PAGE.147「価値ある存在、意地の証明(その2)」


 迸る電流。 

 コーテナの指先から放たれた“何か”は、氷の壁を貫き穿った。


「終わらないよ、まだ……ッ!」

 決死の反撃。コーテナは攻撃を外したことに悔しさを浮かべながらも、一矢報いるきっかけを作れたことには上々の出来を感じている。

 エドワードの負傷の正体はやはりコーテナの反撃。しかし、ドームに隠れていたために何をしたのかを目撃することが出来なかった。


 それだけじゃない、本当に一瞬の出来事だった。

 エドワードは氷の壁にずっと目を向けていた。その上で、反撃を仕掛けられたことに気づくまで数秒近くのタイムラグが発生した。


「アマチュアめが……ッ!」

 エドワードは魔法耐性の強い制服の焦げカスを払う。

 正面から受けていても致命傷にならない様に威力は調整されているようだが……それでも体は軽く吹っ飛ぶ威力の砲弾だと思われる。まともに受けていれば、戦闘続行不可能はあり得たかもしれない。


 睨みを利かせるエドワード。

 ここまで強く歯ぎしりを起こす姿はあまりに滑稽だ。


「凄い!」

「これなら行けるかもしれません!」

 ロアドとコヨイは二人で声を上げてしまう。

 他のメンツもコーテナの善戦には歓喜の声を上げている。あの天才に一泡吹かせたことに驚愕こそあったが、それよりも彼女の活躍を喜んでいた。



(……早速役に立ったみたいだナ)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

=魔法世界歴 1998. 9/16=

 決闘が行われる昨日の話である。ラチェットとコーテナはサイネリアからの呼び出しで、模擬演習用の広場へと呼び出されていた。

 剣を回収したその日、彼女らがお願いしたのは当然、“あの魔法弾の発射の仕方を教えてほしい”という願いであった。


 面倒くさがりながらもそれを承諾。ただし、その約束は明日に回してほしいという条件を添えて。その日は地下商店で行われた不正な商売の一斉検挙が行われるため手が離せないとのことだった。

 サイネリアから奪った剣以外にも、かなりの数の窃盗品や不正ルートで手に入った商品が確認されたのである。一石二鳥どころか何百も発見と、お手柄である。


 押収された品数は精霊騎士団が一人でも動かないといけないほど。当事者であるサイネリアはその一件を片付けるために約束を後日に取りまわす。逃げ出さないようにと指切りを行ったうえで。


「……来たか」

 広場の真ん中でコーテナとサイネリアが佇んでいる。


「じゃあ早速だが……そうだな、まずはお前の魔法を見せてみろ……今撃てる、最大火力でな」


 サイネリアは広間に用意された巨大な岩の壁を指さした。

 厚さ二メートル。高さは十メートル近くとかなり巨大なターゲットだ。どのような魔法だろうと受け止める標的としては充分な頑丈さだ。


「わかりました!」


 言われた通り、コーテナは火の弾を形成していく。

 指先に集合する魔力、可能な限りの魔力をその一発に集結させ、形成が限界だと感じたその瞬間に彼女の限界を発砲した。


 可能な限り圧縮された炎の弾は岩壁に命中。大きなクレーターを壁に作り上げた。


「……なるほどな」

 サイネリアはその魔法を涼しそうな目で眺めている。


「相当いいモン持ってるじゃねーか。圧縮や形成の仕方にまだグラつきがあるにしてもこの威力……魔力にかなり恵まれてるぜ、お前」

「でも、サイネリアさんほどの魔法は」

 コーテナはまだまだと自身の魔力と実力を否定する。

 あの日見たサイネリアの炎の弾は桁違いの破壊力を持っていた。その差はあまりにも歴然で天と地を意識するほどの火力の違い。サイネリアと比べると自身の魔力は少ない方だとコーテナは謙虚する。


「そうだな……“今”の撃ち方じゃ、私には届かないな」

 サイネリアは人差し指を岩の壁の方へと向ける。

「もう一度見せてやるからちゃんと拝んでおけよ。待ちに待った“私の魔法”だ」

 炎の弾が形成されていく。


 ……真っ赤な玉は次第に濃厚すぎる色合いへと変わっていく。

 限りなく黒に近い赤、地下深くのマグマを思わせるドロドロの弾へと姿は次第に変わっていき、その形は更に手ごろな大きさへと圧縮されていく。


「ほらよ」

 形成された炎の弾をコーテナが作り上げたクレーターへと発射。




 ……ぶっ壊れた。

 巨大な岩の壁はクレーターを作り上げることは愚か、そのすべてが粉々に砕け散り、熱によってガレキは溶けてなくなっていく。。



「……!」

 これだ。この違いだ。

 天と地の差にも近い魔力の差。これがその証明である。



「魔力を“一か所に圧縮”させただけじゃ、コイツみたいな魔法弾は作れない」

 サイネリアは再び掌の上で炎の弾を形成する。


「いいか、これが“一か所に集めただけの魔法弾”だ」

 それはコーテナが作った炎の弾と全く同じものだった。

 圧縮された炎の弾は真っ赤な色を帯び、小さな太陽のように輝きを放っている。


「じゃあ、ここからどうやって私のような魔法弾を作るか、だ」


 空いた手の人差し指を愉快気に振りまわす。嫌々ながらも興が乗ったのか楽しくなってきたようだ。


サイネリアはそっと形成した炎の弾を自身の眼前に近づける。


「ほらよっと」


 サイネリアは何か力んでいるように見えた。





 その瞬間。


 彼女の作った炎の弾が……若干だが赤みを増す。


「!」

 形は変わっていない

 先程と全く同じ大きさの炎の弾。しかし、オレンジ色だった時と比べて色合いが濃く、更には感じる熱量も全く違う。


「さらにもう一つっと」

 また色に黒みが増す。熱量もケタ違いに上がっていく。

「よいしょっと」

 作り上げた炎の弾を天空に向けて発射する。


 空で大きな黒い花火が撃ちあがる。

 空中で崩壊した炎の弾は火花となって、黒い焦煙と共に散っていく。




「私みたいな炎の弾を撃つ方法、それは圧縮した炎の弾の上に……」


 このような魔法弾を真似る方法。




「また別に圧縮した魔力を“重ねる”のさ」


 サイネリアは黒い花火を指さして、そう応えた。

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