によれば、その人物は長い戦闘の末逃げられてしまったようである。現在も取り逃がした男を発見するためにエージェントとその配下の魔法使い達が一斉に動いているようだ。


 今、騎士団がすることは犯人がハッキリしている爆弾魔の捕獲。

 数多くの自然を破壊した傍迷惑な爆弾魔様にそろそろ引退を決意させなければならない。


「ああ、そうだな」

 サイネリアも面倒でありながら立ち上がる。


「とっとと終わらせて、酒の一杯でも飲むか。忙しすぎて数か月飲んでねぇ……恋しいんだよ」


 サイネリアとホウセン。

 腑抜けた会話を続けた二人は料金を支払った後にレストランの外に出る。


 目つきが変わる。

 仕事モードに入った。二人はこの街の何処かに隠れているであろう爆弾魔を発見するためにそれぞれ違う方向へと走り去っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 同時刻。某所。


「逃がしたのか!?」

「大丈夫ですよ。念のため、証拠であるスクラップ帳は置いてきました。爆弾魔はこの王都では国際犯罪者ですからね。歴も長いだけにそう易々と信用する人はいませんって」

「ならいいのだが……」

 歳老いた男の声が聞こえる。

 その男が喋っている相手は……あの怪獣の飼い主であった少女。


 怪しいカプセルがその場で美術館の展示物のように並んでいる。その中ではこの街では研究が禁止されているはずの“魔物”の姿。


 明らかに怪しい実験。

 狂気の沙汰と思えない命知らずの研究施設の真ん中で“老いた白衣の男”はホッと息を撫でおろしている。



「次は気をつけたまえ……もし、見つかったら」

「約束は守るから勘違いなく。それよりも、そっちも約束守ってくださいよ?」

 少女は大笑いしながら、不安げに会話を続ける白衣の男の言葉に返答をする。失敗した立場である少女の方が優位に立っているような間抜けな絵面。


 この少女にとっては愉快な映像でしかないだろう。



「分かっとるよ……その時は好きにしたまえ」

「ありがとう、ドクター」

 少女は笑みを浮かべる。


「ペットが増えてきたから、最高の犬小屋が欲しかったんだよねぇ~……!」

 脳内で広がる最高の夢に希望とワクワクが止まらない。

 夢見る少女の如くスキップを踏みながら、少女は大きな笑みを浮かべて怪しい実験施設から立ち去っていった。


「全く、随分と陽気なものだ……”魔族のガキ“め」

 立ち去った少女。

 いまだに施設内で反響している彼女の笑い声のエコーに白衣の男も怪しく微笑む。


「充分利用させてもらうぞ、魔族共」

 実験施設の真ん中のテーブルに用意された資料。

 そこには先程の少女ともう一人男性の写真が貼られた契約書らしきものが用意されている。


「さぁ、人類革新の新たな一歩」


 ドクターと呼ばれた年老いた男。散歩がてらに実験部屋を出たかと思ったら、長く続く階段を上っていく。老いた体には少しばかり応えるかもしれない長い階段。登りきるには三十分近くはかかるであろう、長々と続く螺旋階段を休憩なしで愉快気に歩いていく。



 螺旋階段を登り切った先。

 外へと続く扉を開くと、太陽の光が老いた体に浴びせられる。



 この光。この太陽。

 このすべてが照らすこの街。


「素晴らしい実験の始まりだ!!」


 その目に広がる“王都の街”。

 その街すべてを抱きしめてしまおうかと思わんばかりに、老人は両手を広げ大笑いしていた。

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