PAGE.122「No,2は優雅に笑う(後編)」
「……!!」
まだ恐怖はある。
しかし、これ以上は本当にコーネリウスを怒らせかねない。ラチェットはコーネリウスに弾丸を乱射した。
「……さぁ、行こう」
瞬間。コーネリウスの目つきが変わる。
開いていた両手が動いている。
弾丸から身を守るために盾にしたわけではない。その両手は目にも見えない速さにて前方で不規則に動いている。
「!?」
撃ちながらでも分かる。
その場の現状を見て、ラチェットは何が起きているのかは実感できる。
あの手の動き、不規則なんかじゃない。
ちゃんと“弾丸が飛んでいる場所に動いて”いるのだ。
弾いている。
一秒に十発近くは発射している弾丸を“すべて”弾いているのだ。
その証拠にコーネリウスの背後には発射されたはずの弾丸が何発も地面に向かって飛んで行っている。軌道を変えられた弾丸は力なく地面に叩き落されていた。
……片手で弾丸を弾いているというのか。
そのスケールの違い過ぎる防御方法にラチェットは驚愕を隠せない。
「さすがは学園一の反射神経!」
「フェイト様も驚いたというそのスピード、さすがですわ!」
コーネリウスの防御が当たり前のように褒めたたえる女子生徒達。
その言い分。どうやら、決闘に置いてかなりの反射神経を彼女は身に着けているようだが、かといって一秒に十発近く飛んでくる弾丸をダブル。それを足一つ動かさず両手のみで防いでしまうことに異常さを感じる。
反射神経もそうだが、手を動かすスピードもそうだ。あまりにも早すぎて次第に目で追えなくなっていく。
……弾丸を素手で受け止めている。彼女の手にはグローブなどもつけていない。肌を晒している状態だ。弾丸を弾き飛ばしているのには、おそらく“何か”特別な力を使っている事は間違いない。
「さて、私も行こうか」
弾丸を弾きながら彼女が迫る。
一歩ずつ、その重い足取りでラチェットに接近してくる。
「ちぃっ!!」
片方のサブマシンガンを放棄、もう片方のサブマシンガンも弾切れを起こしたため新しいものを用意する。
片方サブマシンガンを持っていた手には……グレネードを構える。
無理のある構えになるが、これくらい無理をしないとどうにかなる相手じゃない。
サブマシンガンで相手の動きを封じつつ、ピックを外したグレネードを両手の塞がっているコーネリウスの足元へと投げ飛ばす。
塞がっている両手。不安定になる足元。
姿勢を崩したその瞬間に突撃をかけようとラチェットは身構えた。
「……ふん」
コーネリウスは含み笑う。
走り出す。
飛んできているものの正体が分かっているはずなのに、コーネリウスは自ら危ない橋を渡るように突っ込んでくる。
「!」
ラチェットはその行動に焦りを見せる。
いくら爆発耐性のある制服を着ていても、腕と顔は肌を晒しているのだ。その状態でグレネードの爆発を浴びれば一瞬で吹っ飛んでしまう。
「また、心配そうな顔をした」
笑みが崩れない。サブマシンガンの弾丸を防ぎつつ、一瞬開いた間を使って、グレネードに勢いよくチョップを入れる。
……爆発しない。
まるで優しく撫でられたかのようにグレネードはその場で静止する。
変わる軌道。
グレネードは彼女の場所とは全く無関係の方へと吹っ飛んでいく。観客も誰もいない真緑の芝の大地へと弾かれ爆発、巨大なクレーターを作り上げた。
その瞬間、カチリとサブマシンガンの方から音が聞こえる。もしかしなくても弾切れだ。
「嘘ダロ……」
ラチェットの攻撃がピタリと止まる。
「ふっふっふ」
いる。コーネリウスが目の前にいる。
右手が手刀のようにラチェットの首に向けられていた。
「私の勝ちだね」
そして、この優雅な笑みである。
そこら中の男どもなら、その笑みを見ただけでハートを撃ち抜かれるだろう。
「……降参」
しかしラチェットは内心怯えながら、両手を上げて降参。
これ以上何か行動を取ったとしても対抗策が見つからない。こちらの攻撃も全部見透かされている以上勝てる見込みが見つけられない。
またしても大恥をかく羽目という結果になってしまった。
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれたまえ」
「はいヨっと……」
戦闘フィールドから両選手は離れていく。
「ドンマイ! 次は頑張ろう!」
「なさけねーなー。もうちょっと踏ん張れよ」
コーテナとクロ、二人からおかえり代わりの挨拶が返ってくる。
飴と鞭を両方与えられるって複雑な気分だ。
どっちに反応すればいいんだよとラチェットはリアクションに困るしかなかった。
コーネリウスも相棒の元へと向かう。
彼女の友であり競争相手だという、学園のナンバーワン・フェイトの元へと。
「どうだった?」
コーネリウスはフェイトに質問をする。
「……この戦いだけでは、決めつけるのは難しい」
「そうかい? 私はやっぱり騎士団の考えすぎだと思ったけどね」
仲間たちと戯れているラチェットの方に視線を向ける。
「魔物はともかく、人を殺めることに深い恐怖を持っている。危機感を覚えて防衛本能に走ろうともしてたし、相応の怯えも見せていた……どっからどうみても人間にしか見えないよ。しかも小リスのような草食な男の子だ」
学友たちにいじられながら、困り果てる彼の表情。そこには人間らしい微笑ましいものがある。
「あの感情は嘘とは思えないよ。彼の心臓の音色を間近で聞いたのだから間違いない」
「……どのみち、まだ謎が多い。騎士団長に頼まれた以上、監視は続行するまでだ」
フェイトはラチェット達一同に背を向けると、実習会場から立ち去っていく。
「お堅いお嬢様」
フェイトの振舞いに軽く笑みを浮かべながら、コーネリウスも姿を消した。
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