1-2  神隠しのウワサ②


 出発前夜。ラチェット達は戦力を把握するために、それぞれ自分たちが出来ることを包み隠さず伝えることにした。まずはラチェットだ。

 ……と、その前に、スカルには話しておかないといけないことが一つある。


「なにぃ!? この世界の人間じゃないだとォ!?」

 あとで面倒な事にならないように例の一件は伝えておかないと。

「この世界の住人じゃないのに、なんで魔法を使えるんだ?」

「それは俺が聞きてぇんだヨ。魔法が使えて、びっくらこいたのは俺の方ダ。コーテナと全く同じ質問返ってきたな。やっぱり」

 魔導書アクロケミスを見せながらラチェットは頭を掻いていた。

「本を使えるのは魔力を持つ者だケ。それもコーテナから聞いている。どうして俺はこの魔法を使えたのカ。どうやったら元の世界に戻れるのカ。俺はそれを探るために旅をしている」

「……何かわからねぇが随分と厄介なことになってるみたいだな、お前」

 スカルは口ではそうは言ってるものの、表情はやはり半信半疑である。

「信じてもらえねぇよなぁ、やっぱり~……俺が現状を信じてないし」

 無理もない。次元を超えて別の世界から人間がやってくるなんて……理論的にも魔法学的にもあり得ないからだ。

「まぁそれが嘘か本当かは後で分かる。ひとまずはそういう事にしといてやるよ」

「嫌々ながらのご理解、感謝するってナ」

 しばらくは変な人を見るような目で見られるかもしれないが我慢である。

「とまあそういうわけ。俺は正面からの戦いになると戦力としては期待出来ない。不意打ちの隙さえ作ってくれれば戦力を削ぐこと位はしてやるサ」

 ラチェットが使えるのはハンドガンにナイフ、手榴弾に催眠銃。

 正面切っての戦闘は不可能だが、不意打ちになら効果的な武器ばかりである。


「次はボクの番だね! えっと、ボクが使えるのは……」

 彼女は独学にて魔法を会得している。

「まずは指先から炎を放てる!」

 遠距離攻撃として使用する炎の魔法。ちなみに攻撃手段以外の方法でも使える為、マッチ要らずの生活が可能だ。

「それ以外は直接相手に電流を流したり、相手にそよ風程度の風を送ったり、片手から冷気を放ったり」

「後半すっげぇ地味だな!!」

 多種多様ではあるが、使用できる箇所が限定的すぎる。魔法使い初心者以下の戦闘力であることをスカルに伝えた。

「……だが、コーテナ。俺はお前の魔法の多彩さには少し驚いたぞ」

 少し異彩な魔法を使うコーテナに注目が向けられる。

「お前の魔法。魔導書は使ってないんだろ?」

「うん、そうだよ」

「マジかよ……それだけの“魔衝フリーク”を持ってるなんて実は相当だぜ?」

 魔衝フリーク。マジックアイテムなどを使用しない『生まれつき覚えている魔法】。その本人が元から保有しているという特殊な魔法。

 簡潔な話、“固有能力”と言った方が話が早い。

 それを複数持っている魔法使いは……世には珍しいのだという。


「あとは磨けば光る。お前達はダイヤモンドの原石ってところだな今のところは……と、なるとだ。ブチまけた話、今のところ最大の戦力は俺様ってワケになるか~?」

「体を固くする程度でか~?」

「うるせぇ!肉弾戦になればスカル様は最強なんだぜ!」

 しかし実際、戦闘慣れしているのは間違いなくスカルではある。ラチェットは口ではそう言ってるが、その事実は悔しいながらにも受け入れるしかなかった。


 奇襲にしか役に立たないラチェット。

 多彩であるという魔衝フリークを持ちながらも、状況が限定されるコーテナ。

 体をカッチカチにできるスカル。

 少しばかり個性スキルが限定的すぎるメンツが揃ったものである。


「光る原石が二つ!そしてダイヤモンドのように固いスカル!ボク達三人が組めば、向かうところ敵なしってところだよね!!」

 コーテナは目を輝かせながら、スカルの背中を押す。

「その通りだ! 戦力は低い俺らでも、あの修羅場を潜り抜けたんだ!」

(自分も戦力低いって本音自白したな、コイツ)

「お前ら!よーく見てろ~!」

 スカルは部屋に置いてあったペンを手に取る。それを三本重ねると、その両端を右手左手でしっかりと掴む。

「一本の棒ってのは簡単に折れちまう。だがこうして三本重ねれば、そう簡単に折れない----」


 ーーーーバキッ。


「「「……」」」


 虚しく筆の折れる音が響き渡ってしまった。

 その筆、いくら位なのだろうか。


「……おい、ばれない様に何処かに隠しておけ」

「ダメだよ! 正直に謝らないと!」

 万が一にでも値が高い筆であったとしたら弁償は免れたいスカル。仮にそうだとしても壊してしまったのだから正直に謝れば許してくれるかもしれないと良い子全開のコーテナ。


(明日が俺たちの命日だナ)

 ラチェットは遠い目で半月の輝く夜空を見上げていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----魔法世界歴1998年8月15日正午。

 任務依頼地、イマキの森。


「そこだぜ!逃がすなよコーテナ!!」

 何でも屋スカルは既に仕事場へ直行。

 依頼されたエリアにてそれぞれの担当区分に分かれる。距離を取りすぎないように一定の間隔を保ちながら、一同は魔物の駆除を開始していた。

「分かってるよ!それっ!」

 コーテナは魔法使いとしては駆け出し。

 しかし炎の魔術はかなり練り上げられている。大型犬サイズくらいの魔物相手なら余裕で倒せるくらいの火力はあるし、近くの木々に着火しないよう調整も出来る。


「ラチェット!お前が一番討伐数少ないぜ!!」

「煽るナ!銃身がぶれるダロ!!」

 ラチェットは拳銃を魔物相手に乱射する。

 人間の姿に化けることが出来る魔物と違って、こうした獣のような風貌の魔物は魔法を使う事もない。拳銃でもどうにかなる。飛び掛かってくる狼やコンドルの魔物も雑な乱射で撃ち落としていく。


「いいぞお前ら!ではリーダーの俺も大活躍!オラァッ!」

 そして想像以上の働きを見せるのがスカルだ。

 体を鋼鉄化させることにより……魔物からどれだけ噛みつかれようと無傷。

 どれだけ引っ掻かれようと無意味。どれだけ殴られようともノーダメージ。昨日の発言通り、肉弾戦になったら彼は無敵なのかもしれない。


「よしっ!そっちは片付いた?」

「こっちは大方片付いた。自己過大評価リーダーはどうだ?」

「大将らしき奴は殴り飛ばした……って自己過大評価ってなんだ!実際、俺様が一番ヘイトを集めてたし、大活躍だったろ!?」

 人力を合わせることで無駄のないコンビネーションとペース配分を行う事で、仕事開始から数分近くで依頼されていたエリアの魔物駆除の大半を終えてしまった。

「……しかしまぁ!やっぱり見込んだ通り! 筋かなりあるぜ、お前ら!」

「やったー! 褒められたー!」

 コーテナは嬉しい声を上げながら、その場で跳ね上がる。

「はしゃぐナ。餌にしてくれと言ってるようなものだゾ」

 コーテナに襲い掛かろうとしていた魔物にラチェットはすかさず射撃する。

「……よっしゃ」

 綺麗なヘッドショット。思いもよらぬクリティカルにラチェットは静かにガッツポーズをする。

 実をいうと、褒められて嬉しかったのをクールで誤魔化しているのは内緒である。


 ……何でも屋一同の仕事の出来っぷり。

 勝てないと判断した数体の魔物がその場から逃げ去っていく。

「よし、これくらいでもういいだろ?」

 何でも屋に与えられた仕事は魔物を追い払い、商人たちの進行ルートを確保することだ。無理な深追いはしない。

「これで全部?」

「あたりにそれっぽいのはいないな」

 他にも魔物が隠れていないのだとすればミッションコンプリートだ。これで今日一日の魔物駆除の給料をゲットだ。


「ん、待って!」

 コーテナは頭の耳を震わせる。

(……どっちの耳も作動してるのか?)

 獣の耳に人間の耳。四つの耳があるから、どれを中心的に使用しているのか変に興味が湧いてくる。今度聞いてみようかとラチェットはその場でソワソワする。

「誰か……いる?」

 コーテナと同じく耳を澄ませてみると、草木が揺れる音が聞こえる。

「おっと。まだ魔物が隠れていたか」

 風で揺れている割には少し音が乱暴で不規則だ。

 音からして、無理やり草木をどけているような音である。

「よっしゃ! お前らはここで休んでおけぇ!ココはリーダーの俺様が華麗にトドメをさしてやるぜぇえーー!!」

 音がする草木の方へとスカルは人差し指を向けた。


 ……響くスカルの叫び。

 それに合わせて、草木の中からその姿は現れる。



「……!!」

 ラチェットは驚愕した。

「「!?」」

 それと同時、コーテナとスカルもその姿を見て驚愕する。




「チッ。感が鋭い野郎だ……」

 苛立った声。人間のものにしては少し粗く澱んだ声。

 口から垂れる酸のようなヨダレ。人間のものとは思えない真っ赤な瞳。

「舐めやがって」

 見覚えのある魔物。いや……がその場で佇んでいた。

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