第3部 { 鮮血の美学〖Renaissance Bloody〗 }

開幕  『巷で噂のカノジョ』



 人間という生き物は脆いものだと思わないか?

 肌はほんの熱で爛れるし、少し鋭いばかりの刃でケーキのように裂ける。

 一滴の酸でいとも容易く溶けてしまうし、あまりに壊れやすい玩具ともいえよう。


「やめてぇええ……許してぇええ……ッ! もう何もしないからッ……! 何もしないと約束するからぁあああ……うぁあああ……ッ!!」

 骨も頑丈そうに見えて、ジグソーパズルのように砕けやすいものだ。人間の体というものは模型そのものだ。薄い。実に薄っぺらい。

 そして命は短く儚い。あまりにも呆気ないものだと思わないか?

「あぁっ……やめてッ! やめてくれぇええええええッ!!!!!」

 人間の命は実に短い。だが----

「人生はその短さゆえに賛美がある。美しく、そして猛々しく、誇らしい」

「おぉおおっ……おおおっ……!!』

「主役の活躍を描いた物語とは、主役の人生の最高潮を描いたものだ。キャラクターの全盛期のみを描いたもの……片手で収まるような書物の中に閉じ込められた小さな物語。それはほんの一瞬の出来事でありながら、あまりに壮大で芸術的だ」

「ひっ……ひぃいいッ!?」

「実に憧れる。そんなドラマのように輝きのある人生に」

「ひぎゃぁあッ……がっ……うぁあぁぁあ----」

 この叫びも。この悲鳴も。命の輝き故に放たれるものなのか。

「私もそうでありたいものだ」

「……お嬢様、お客人が」

 屋敷の外は珍しく大嵐。

 人間一人は布切れのように飛んで行ってしまう災厄相当の悪天候だ。

「可哀想なものだ。運に見放されたか……今行こう。爺や、この場を頼む」

「承知」



 ----少女は一言いい残し、薄暗いベビードール姿のまま去っていく。


「ではお客人。こちらへどうぞ」

「ぐぉおおおお」

 ----カラッカラに干からびた一人の青年。

 亡骸一歩手前の哀れな姿のまま連れ去られていく。


「さて、と」

 これからどのような愉悦が待っているのか。

 少女は考えるだけでも笑みが止まらない。

「私の胸に住み着いたこの退屈を満たしてくれるだろうか……くふふふっ」

 邪悪な精神故の笑みなのか。年相応の少女らしい無邪気な笑みだったのか。


 ----どちらにしても。この時、少女は思いもしなかった。


 この数分後。彼女にとって

 

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