4-1  異世界列車通り魔事件①



 ----この列車は第八車両まで存在する。

 VIP専用の特待個室がある第一車両、バーカウンターの存在する第二車両、食堂の第三車両、そして宿泊用の個室が用意された第四から第六車両。車両を乗せる貨物庫の第七車両と第八車両。

「こっちか!こっちなんだな!?」

「はい、こっちです!!」

 食事を中断した一同は慌てて第八車両にまで移動する。


「こっ、これはァアッ……!!」

 現場まで辿り着いた一同は戦慄のあまり息を飲み込んでしまう。


 ----乗組員の一人が目を見開いて倒れている。

 胸を貫かれたのか大きな風穴が開いている。廊下に飛び散った血の量を見る限り、もう息は絶えている。


「そ、そんな……! あぁそんなッ! そんな馬鹿なことがァアッ!」

 遅れてきた乗組員の一人が必死に遺体の体を揺さぶる。

 胸を貫かれてしまった乗組員は今となっては只の抜け殻だ。どれだけ力強く揺さぶろうとも人形のように首を揺らすだけ。

「おい起きててくれ頼むッ! 目を開けてくれぇええッ!」

 返ってくるはずのない言葉。

 その虚しさ。静粛だけが乗組員に戻ってくる返事だった。


「離れてください」

 乗組員の体が負傷した男の体から引き離される。

「うわぁああ!?」

「……その遺体は重要な現場証拠。変に触って場を荒らされるのは困る」

 乗組員の男は片手で引っ張り上げられたのだ。成人男性であるはずの乗組員は背丈が一回り小さい人影にフワリと容易く放り投げられてしまう。


「失礼する……」

 ----声の主は随分と子供っぽい声だった。


 真っ黒いフード付きのローブを身に包む二人組だった。

 胸には勲章らしき飾りがある。二人組のうち一人は遺体の首元に手を添え、もう一人はパニックになっている乗組員を監視している。


「死んでいますよ。どれだけ声をかけようがもう助かりません。手遅れです」

 見た目に似合う子供のような甲高い声。無慈悲で残酷な結果が伝えられる。

「そ、そんな……!」

 ローブの少年の声に乗組員が肩を落とす。

「ばっ、化け物が突然現れたんだぁっ……明日の予定とか喋っていた俺たちに襲い掛かってきてッ、そしたらコイツは俺を庇ってッ……ぁあああッ!!」

 乗組員の男は震えながら声を上げる。貴族たちも不穏な声を上げ始める。

 人間を襲う怪物。そんな存在……思い当たる節など一つしかいない。


「魔物共めがぁああーーーーッ!!」

 男は怒りのままに口にする。その存在を。魔物という”災厄”を。

「出てこいィッ!! 出てきやがれェエエッ!! ブッコロしてやる!! お前らがッ、お前らがぁああああーーーーッ……!!」

 乗組員の男は怒りを露わにしながら声を上げる。殺された乗組員とはきっと仲が良かったのだろう。近くにあったデッキブラシを手に取って壁を何度も殴りつける。悪霊にでもとり憑かれた豹変ぶりで狂ったように。

「落ち着いてください!」

 エルが男を取り押さえようとする。

「離してくれ! あの魔物をぶっ殺す!! コイツよりも残酷な殺し方でブッ殺してやるッ! 腐ったトマトのようにグチャグチャに磨り潰してやるんだッ……俺達の憎しみをアイツにもブツけてやるんだよォオ゛オーーーッ!!」

 乗組員は狂ったように暴れている。怒りのままに。彼の暴走を止めよう張り付いてきたエルを引きはがそうと咆哮まで上げている。

「あなたは乗組員でしょう!」

「……っ!」

 ルゥの声だった。その一喝と共に現場は途端に静まり返る。

「乗組員である貴方が取り乱してどうするんですか!」

 あまりにも冷酷な言葉かもしれない。

 しかし真実だ。人殺しが起きたこの状況で一番恐怖しているのは事情を知らない乗客たちだ。それを無視するなど乗組員が一番やってはいけないことである。


(……なんか)

(すっげぇ凄い空気……)

 さっきまで温厚だった彼女とは思えない叱責。

 ラチェットとコーテナ、そしてスカルもその迫力に思わず一息飲むほどだった。


「うううっ……!」

 どうしようもな喪失感が乗組員を襲う。

「うぅ……うぁあああッ! なんでだよぉおお……! コイツ何も悪いことしてないんだぜぇ……? いつも真面目に頑張ってたんだぜぇえ……!? それをどうしてぇえっ……こんな理不尽に殺されないといけないんだよぉおおおお……!!」

 泣き叫んだ。友人の死に乗組員の男は力強く泣き叫んでいた。

 それだけこの遺体の男とは熱い友情で結ばれていたのだろう。取り乱すなと叱責されようが、この乗組員は込み上げてくる感情を抑えることが出来なかった。


「俺たちがどうにかする」

 少年はローブの中からあるものを取り出し、それを一同に提示する。

「それは!?」

 ルゥにエル、そして乗客や乗組員たちが驚愕の視線を向ける。それはスカルとコーテナも同じだった。

「?」

 しかしただ一人、少年が手にするその何かに首をかしげるのはラチェット。

 何故一同は途端に黙り込んだのか。美術品の絵画のように喚いていた空気はどうしてこんなにも容易く鳴りを潜めたのか、理解できないでいた。



である我々で対処する」

 少年が取り出しただった。


「僕は【シアル・インサイト】。こちらは【ミシェルヴァリー・マリィシエス】」

 エージェント。俗にいう特殊部隊。


「申し訳ありませんが、貴方達全員この場において容疑者となりました。これより調査を開始いたしますので、我々の指示に従い食堂へと向かってください……魔族の中には小汚い手を使う輩もいる。まだ隠れているのかもしれないのですから----」


 一同はそのライセンスに刻まれた名前と勲章を見て、驚きを隠せないでいた。


 ラチェットは少しずつだが理解した。

 この二人はその見た目ながらも-----そういった組織警察とかの人間、なのだろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----事件勃発後、一同は食堂に集められた。


「ミシェル。怪しい奴はいたか?」

「いなかった。怪しい気配は何一つとしてない」

 後方車両からもう一人が戻ってくる。背丈の小さい少年と全く同じ背丈、声からして少女だろうか。


「既に逃げたか。或いはここに隠れているかの二択だな……そういうわけです。申し訳ありませんが個人での活動は控えていただきます。この事件の犯人が誰か分かるまでは、ね」

 物静かな空気の中、食堂にて一同は息を殺して着席している。

「皆様もお分かりかと思いますが……知能のある魔族は自身の体を人間と全く同じ姿に擬態することが出来ます。我々人間を殺すことを快楽とする不届き者が多いものですので。この言葉の意味はご理解いただけると思います」

 エージェント。そう名乗った少年は一同に待機を命じていた。

 発言から察するに……この中に犯人がいる可能性があると、そう言いたいのだ。


「一人ずつ尋問させていただきます。呼ばれた方から前の方へ」

 偉そうに指示をしている少年少女。


 一人は左右が白と黒で分かれているショートカットの髪。片目が前髪で隠れている少年。

 もう一人は彼とは逆に金と黒のロングヘアー。目元両方が前髪で隠れているため表情が読み取りづらい少女だ。


 二人とも粉雪のような小さな輝きを放つ髪。

 見た目に似合わぬ落ち着いた雰囲気だ。全員、この少年少女を前に大人しく従っている。


「なァ? あいつが見せたライセンスみたいなもの。あれ何?」

 重い空気の中、ラチェットがスカルに問う。

 何となくの予想がついているが、ここで答え合わせはしておこう。

「あぁ? お前、アレが何か知らねぇのか」

(この世界の人間ではないもので……)

 ここでラチェットは思い出す。そういえばスカルには『異世界から来た』事を伝えていない。日を置いて説明しなければならないと反省する。


「あれは使。簡単に言えば『クロヌス全域の秩序を管理する【精霊騎士団】と【国王の一族】』に認められた証なんだ。世界のトップを争う実力を誇る魔法使いの証なんだぜぇ~? 常識だろ~?」

 あの二人は魔法使いのプロフェッショナル。数多くの事件を解決し、騒動を鎮圧してきた最強の魔法使いの一角なのだという。

(なんか聞いたことない言葉が次々と出てきたけど、とりあえずこの世界で一番偉い魔法使いの一人って事でいいんだよナぁ……でもさぁ。どこからどう見ても、見た目は子供なんだけどォ~?)

「次」

 プロフェッショナルの一人がラチェットを見る。


「……」

「ちっ! なんだその目はッ!」

 その小柄な童顔をのぞき込もうとした途端に二本の指が仮面の眼球付近に突き付けられる。あと数センチでも動いたら指が眼球にめり込んでいた

「おわわわっ!?」

 あまりの不意打ちに思わずラチェットは腰を抜かしかけた。

「……お前いま、俺が小柄だって笑っていたか?」

 凄くイラついたような表情をエージェントの一人は浮かべている。

「笑ってねーヨ。小柄とは思ったがナ」

「素直で正直な良い子じゃない。 俺は気に入らないけどな。口で言わずとも表情の微かな変化には気をつけろよ……とはいえ、笑っていないのなら許すしかない」

 怒り方が子供っぽいようにも思えた。 

 小柄だという事。子供っぽいところを笑われたことにイラついていたのだろうか。

「一つ目の質問だ。 お前、名前は?」

「ラチェットだ。そういうお前は……【シアル・インサイト】だっけか?」

 少年の名前はシアル・インサイト。身長が150も満たないその見た目で年齢はだという。

 小学生な身長を見るとサバを読んでいるようにしか思えない。


「微かな表情の変化には気をつけろと言っただろ……やっぱり笑ってるな? お前は俺を『まだ母親から哺乳瓶でミルクを飲ませてもらっているガキ」って!!」

「そこまで思ってねぇよ~ッ!!」

 仮面を被っているから目元は見えないはずなのに表情を読み取るのがうまい奴。

(……それでアッチにいる少女が【ミシェルヴァリー・マリィシエス】)

 誰か怪しい行動を取らないかどうかを見張っている少女。

 背中に巨大な剣らしき鉄塊を背負った彼女の名はミシェルヴァリーだ。彼女また二十二歳。シアルと同じく国家魔法使いだ。


「これから二つ目の質問をする。ここから先、お前に本格的な事情聴取を行うことになる……が、ここで一つ我々から君にやってほしいことがある」

 シアルは指をさす。

「面を向いて話がしたい。その仮面を取ってはくれないか?」

 ラチェットの仮面に指を向けた。

「人前で、人を挨拶をし、会話をするときに帽子とマスクをつけているのはマナー知らずだ。仮面となれば尚更だ。お前が無実であるかどうかを俺に信頼させるため、まずはその仮面を外してもらえることを願っているんだが……?」

「……嫌だネ」

 当たり前のようにラチェットはその提案を拒否する。

「何故だ?理由があるのか?」

「プライバシーだ。個人的の……大切な事なんだ」

「何を隠しているのか、俺にだけ伝えることは可能か?」

「ノーコメントだナ」

 頑なに傷口を見せようとしない。彼は死んでもその仮面を取るつもりはない。

 ……意地でもその顔の傷を見られたくないようだ。

「随分と、反抗的じゃないか」

 シアルは少しばかり不機嫌な顔をしていた。エージェントの指示に従わないその態度。なにより舐め腐っているその態度を最悪に思っているようだった。


「……まさかと思うが、お前が」

「そういえば聞いたことがあるぞ! 私も本で読んだことがある!」

 貴族の一人。少し小太りの高貴な男が仮面を外すことを頑なに拒否するラチェットにぐいぐいと迫る。

「エージェントが言った通り、魔物は人間の姿に化けることが出来る! しかしっ、それを見分ける唯一の方法があるとッ! そうだっ、確かこうだったはずだッ!」

 小太りの帰属はナイフのように人差し指をラチェットの仮面に突き立てる。貴族の欠片もない無礼だ。

「魔族界の住民には”紋章のようなモノ”が体に浮き上がるという! それは魔族である証であり、それだけは変化であろうと隠すことは出ェ来ないとォ~ッ!!」

 ラチェットの仮面に手を伸ばす。

「君のその仮面の下ッ……その紋章があるのではないかねェエエッ!?」

 貴族の男の手が仮面に迫った。仮面を引きはがすつもりだったのだろう。


「コイツッ……!!」

 だがその手はラチェットの仮面には届かない。

「うぉおおっ!?」

 寸前でラチェットはその腕をキャッチ。貴族らしく丁寧にエチケットされた腕を握り返している。

「踏み込むなよッ。それ以上余計なことをすれば俺はお前を殴るかもしれないッ……この仮面にだけは絶対に触れるなッ……!!」

 見えるのは口元と仮面から見える眼球だけ。その目は鋭い睨みだった。

「き、きさまっ。その悪あがきッ……やはり魔族ではないのかねっ!? 正体を現したらどうなのだ怪物がァアッ! 私は由緒正しき英雄の一族の末裔! 貴様のような悪党などッ、本気になれば指先一つで捻じ伏せることなど……きいいっ!?」

 ラチェットの腕は貴族の腕を捻る寸前にまで力を入れている。喧嘩慣れしていないラチェットであれ、喧嘩すら経験したことの無さそうな小太りの初老貴族に握力で負けるはずもない。

「このぉおお……私は屈しないぞぉおおーーーッ!!」

 しかし貴族の男も負けず嫌いだ。無理にでも両手で仮面を剥ごうとする。

「取らせるかっ、絶対に……!!」

 ラチェットは必死に仮面を守る。是が非でも仮面だけは手に取らせない。


「申し訳ないがその手を離してはもらえないか? 」

 シアルの目つきが今まで以上に鋭いのがわかる。

「彼も口にしたが、仮面を外してもらうのは無礼云々の話以前に……お前が魔族であるかどうかを確認するためなんだ。いますぐに離せ、これ以上抵抗するのなら」

 その後ろ、鉄塊つるぎを手にしたミシェルヴァリーが構えている。

「こちらも然るべき処置を取らなければならない」

「そうだぜラチェットぉ~!? お前、魔族でもなんでもない普通の人間なんだろォ~!? だったらその仮面を少しの間外すくらい!? なぁああ~!?」





 -----分からない。ここにいる皆には分からないのだ。

 

 ”あの視線の恐ろしさが”

 ”忌み子を見るようなあの忌々しい目が”

 ”自分を狂わせる。正常ではいられなくなる不愉快なあの目線の雨が”



「絶対に、嫌だネ」


 なんと言われようとラチェットは仮面を外そうとはしなかった。


「そうか、ならば仕方ない」


 シアルは残念そうに片手をあげ、指示を煽る。

 その天罰は---エージェントによる制裁によって下ろうとしている。



「やめてよッ!」

 貴族の腕を横から誰かが掴む。コーテナだ。

「ラチェットに何するんだぁああ!」

「離したまえ! 怪物を庇う気か!?」

「ラチェットはそんなことしない! 人殺しなんて!!」

 必死に抵抗する。だが少女一人で大人の男に対抗できる力があるわけがない。

「なら、君が”怪物”か!? ならば私も出るものがあるぞッ!!」

「……!!」

 コーテナは固まった。

 魔族の娘。人類に忌み嫌われて続けた魔物の血を流す者。その言葉にコーテナの動きはぴたりと止まった。


「……テメェ」

 今の発言、彼女の経緯を知るラチェットが黙っていられるはずがなかった。

「マジで……キレたからな」

 貴族の男が余所見をしている隙にラチェットは思わず拳を突き出していた。

 事情を知らないとはいえ、言っていい事と悪い事がある、と。


 もはや収拾がつかない。

 この場が地獄と化そうとしていた。







「やめないかっ!!」

 





 ----一人の少女の叫び声。

 

「「「!!!!」」」

 コーテナ、ラチェット、そして貴族の男。

 三人だけじゃない。

 スカルも、他の貴族も。

「「……ッ!!」」

 シアルとミシェルヴァリーの二人も……冷や汗を流し、固まっていた。

 全員の時間が凍り付くように固まっていた。


(今の声?)

 声のトーンからしてシアルのものでもない。だからといってミシェルヴァリーのものでもない。

「疑心暗鬼になるのは分かる。しかし決めつけは良くない。何の証拠もないのに人間を怪物扱いするのは英雄の一族として恥じる行為ではないのか?」

「貴方は」

 手を止めた貴族がそっとその声の主の方へ視線を向ける。


 ……【ルゥ】だ。

 まるで人が変わったかのように貴族の男に上からの説教をしている。


「し、しかしだね!?」

「……魔法使いさんヨ。一つだけ頼みがある」

 頭を押さえながら、落ち着いたラチェットは席に座る。

「部屋で頭痛薬を飲ませてくレ……」

「逃げる気かね!」

 貴族の男の忌々しい声が今も頭に響く。

「分かった。俺の同行は構わないな?」

「すきにしろ……」

 これ以上はトラブルを引き起こしかねないと事情聴取を一度中断。シアルは頭を抱えるラチェットを連れて部屋まで連れていく。

「ラチェット……」

 そんな中、コーテナは彼を見つめ続ける。



(自分の心配をしろ、甘ったれの馬鹿野郎が……)

 少女のその心配さえも今の彼には重いものだった。

 愚行に走ろうとした自分への。あまりに心苦しい叱責だった----



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----数分後、ラチェットは自室に入る。

「ここで一分待つ。薬を飲んだら出てくるんだ。怪しい真似をすれば」

「分かってる……直ぐに出てくる」

 そう約束し、扉が閉まった。

 ちなみにだが頭痛薬はない。ただ頭をクールダウンさせたいだけだ。

 衝動のままに暴れかけた事……反省しなければならないことだ。


「……酷く頭が痛い」

 一度仮面を外す。

 忌々しい傷口が窓に映り込む。長く仮面をつけすぎたせいか顔が痛む。

「本当に、酷い面だな」

 窓を見るたび。自身の顔を見るなりラチェットは嫌悪した。

 本当に嫌だった。

 疲れもたまって歪み切ったその顔は歪んでいた。



「……疲れてるナ。視線がゆがんでる」

 眩暈がする。窓に映る自分が二人に見えていたからだ。

 それだけ疲れていたという事なのか。

「……ん?」

 目を擦って一度視線を整えた。



 ----だが消えない。

 窓に映る"もう一つの顔"はラチェットの後ろで怪しく微笑んでいる。


「なっ……!? まさか!?」

 ラチェットは慌てて後ろを振り向いた。

「クケケケケケッ! キシャァアアッ!!」

 即座、近くに置いてあったアクロケミスを手に取り、真後ろにいた”怪物”に反撃しようとしたのだ。

「うぐっ……!?」

 反撃を回避しようと後ろへ跳ねる。しかし避けきれず

 爪だ。日本刀のように長い爪をギラつかせた化け物が笑っている。

 ここは狭すぎる。そして足元が不安定だった。胸にはダメージを受け、安定した回避が出来なかったラチェットは姿勢を崩し倒れてしまう。

「……あがぅ」

 運の悪いコト、ラチェットは真後ろにあった棚の角に頭をぶつける。

 直後、視界が歪んでいく。意識が少しずつ途絶えていく。


「何の音だっ!? お前っ、今ここで何がッ----」

 騒ぎを聞きつけたシアルが中に入ってくる。しかしもう怪物はその場にいない。

「起きろ! おい! 意識をしっかり持て!! オイッ!!」

 ----意識を失いかけているラチェットに何度も声をかける。

「何の騒ぎだァアアッ!?」

 彼だけではない。異変に気付いた一同が一斉に部屋に押し入ってくる。

(……俺、ここで、死ぬ?)

 やがて視界がブラックアウト。





 最後、一瞬に見えたコーテナの泣き顔があまりにも……苦痛だった。

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