《SS⑧ ~アクロケミスの少年~ 》
ファルザローブ王城。玉座の間。
「ふむ、今日も平和であったな」
今日も高見で街全体の様子を眺めているのはファルザローブ王。
「そうですね、父上」
ルードヴェキラも星空を見上げ、平穏な王都ファルザローブを見渡している。
親子。この王都の王族であるファルザローブの一族。
一日の終わりの前。ほんのささやかな団欒を楽しんでいる。
「騎士団長。報告が……おっと、改めた方がよろしいでしょうか?」
「気にするな。エーデルワイス」
ルードヴェキラの従者、エーデルワイスは団欒を邪魔したのではとかしこまるが、父である王は彼を咎めず、背を向ける。
「ルードヴェキラよ。私は部屋に戻る。お前も遅くならぬようにな」
「はい、父上」
王は一足先に寝床へ向かって行く。
「申し訳ありません。邪魔をなさって」
「大丈夫ですよ」
気にする必要はないとルードヴェキラはエーデルワイスを宥める。
その報告は重要な事。そうであるのなら、畏まる様子を見せない様にと促した。
「報告の件ですが……“例の件”ですか?」
「……はい。予定通り、調査の方を進める準備は整えました」
「ご苦労」
ルードヴェキラの目線は夜空から街のとある一か所へと向けられていく。
何でも屋スカルの新しい事務所がある地点。ルードヴェキラはそこから目を離すことなく、エーデルワイスとの会話を続けている。
「……彼らには申し訳ないとは思います。しかし、放ってはおけません」
ルードヴェキラの目つき。
いつもの穏やかな表情は、どこか険しいものへと歪んでいく。
「徹底的に調べてください……“仮面の男・ラチェット”のことを」
「はっ」
主人の指示を受け、エーデルワイスは去っていった。
ファルザローブ王、騎士団長ルードヴェキラ。そして精霊騎士団にその他エージェントはラチェットが別の世界からこの場所へ来たことを知らない。
謎の少年ラチェット。“未知の力”を使う魔法使い。
「……イベルが言っていた。あの少年には“不思議な魔力”を感じると」
アクロケミスの魔導書。桁外れの魔力があるとは思えない少年。
そんな彼が難解であるはずの魔導書を使って見せている。
不安材料。
彼女らにとって、その存在は“不可思議”である。
「ラチェット……申し訳ありませんが、しばらく観察させていただきます」
騎士団達には彼を調査する理由があった。
その理由は……この王都。魔法世界に関係するものなのかどうか否か。それはまだ、王城の上層部だけが知る事実である。
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