《◎GW[2019]特別企画SS◎ ~魔法少女アタリスちゃん(前編)~ 》
これはとある日の事。
「いやぁ、悪かったな。三人とも付き合ってくれて」
王都の街中でスカルが腰を伸ばしながらお礼を言う。
「特にラチェットとコーテナ。お前等、今日学園休みだったんだろ? そんな日に朝からの仕事の手伝いに付き合ってくれるなんてありがたいぜ」
何でも屋スカルがその日に引き受けた仕事は、とある富豪の商売人から任された“数百枚のポスターを街中に貼ってくる”という仕事。それを朝早くから昼のこの時間まで担当したわけである。
それだけの仕事、報酬が弾むにしても一人でやるのには無理がある。昨晩、その仕事の助け舟に乗ってくれたラチェットとコーテナには心より感謝する。
「いいってことヨ」
「いつもスカルにはお世話になってるからね~」
仲間なのだから当然である。二人は不意な言葉ながらにキザに言い放つ。
「くぅ~! やっぱり持つべきは良い友だなぁ!」
ハンカチ片手に号泣したい気持ちであるスカル。ここまで嬉しい事を言われてしまうと感極まってしまうのも仕方がない。ハンカチがないので代わりに握り拳で涙を拭う事に。
「私に対して礼がないとは、随分と偉い立場だな」
その横で一人。冗談交じりに威圧的な言葉をアタリスは告げる。
「何を言ってるんですか~。アタリス様にも感謝していますぞ~」
「ふっ、その態度に今の無礼を許そう」
アタリスの冗談に対し、スカルも冗談で返した。最下層の愚民が金持ちに媚を売るような姿の小芝居に笑わせてもらったアタリスは、スカルの一瞬の配慮のなさを許した。
「しかし、アタリスも手伝ってくれるとはナ……意外だったゾ」
このように、野暮用程度の仕事なんて、からっきしお断りな空気であるアタリスが珍しく仕事に手を出した。それに対しラチェットは意外そうに首をかしげる。
「なに、珍しく興が乗っただけだ。たまには、こういう野暮も悪くはないとな」
早い話。ちょっとした興味で何でも屋の仕事を手伝いたい気分だったようだ。
一人でこなすには夕方まで時間がかかりそうな仕事が昼前に終了。そのまま帰るのもアレなので何処かで昼食を取る事にしようかと談笑しながら街を歩く。
「あぁ~……どうしたものか……」
その最中。
街中で一人頭を抱えている男が一人。
「ん? なんだなんだ?」
気になったスカルが男の元へ駆けよってみる。
「おい、どうかしたのか?」
「ああ、実は……って、おおっ!?」
スカル達の元へ振り向いたその瞬間。男は顔色を変える。
「おおおおっ!?」
その視線はアタリスへと向けられている。
顔、華奢な体に脚線美。撫で回すように視線を向けるたびに男は発狂に近い形の雄たけびを上げている。
「何という絶世の美少女!! 君、名前は!?」
アタリスの元へ近寄った男はナンパというにはあまりにストレートで強引すぎるファーストインプレッションを仕掛ける。
「……あまり下衆な視線を向けないでいただきたいな」
その失礼極まりない目つきにはアタリスも嫌悪感を感じたのか。髪をいじりながらそっぽを向いている。
「おっとすまない。つい、見惚れてしまい……」
男も彼女の対応から無礼を覚えたのか謝罪をする。
「私は通りすがりの劇団の団長。この後、真ん中の広場で勇者が魔王に立ち向かう劇場を開こうとしているのだ」
「今から劇をやるの!?」
コーテナは一寸の劇に興味津々。是非とも一目拝みたいと前のめりに。
「だが、困ったことに劇団員のほとんどが流行り病に……伝染した病のせいで、今日の劇に来れたのは演出を手掛ける私のみ。残念ながら劇を中止することにしたのだが……アレを見てくれ」
街中の広場を物陰からこっそり指をさす。
ラチェット達も存在を悟られないようにひょっこりと物陰から顔を出す。
……沢山の人がいる。
その中の大半が子供連れ。その劇とやらを楽しみにしている沢山の子供達がまだかまだかと広場ではしゃいでいた。
「既に告知を入れていたからな。あれだけの人が集まっているのだ……どう、中止を言い出せばよいかと悩んでいたのだ」
どの言い方であれ、劇の中止である事実は変わらない。ショックを受ける子供達の姿を見るのに心を痛めるあまり、劇団長は躊躇いを見せていたようだ。
「……なぁ、付け焼刃でもいいなら、俺達が手を貸してやろうか?」
スカルが提案として呟く。
「なに?」
劇団長もその言葉に耳を傾けた。
「最近、王都では巷に有名な何でも屋! スマートダンディ・スカルとその愉快な仲間達! 何でも屋スカルとは……俺達の事だ!」
真ん中で両手を組んで大きく胸を張るスカル。その左右ではラチェットとコーテナが腕をシャキっと伸ばしてヒーローみたいなポーズ。スカルの目の前では一人マントを靡かせ決めポーズをとるアタリス。
名乗り口上と同時にポージング。自然と後ろの方で爆発のエフェクトが見えるようであった。
「……なぁ、やっぱりこのポーズ。いらないダロ」
「えぇ~。ボクはカッコいいから大好きだけどなぁ」
赤面するラチェットは文句を垂らしているが、コーテナはこのポーズをかなり気に入っているのか満面の笑顔。
「私も嫌いではないぞ」
アタリスも思った以上にそのポーズを気に入っているのかノリノリだった。
いつの日にスタンバイしたのか分からないがスカルが企画した何でも屋スカルの登場ポーズだそうだ。こうやってバッチリ決めるあたり、それぞれが気に入っているのは間違いないのだろう。文句を言いつつも、ラチェットは一切のブレもなくポーズを完遂していた。
「人員補給でも何でもこなしてやるぜ?」
「おお! それはありがたい!」
劇団長も突然の助っ人の登場に助かったと言わんばかりの表情。助け舟を出してくれたスカルに握手でその厚意に答える。
「劇までまだ時間はある! それまでどうにか、自分の役を覚えていただきたい!」
団長はそれぞれに脚本を配る。
「……む?」
アタリスは自身の配られた脚本に目を通す。
“勇者役”。
彼女に渡されたのか、世界の危機を救うべく立ち上がった勇者役の脚本であった。
「ほぉ、俺が魔王役か」
「“やられ役”……」
スカルが魔王役の脚本。そして、ラチェットは“決まり文句を口にして前に出てきたのはいいモノの、勇者に瞬殺されるやられ役”の脚本。
「ボクは語り手みたいだね」
コーテナに渡されたのはナレーションであった。
……確かに見た目的な意味では、この脚本の配列は妥当なのかもしれない。
やられ役を演じること自体にラチェットは特に不満はない。元より、人前に出ること自体不慣れな彼である。こういう仕事はお断りであるが故に、こうして一瞬で退場してくれる役の方が個人的にはありがたい。
だが、納得がいかないことがあるとすれば……。
“アタリス”が勇者役だということである。
「アタリスが主役かぁ~。アタリスはカッコいいから、そういう役も似合うかも!」
「嬉しい事を言ってくれる。そう言われては、この役を蔑ろには出来んな」
アタリス自体は自分に配られた役が何であろうとどうでも良さそうに見えた。どんな役であれ所詮は劇。現実とは全く関係のない世界だ。
……アタリスが勇者役。
第一印象で魔女のような印象を与え、その後も桁外れな強さで女王様的な印象を色んな人物に与えてきた、この見た目不相応の幼女が勇者役。
確かにアタリスは美少女だ。だが、中身は……。
そんな彼女が勇者をやることに物凄く違和感を覚えた。
「ふむ、しかし勇者役が女性となれば、少しタイトルを変えた方がいいかもしれない……どうしたものか」
劇団長が口にするのは別の事。どうやら、配役に関しては特に問題ないように思っているようだ。
脚本を見ると、タイトルを見る限りでは“男の勇者”を思わせるタイトル。主人公が女性になるのなら、それに合わせてタイトルを変えるべきかと劇団長が迷う。
「だったら、ボク! 良いタイトル思いついたよ!」
コーテナが元気よく挙手。何の突拍子もない即興。一同もどんなタイトルを思いついたのかと、そんなコーテナに視線を向けた。
「“魔法少女アタリスちゃん!”」
「ぶっ」
一人、スカルが噴きかける。
「……」
ラチェットもギリギリ笑いそうになったがこらえる。
「カッコいいアタリスもそうだけど、可愛いらしいアタリスの姿も見てみたいな~って思って」
コーテナの照れ笑い。彼女に悪気は一切ないようだ。
ついさっきまでカッコいいアタリスを見てみたいと言ったのは気のせいだったのか。随分とご注文の多い少女である。
「……ふむ、よかろう」
笑いそうになった男二人に一瞬嫌悪の視線が見えたが、コーテナのフォローのおかげで何とか致命傷を避ける。
開演数分前。
一同は早速劇の準備に取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます