PAGE.49「門前払いのギミック」


 突如現れた甲冑騎士。一同は絶体絶命の危機に陥る。


「どうする!? どうするの!?」

 神頼みで道を選んだコーテナが叫び出す。

 彼女を責めるつもりはない。何せ、ここにいる誰もがどっちの道が正解だったか分からなかったのだから……一人は読書に夢中で推理に参加していなかったけど。


「とりあえず処理!」

 責めるつもりはないがひとまず落ち着くようにとラチェットは怒鳴る。ギャーギャー騒いでるだけで何かする前に一網打尽にされては笑えもしない。


 怒鳴った直後にアクロケミスからハンドガンを取り出し発砲する。


 ……しかし、その銃弾は敵の見た目からして効果はないとは予想してた。

 拳銃何てこの世界ではたかが鉛玉。甲冑の頭に命中した弾丸は何処か明後日の方向へと飛んでいく。


「だよナ! クソッ!」

 弾丸は甲冑の頭を軽くずらしただけで、何の成果も得られなかった。

「爆発っ!!」

 だったら、これしか打開策はないだろうと手榴弾を取り出し、勢いよくピックを歯で抜き取り放り投げる。


「いいか! 荷物に絶対触れさせるなよ!?」

 スカルが数名の甲冑の相手を引き受ける。

 鋼鉄化した体のおかげで何度か剣を振り下ろされてもビクともしない。これが本当の盾役と言ったところか。


「それ! それっ!」

 コーテナは指先から炎の弾を乱射する。

 指の形を銃のような形に見立て、近寄る甲冑へ幾度となく射撃する。彼女が使う魔衝の中でも格段に威力が違うということだけあり、次々と騎士達がバギーから離れていく。


「なぁ? お前、最初の頃はナイフを使って魔法を撃ってなかったカ?」

 ナイフの先端から魔法を発射。最初の頃のコーテナの姿をふと思い出す。

 その質問は明らかな不意打ちで無駄口であるのだが……気になって仕方のなかったラチェットはその話題を続行する。


「そうだけど、こっちの方が格好いいかなって」

「ナイフ関係なかったのかヨ!!」

 見栄えの問題だったようだ。


 よくよく思い出してみれば、ナイフを使わなくても魔法を発動している場面は多かった。魔衝を発動するには条件を満たさなければならないものが存在するが、コーテナにはそんな制約は存在しないようである。

 

「それにさ」

 目を輝かせながらコーテナはラチェットの方を見る。


「こうした方がラチェットとお揃いだからさ!」

「……」


 かなり複雑そうな表情でラチェットは少女を見つめている。


「あれ、友達ってお揃いとか好きって本に書いてあって……」

「俺も聞いたことはあるがアレって迷信なんだナ。すっごい複雑だ」

 友達同士でペアルック。漫画とかでそれを喜ぶキャラクター達を見たことがあるが……駄目だ、何となく嬉しくない。


 ___何故だろうか。嬉しいというよりは妙に気持ち悪い。


「でも、前よりは見栄えいいのは認める」

「やったね!」

 大喜びのコーテナはいつもより余計な火力を足して火の玉を乱射。フィーバーモードに入った彼女を止めることは誰にも敵わない。


 正直な話、ラチェットもこの事については完全に嫌悪感を覚えていたわけではない。銃撃戦を行う自身の姿に惹かれて真似をしたという事実には、何処か満更でもない気持ちがあったようである。




 ……無駄口も終わったところで騎士甲冑を一体ずつ対処していく。


「ちっ!」

 しかし、そう易々と処理されてくれないのがこの騎士甲冑たち。

 爆弾で吹っ飛ばしたり、力業で粉砕などを繰り返しても……何度でも元の姿に戻ってしまう。次々と復活されてしまうのだ。


「あっ! アタリス!?」

 荷台に詰め込まれている巨大な小麦粉の袋の上で読書に今もなお集中し続けているアタリスへ騎士甲冑の魔の手が迫ってくる。彼女は本に視線をやっているため、目の前の騎士甲冑に気付いていない。

「馬鹿! 前をミロっ!!」

 ラチェットも思わず声を上げた。







「……そんなに喚かなくとも、気づいておるわ」

 剣が振り下ろされる一瞬の手前、少女は本を閉じる。

「人形風情が、気安く触れるな」

 アタリスの瞳が真っ赤に燃える。敵意の籠った“殺気の視線”が甲冑に向けられる。


 騎士甲冑が内側からブクブクと膨らんでいく。

 まるで風船のようだ。騎士甲冑の胸部分から赤い泡が吹き出し始める。


 途端、騎士甲冑の体全体から沸騰したお湯のように次々と赤い泡が飛び出てくる。ガマガエルのイボのようにも見える大量の小粒の膨らみは次第に大きくなっていく。


 ……爆散。

 甲冑騎士の首が石ころのように地面を転がる。


「下衆が」

 転がってきた首を踏みつけ、冷たい言葉に蔑みの視線をセットで叩きつけた後……胴体同様、水風船のように赤く爆散した。


 さすがはアタリス様……無敵の怪物である。

 苦戦を強いられている一同と比べて、スマートに処理を終えてしまった。


「……背中だ」

 アタリスは一同に告げる。

「甲冑の背中に刻印がある。それが復活の原因だ」

 邪魔者を排除したアタリスは再び読書の時間へと戻っていく。


 ”戦う価値などない”。アタリスが甲冑を見向きもしない理由である。

 人形風情に後れを取らぬことなど百も承知。こんな人形相手に貴重な読書の時間を割く方が人生を無駄にすると考えていたようだ。


 なんという余裕。これこそ不死身の怪物の余裕という事だろうか。


「背中って……これか!」

 一体の騎士甲冑に回り込んだスカルは“刻印”らしきマークが刻まれた背中をフルパワーでぶん殴る。


 直後、騎士甲冑は割れた花瓶のように粉々に砕け散ってしまう。

 刻印の部分を破壊すると、次第に騎士甲冑はポルターガイストのような不気味の挙動を一つも取らなくなり、復活することもなくその場でバラバラに崩壊していく。


「そういうことカ」

 ラチェットも刻印が弱点だということを知ると、手持ちのアクロケミスから次々と手榴弾を取り出し、余裕な距離から背中へぶん投げる。

「それそれ!」

 コーテナも弱点を知ってからは余裕の笑み。

 的確に甲冑騎士たちの背後へ回り込み、次々と火の玉で撃ち抜いていく。


 甲冑は爆散し、甲冑は燃え盛り、甲冑は砕け散る。


 ……数体はいたであろう甲冑を全て排除することに成功した。

 再生もしない。アタリスの言う通り、あの刻印が復活を発動するためのギミックだったようだ。


「凄いよアタリス! よく弱点分かったね!」

 読書を楽しんでいるアタリスへとコーテナは賛美の声をかける。


「あれは初歩的な”錬金魔法”だ。あのような魔術師は過去に何度か父と見たことがあるのでな……出来こそよかったが、所詮は抜け殻よ」


 ___錬金魔法?

 漫画で見たことがある通りでは、物質を別の何かに変換する何かというイメージがある。この世界では錬金術も魔法という括りで纏められているというのか。


 気になるところではあるが、それよりも気にする事がある。


「引き返すカ? 何かハズレっぽいゾ、この先」

 ラチェットは一度戻る方が安全ではと提案する。

 アタリスの言う通りならば、あの甲冑騎士は誰かが仕掛けた魔法トラップ。つまりは侵入者を追い払うために用意されたガーディアンだ。


 そのようなトラップ。そして大量の魔導書ランタンの存在。


 ___ここから先へは行ってはならぬ。

 頭の中では危険信号の警笛が鳴っていた。


「待て、ラチェット。確かに怪しいが……ハズレかどうかは分からない」

 ラチェットの案をスカルは否定する。


「どうしてダ?」

「ここまで手の込んだトラップを仕掛けているんだ……この先には何かが隠されているかもしれない。となるとだ……」


 スカルは人差し指を天井にさす。


「……何かお宝が隠されている可能性があるかもしれねぇ!」

 彼の中で到達した夢の世界の存在を堂々と言い放った。

「もしも、それが目玉の飛び出るレベルに高額なお宝だとしたら……くぅ~! 一攫千金の匂いが濃くなってきた! というわけで、もっと先へ進むぜ!」

 意気揚々とスカルはハンドルを握りしめる。


「え、ちょっと待って。待て、ハンドルから手を放して……」

「突撃!」

 撤退不可。ハンドルをきる権利はスカルにある。

 引き下がることなどしない。彼の頭の一攫千金レーダーが反応してしまったが故に、より危険そうな最奥地へと向かってしまうことになってしまった。


 ラチェット、引き下がり不可能な状況に少しだけ頭を抱える。


「ふふっ、何があるか楽しみだ」

 アタリスに至っても突如として始まったお宝探しにノリ気になっていた。読書を中断するくらいには愉快な興味を示したようだ。


 コーテナもお宝という単語を聞いて目を輝かせている。



 ……全員敵だ。

 四面楚歌の状態。反対意見など却下が当たり前の状況で、ラチェットはただ一人黙り込んで行く末も見守ることしか出来なかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数十分が経過し、さらに洞窟の奥へと進んでいく。

 先程のような騎士甲冑のトラップは存在しない。それ以前に罠らしき罠が一切なく、ここまではスムーズに移動することが出来ている。


「ん?」

 先へ進むと、金色のタイルらしきもので形成された巨大な壁。その壁に覆われた大広間へと踏み込んだ。

「やっぱり何かありそうだな!」

 周りを見渡すと、次へと続く道らしきものは一切存在しない。どこもかしこも壁画だらけで出口なんてものが存在しない……まるでコロシアムのような大広間である。

 

 スカルの言う通り、如何にも何か隠されています的な大広間。次第に一同の緊張が高まり始めていく。


「それじゃあ、早速調査に……」

 何か隠されていないか。壁画の怪しいところを一つ一つバギーで回ってみることにしようとスカルは車のハンドルに手を伸ばした。


「……?」

 屋上をラチェットは見上げている。


 シャンデリア。それらしきものが天井の真ん中にある。


「シャンデリアにしては……不自然だナ」

 天井に配置されていたシャンデリア。 

 たった一本のみ存在するそれには……“明かりをつけるための燭台”が一つも存在しないのである。


 真っ白な細長い足が一つ。

 その先には、何かを真っ白なマントみたいなもので隠している謎の物体。


「……!」

 ラチェットは思わず声をあげそうになった。


 ……真っ白い物体は突如として、マントと思われる“鉄製の羽”を勢いよく広げた。

 真下を通過しようとするスカル達目掛けて、その物体は弓矢のように飛んでくる。


「スカル、急げッ!」

 ラチェットはハンドルを奪い取るように身を寄せる。


 間一髪、空からの奇襲を回避……突然のラチェットの行動にスカルは固まったままであるが、それとは真逆にラチェットはパニックになりながらハンドルを握りしめたままである。


「ほほう、これは芸術だな」

 荷台の上からアタリスは空からの奇襲の正体に笑み浮かべる。


 ___真っ白い巨大なコウモリの形をした鉄のカラクリ。

 お宝探しにはお約束であろう、“遺跡のガーディアン”がそこに現れた。

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