2-3 一攫千金と不運なドクロマーク③
……未開の遺跡とだけあり!
「ひぃいえええッ!?」
そんな修羅を乗り越えこの書庫に足を踏み入れたところまでは良し。しかし!目の前に現れた新たな脅威は今までの想定を遥かに超えるものだった!!
「何ィ!? なにアレェ~!?」
遺跡探検の経験がそれなりに多いコーテナでさえこの反応だ。石に姿を変えた書物達は八面体の
「アレ起動した馬鹿は誰ダ~!?」
「知るかぁ! 三人で慎重になってコレなんだから連帯責任だろうがよォお~~~
!! 俺一人のせいにすんじゃぁねぇぞォ!?」
三人とも大パニックだ。突如現れた巨人を前にどうしたものかと焦っている。ラチェットもコーテナもスカルも、誰一人として冷静を取り繕えない。
『####.#####,#####.#######----』
ゴーレムの心臓部分。胸部分でうっすらと顔を出している八面体の
リズムなどに一定性はなく、その電子音はまるで会話をしているような音調で響いているようにも聞こえる。
「コイツ、俺達に話しかけてるのか?」
電子音を鳴り響かせながら赤い文字を表面に浮き立たせている。やがて文字が模様のように体へ広がり溶け込むように消えていく。
「……防衛、開始?」
コーテナがふと呟く。
「認識不可。暫定、侵入者。撤去開始……?」
小難しい言葉。コーテナは八面体の
「どうした? さっきから何つぶやいてる?」
「えっ! 皆には聞こえないの!?」
何故、疑問形なのだ。質問を疑問符にして返すのはあまりよろしくない。
「何が何だか分からないけどあのゴーレム喋ってる気がするよ!? 『今すぐこの場を立ち去れ』って!! 文字で表示して喋ってる!!」
口から出まかせを言ってるようには見えない。こういう状況で冗談を言っている場合でもないことも分かるし、何よりコーテナは嘘をつくような子ではない。
「もしそれが本当だとしたら!?」
「攻撃が来る! 俺たち揃ってペシャンコにするって魂胆だろうヨ!!」
『#####!!!!!]』
ゴーレムは目の前の侵入者に対し、攻撃行動を開始しようとしている。彼女の解読が正解である可能性がより大きくなった!
「散らばれッ!!」
三人はスカルの掛け声と同時にその場で大きく散らばった。
全力疾走で逃げるには充分すぎる大広間……だがゴーレムが暴れることに関しても充分すぎる広さでもある。
「また光り始めたッ!『攻撃開始ッ、侵入者を一人ずつ排除する』って……わかった! あの赤い文字は古代文字だッ! ちょっと歪んで分かりづらかったけど間違いないッ! この古代ゴーレムは古代兵器の一角なんだッ!!」
巨大なゴーレムは赤い文字を点滅させ、またも会話のような電子音を発する。
コーテナが言うにさっきから現れる文字は古代文字らしい。彼女は独学で少しずつ勉強していたからか古代文字が読めるようだ。
『###!! ###!! ####!! ####!!』
電子音が強く響くごとにゴーレムは大きく体を振り回し、守るべき拠点であるはずの書庫の本棚を次々と薙ぎ倒していく。侵入者の排除以外頭にないようだ。
「あんまり調子づいてんじゃねェ! この大きいだけの泥人形がヨォッ!!」
アクロケミス発動。即座にハンドガンを具現させ、暴れまわるゴーレムに発砲。
『####,#####----.##,######,#######』
しかしゴーレムはビクともしない。何かされたことに気付いたのかゴーレムがラチェットの方を振り向く。
「やっぱ鉛玉じゃダメって事かッ……!」
石造りの壁に
『#####.######,######----!!!』
「クソッタレがッ!!」
全力疾走再開。ラチェットが逃げるとゴーレムも動き出す。
このまま立ち止まればゴーレムに殴り飛ばされる。ラチェットは死に物狂いで逃げ回る。しかしゴーレムの方が一歩早い。
「このおっ!! ラチェットをいじめるなぁあーーーッ!!」
指先に
『#####,#####////』
一発の炎の弾丸がゴーレムの頭を捉えた。衝撃を認識したゴーレムの視線が今度は別のターゲットへと視点を変える。
「上手く行った! やーい! こっちだよーーッ!!」
今度はコーテナが標的にされた。囮を引き受けたというのか。
「ったく! 女の子に助けられてばっかの自分が情けないと皮肉を漏らすのが正解なのかナッ!!」
彼女の根性を無駄にするわけには行かない。
「アイツが時間を稼いでいる間に何か方法を考える! ド根性見せたアイツならそれくらいのスタミナはあって当然!!」
安全となった今のうちに奴への対抗策を考えようとラチェットは作戦を練る。
「うわぁああ!? ギブギブギブ!? 待って! おおわぁあッ!?」
「……すぐ助けよう、っと」
----思い出した。そういえばリザードの時も直ぐにバテてた気がする。
デジャ・ビュとはこの事か。急遽予定を変更し、ラチェットは泣いて逃げ惑うコーテナの救助活動へと回る。
(あの図体。動きはぎこちないが走る際の歩幅のリーチは断然土人形の方が有利だッ……あんな巨体を止める手段があるってのか?)
何か良い方法はあるかと必死に頭をねじる。
コーテナは『死んでたまるか』と必死に逃げ惑っている。あのままではコーテナがミンチ肉にされるのも時間の問題であった。
「そこで止まりやがれよぉおお!!」
スカルは鋼鉄化した体でゴーレムに体当たり。
「このガラクタ泥人形がァアアーーーッ!」
一人安全圏に逃げたのかと思ったが……自身の危険を顧みず、コーテナとゴーレムの間に割って入ってきたのだ。
『######!!!!!』
----ゴーレムは大きく姿勢を崩し倒れかけた。
(通じてるッ! 何でも屋野郎の体当たりは通じてるぞッ!!)
鉛玉と火の玉をぶつけた時と比べ、ゴーレムの反応には明らかな差があった。体は傾き、赤い文字の出現と発光は激しくなっている。まるで危険信号をあげているかのように。
『####.#####,#####!!!!』
ゴーレムは反撃のパンチをかましてくる。標的はコーテナの目の前で仁王立ちのスカルに対してだ。
「舐めんじゃねぇって言ってんだろォッ! どいつもコイツもバカにしてんじゃねぇええぞォオオーーーッ!!」
そのパンチに対し、スカルも拳で応答する。
『######////----!?!?』
スカルの腕に殴られたゴーレムの腕が粉々に砕け散る。効いている。パワー勝負でスカルは古代文明の遺産に立ち向かえている。
(すげェ……ッ!穴を掘ってる時もそうだったが、なんつー馬鹿力だッ!! 火事場も火事場ッ! コイツ、とんでもない底力をその身に秘めてやがったッ!!)
これには思わず、ラチェットも言葉を漏らしかける。
『######....!!!!!』
----だが、駄目だ!
八面体の
「おいおい嘘だろぉっ!? 卑怯だろうがよっ、あんなのよォ~ッ!?」
「俺に文句言ってんじゃねぇヨッ! こっちだってそう愚痴りてぇ気分なんだ!」
「また来るよッ!!」
再生した腕を振り回し、再度三人に接近。気のせいか分からないが、その腕はさっきよりも巨大に形成されているようにも見える。
(何か良い方法はッ……並程度の脳みそしかネェが! 何か思いつけッ!)
頑丈なうえに再生能力まで持っているあの泥人形を倒せる方法はないものか。
尻尾を巻いて逃げるのが正解なのか。しかし入り口らしき扉はゴーレムが塞いでいるし、来た道を引き返そうにも……さっきの大暴れの衝撃からか穴がガレキで塞がれてしまっている。
「絶対にやらせないっ! ラチェットに触れるなァアーーーッ!!」
コーテナは炎の弾を何度もゴーレムに向けて連射する。一発でもいい、一発でも致命傷になればと許す限り何発も撃ち込んだ。
「ダメだッ、コーテナ! 効いてねぇゾ!!」
ゴーレムは標的をコーテナに変え、ゆっくりと近づいて来る。
「だけどっ!!」
「一旦下がれ!!」
ここは逃げるが正解だ。しかしコーテナは一心不乱に攻撃を続けている。このままではゴーレムに殴り飛ばされるのがオチだ!
「……根性見せんじゃないの、お嬢ちゃん」
鋼と岩石がぶつかり合う重い音が書庫に響き渡る。
「だったら大人の俺も負けていられないだろうがよォッ~!!」
スカルだ。彼は体を鋼鉄化し、コーテナの盾となって身を乗り出したのである。
両手でガードを強め、指一本でも後ろへ近づけないとその場で踏ん張っている。その肉体はゴーレムの巨大パンチを受け止めた。
「ぐほぉぉ……おおおう……!!」
息が荒い。ダメージなどの衝撃が緩くなってるとはいえパワー同士のぶつけ合いとなればスタミナの勝負となる。スタミナという概念に囚われない無機質な防衛装置との鍔迫り合いの結果なんて簡単に想像がつく。
「お前!! 無茶をするもんじゃねぇ!!」
「いい加減評価を改めさせねぇといけないよなァ……おい泥人形ッ! そしてぇ~ガぁあキ共ォ~ッ!! プロの何でも屋を舐めんじゃあねぇぜぇ~ッ!!」
----ところがこの男。
『#######!?!?!?!?』
なんと根性とプライドで無機質な装置を吹っ飛ばしてしまった。スカルのパンチ一発でゴーレムは数メートルほど弧を描き、向こう側の壁へと叩きつけられる。
「うっくぅうう……」
スカルは思わずその場でへたり込んだ。
「……さっきもそうだったが。なんで俺達を助けたッ?」
彼には依頼がある。コーテナとラチェットを生きて村長に引き渡す以来だ。
だが今は状況が状況。尻尾を巻いて一人で逃げるのが一番の安全策のはず。仕事に囚われてでも二人を守る義理はないんじゃないかとラチェットは問う。
「確かにテメェらはターゲットだ……だがお前らには二つくらい借りがあるからな」
荒い息を吐きだしながらコーテナを見上げる。二本の指を掲げながら。
「俺に飯を恵んだだろ。そんでもって今度は俺達を庇おうとしやがった……まぁ、たまたまガキが近くにいたからだと思うけどよォ……だが恩を返す理由には十分なるだろうがよ……!!」
スカルは荒れる息を必死に整えながら立ち上がる。ここでくたばるつもりはないと意地を見せる。
「……金にガメつい割には案外、性根の熱い奴だナ」
嫌味を吐くようにラチェットはスカルの横に並ぶ。
「味な真似をしてくれるじゃねぇか。見直したぜ? プロの何でも屋さんよォ~」
「はんっ、そういうお前は逃げ回りながら減らず口ばかりだな~? 女の子も頑張ってるってのに性根が卑屈なクソガキじゃねぇの~?」
「悪かったナ。生まれつきなんだ」
この状況でも悪口のぶつけ合い。当然だ。
ラチェット達はこの男に追われる身であり、男はこの二人を捕まえて賞金を得ようとしている。所詮は敵の関係だ。
「……だが汚名返上はしっかりとやる!!」
「共同戦線続行だな! ここで死んだら、一攫千金のチャンスもパーになっちまう!!」
「賛成だナ。ここまで足掻いてゲームオーバーは御免だぜッ!」
しかし今は手を取り合って脅威に立ち向かうべきだ。スカルの了承を得たところでラチェットとスカルはコーテナの方に視線を向ける。
「嬢ちゃんもここで死ぬ気じゃねぇだろォ~!」
「勿論! 皆でここから脱出しようッ!」
----決まりだ。三人はそれぞれ軽い柔軟運動を始める。
ラチェットは軽く首を鳴らす。
コーテナはその場で軽く跳ねる。
スカルは限界に近い自慢の腕に最後の
「……こいつを本体にぶつける」
アクロケミスを発動。林檎くらいの大きさの手榴弾を作り出し、ゴーレムの心臓に視線を向ける。
「おそらく弱点はあそこだッ!!」
「「同じことを考えていたッ!!」」
三人は一斉にゴーレムに向かって走り出す。
『####,#####.######,#,#,####』
ゴーレムは息もなく侵入者の排除を再開。巨大な剛腕がラチェットに向かって振り下ろされる。
「コーテナ頼んダ!」
一度、手榴弾をコーテナにパスをする。
(俺じゃあゴーレムに近づけねぇッ! なら今度は俺が囮になってやるッ!」
迎撃されるのがオチだと分かっていたラチェットは可能な限り接近を狙えるコーテナへと希望を託す。
「オラッ!! コッチを見ろ!!」
そしてゴーレムの集中を引く!アクロケミスで具現化させたのは手榴弾だけじゃない。ハンドガンも同時に出現させていた。
ハンドガンで何度も本体である八面体の
「任された! よーしっ! 行くぞぉおーーー!!」
コーテナは気合を入れてゴーレムに素早く近づいていく。その場で暴れまわるゴーレムの攻撃をかいくぐり、懐に潜り込もうとする。
「このパイナップルの使い方はこのピンってやつを抜いて……くらえぇえーー!!」
止め具を引き抜き、果実程の大きさをした手榴弾をゴーレムの本体であろう八面体に向けて投げつけた。
『#####.#,#####』
ゴーレムの肉体全体が赤い点滅を繰り返す。意識はコーテナへと向けられる。
ゴーレムは爆弾を脅威と捉えその場で大きく後退。止め具の外された手榴弾は標的を見失い、虚しく宙を舞う。
「うっそ避けたッ!?」
「逃がすかよぉオオオーーーーっ!!」
空中を舞っていた爆弾をスカルが即座にキャッチ!
「爆破寸前なんだろうが知ったことかッ! 俺には関係ねぇ話だなァア!!」
そのまま逃げようとするゴーレムの本体に向けて押し付けるように飛び込んだ。鋼鉄化の影響により、爆破の衝撃をスカルは受けない。
『######.....!!』
----直後、スカル諸共手榴弾は爆発する。
爆破の
「やったか!?」
「待て、それフラグッ……!!」
『##,#,###.##,##.#,####....-----!!』
八面体が赤く点滅開始。またも再生する気だ。
赤い文字の表示と同時、砕け散った肉体達が八面体の
「コーテナ!
「分かったぁあッ!!」
即座にコーテナは転がっていた八面体の
「捕まえたぞ! このぉっ!!」
「大人しく……しろぉおおおーーーッ!!」
今出せる最大の電流を八面体へと浴びせた。その手の中の
『###!!! ####!!!!! ##! ###11324dkfdop fidnf coidjfoieaxxx......』
……停止。
電子音も点滅も止まった八面体は……再生を中断し停止した----
「よっ! しゃぁああああーーーー……!!」
ラチェットはがっくりと肩を落とした。疲労が一気に畳み込んできたようだ。
「くっそ、あっちぃい……だが何とかなったな!」
「うわぁーーー!? またぁあッ!?」
「え……あっ!? キャァアーーーーーーー!?」
コーテナの悲鳴が響く。爆発を直で受けたのだ。またもスカルの衣服が吹っ飛んでしまったようである。
「またか? また痴態を晒してんのか?」
「これで隠してください!」
コーテナは目を隠しながらも、書庫に投げ捨ててあった何かの布を差し出した。それはベッドのシーツのように滑らかで質の良いものだった。
「おう、助かる!!」
スカルは布切れをバスタオルのように下半身に巻いた。これでひとまず安心。
「……ん、ちょっと待て」
布切れがあった地点。そこには複数の本がある。
----明らかに今まで見た本と何かが違う。全ての本が不自然な輝きを放っている。
もしかしなくてもそれは……魔導書だった。
全て魔導書だった。
「山分けでいいよナ?」
ラチェットは本をちらつかせながら二人に提案する。
「ああ、構わねぇよ~。ブチまけた話、二人には助けられたからなァ~」
「勿論! みんな仲良く!!」
三人はそれぞれ魔導書を分け合った。
あとは元の場所に戻れるよう頑張って脱出する。そしてこの魔導書が高く売れることを祈るばかりだ。
書庫で軽い休憩をし、三人は改めて移動を開始した----
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