PAGE.134「ドラゴンライダーは大忙し(後編)」

 というわけでドラゴンの面倒を見ることになったのである。

 なんとこの牧場。まさかの“ドラゴン牧場”だったのである。


 ここ、クロヌスではドラゴンも“動物”としてカウントされる。

 動物何て可愛いモノじゃなくて、神獣の類とかそういうのじゃないんですかと言いたくなったのは答えるまでもない。人間の体の十倍近く大きいドラゴンを前に何度もそう思う。


 ロアドの家庭は昔からドラゴンとの繋がりが深いらしく、先祖代々ドラゴンライダーの家系として名を馳せていたようだ。そのご先祖様の中には、王都のエージェントに属した者までいるという。

 思ったよりもエリートの家系の娘だったのだ。アクセルやコヨイ程とまではいかないが、成績は卒業すら危ぶまれる馬鹿である彼女のイメージとは程遠いものだったが故にドッキリではないかと彼は何度も思ったものだ。


「おい! そんなに突っ込むナ! おいって!」

 野生のドラゴンは今も王都の外では危険生物として扱われてはいるものの、こうしてラチェットに懐いているドラゴンのように大人しい個体もいる。


「あいつ、早く帰ってこねーかナ……」

 肝心のロアドは配達などの仕事で現在外出中。ドラゴンに跨って王都の方へと行ってしまった。しかも帰ってくる時間は毎回定まっていないらしく、明言されていないが故に不穏な空気を悟っている。


 ラチェットへ懐いているこの黒いドラゴン。どうやら、ロアドの相棒ともいえる存在らしく、名前は”グラム”。ロアドが幼い頃から一緒に遊んでいるらしく、ロアドの両親からの愛もあって、こうして人懐っこいようだ。


「……しかし、大人しいもんダナ」

 ラチェットの脳内のイメージではドラゴンという生き物はもっと獰猛なイメージがあった。ところがこのドラゴンは子犬のようにじゃれてくるではないか。


 動物の扱いに慣れていないラチェット。しかも、相手はドラゴンとなればお手上げでしかない。どうしたものかと、お腹に顔を埋めてくるドラゴンの頭を軽く小突き続けている。引きはがそうにもパワーで勝つことは不可能であった。


「それー! もっとだー!」

 コーテナが担当しているドラゴンは人懐っこいが少し暴れん坊らしく、外客であるコーテナを背中に乗せて大空を飛び回っている。

(あいつ、遊んでるナ……)

 一応仕事の一環であるという事を忘れていないだろうかとラチェットは不安を描く。大空を飛び回るコーテナは元気いっぱいにハシャいでいた。


「待ってください! 一人ずつですよ!?」

 ルノアはドラゴンの子供達を相手している。彼女の身長の半分くらいの愛らしい小型のドラゴンたちが雛鳥みたいな鳴き声を上げて、餌を持っているルノアに群がっている。

 ルノアが食われないかと心配で助けた方がいいだろうかと心配にもなる。甘噛み程度に戯れるらしいがラチェットは一応監視をしておく。


 ドラゴンの世話というのは想像以上に大変だった。

 ロアドの家系はこれを数人程度でやってのけるというから凄いと言いたくなる。動物園の一つでも開けるのではないかと思ってしまうほどに。


「おい、だから待てって……オイ!?」

 そして、ラチェットが担当したのは……よりにもよって、この牧場で一番大きいドラゴンの一匹。


 人懐っこく大人しい。それでいて、甘えん坊。

 グラムはラチェットを無理やり頭の上に乗せる。


「待て、お前何を企んで……」

 そのまま背中に放り込んだかと思ったら、コーテナが担当しているドラゴンと同じように空へ飛んでいく。

「おい待て! マジで待て!? オイッ!?」

 命綱も何もつけていない状態でのスカイハイ。

 ラチェットはグラムにしがみつく。振り落とされないにと必死に。


 綺麗な大空。

 その眺めの良さはあまりも絶景。王都の街全てを眺められる特等席。


 滅多に見ることが出来ない、最高の舞台。


「下ろせ! 頼むからおろしてくれェエエエッ!」

 必死に叫ぶがドラゴンは言う事聞かず。絶景なんか気にしていられないラチェットは子供のように叫んでいた。


「……あぁああ! 太陽が揺れてルゥウウウ!?」

 黒いドラゴンにしがみついたまま、視界の中の光が乱雑に揺れる。

「太陽が二つに見えるゥウウウ!!」

 最早、視界すら定まらない。


「ウワァアアッ!?」

 クールな印象があるラチェットは何度も叫び続けている。

 

 命綱無しのバンジージャンプだけは御免だと必死にドラゴンに抗議を続けていた。


「あはははっ! ラチェット楽しそうだね!!」

 近くから珍しく叫んでばかりのラチェットの姿を見て笑っているコーテナの声が聞こえるがそれどころじゃない。



 ___頼むから早く帰ってきてくれ。

 ラチェットはそれだけを祈るばかりだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













 王都の時計塔。


「よし、仕込み完了っと」


 湖の妖精みたいにその場で軽くターンをすると、褐色肌の何者かは静かに屋上から去っていく。



「それじゃあ、好きなだけ暴れてきな。私のペット達」


 愉快そうな笑み。

 何者かの姿は屋上から唐突と消えてなくなった。

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