2-1  一攫千金と不運なドクロマーク①


「「「……」」」


 -----本日二度目の再会を果たしてしまう。

 対面にいたスカルは頭を掻きながらラチェット達に視線を合わせる。

 この様子ではスカルが入った部屋もハズレだったようだ。


「「「……っ」」」

 三人とも次の部屋へ向かうために一歩先へと進んでいく。


「……ついてくんなヨ」

「この先から一攫千金の匂いがプ~ンプンすんだよォ~。申し訳ないが独り占めはさせないからな~?」

 無言で先の通路へと進んでいく。同じ方向を同じ歩幅で一切のズレもなく。どうやらこの男もラチェット達と同じ方角に目をつけていたのかもしれない。

「あはは……また会っちゃったね」

「そうなんだよォもうなァ~ッ! 会いたくないって時に限って会いたくなるのは何なんだろうな本当にサァ~!? 幸運を差し上げたり、隙を見て不幸を送り込んだり! 神様はよほど嫌がらせってのが好きなんだろうねぇ~!!」

 コーテナは大丈夫なのかと不安全開で一歩ずつ足を進めていく。ラチェットの不満てんこもりの愚痴を聞きながら。

「そんなに嫌ならお前らが別の場所に行きゃあ良いだけの話だぜェ~! まだ他の連中が目をつけてないところなんて他にもあるだろうがよォ~!」

「なんかムカついてきたんだよ! お前の都合で振り回されるのが! 癪だぜッ!」

 まだ当たりかどうかも分からない通路の先へ、お互いに気を張り合うよう並んで移動する。互いに譲る気はないと進み続ける。

 二人の男子の間には火花がバチバチに飛んでいた。意地を張り始めたラチェットもそうだが、彼を見下ろすスカルの姿もまた大人気なくてしょうがない。

「「んっ!?」」

 進路方向にてラチェットとスカルが同時に足を止める。

「ひぃっ!」

 コーテナは思わず声を上げた。



 ----腐った骸骨が道端で転がっている。


「遺体だ、ナ」

 衣服も微生物による腐乱化が進み、頭には頭蓋骨を貫くようにボウガンのような矢が刺さっている。

「このミイラ。古代人とやらのカ?」

「ううん、違うと思う……まだ新しいよ。コレ」

 古代人は数千年前に活動していた魔法の原初の一族。

 そんな太古の文明を生きた人間の遺体にしてはこの遺体は年季が浅すぎる。腐って古ぼけた衣装も古代文明の人間が羽織っていたそれとは違う。

「この服、古代人が着ていたものじゃない。推測するに十年前くらいの冒険家じゃないかな……即死だ。脳を毒矢で貫かれてる。罠を踏んだのかもしれない」

 頭に刺さっている矢が不穏な空気を匂わせる。学者達に発見される前、この遺跡に挑んだトレジャーハンターが健闘むなしく敗れてしまったのだろう。

「……ちょっと慎重になるカ」

 少しヤケになっていたが冷静になった方がよさそうだ。

 このような罠が何処に設置されているのか。どうすれば作動するのかを見極めなければ目の前の遺体と同じ末路を辿ることになる。

「へっへっへ~。そこでビビったままでいいんだぜ、ガキ共よォ~」

 慎重にならなければまずい。そう思った矢先にスカルは堂々と足を進め始める。

「危ないよ! そんな堂々と歩いてたら……」

 コーテナが彼を呼び止めようとした直後だった。


「おっと!」

 -----何かがスカルの体に弾かれる。

 鋼鉄化。スカルの体は鋼鉄化によりメタルとなる。あらゆる罠にも耐えしのぐ鋼の肉体となっていた。

「そ、そうか! その魔衝フリークならトラップの矢が効かないんだ!」

「そうだぜ! もう無敵よ、無敵!」

 スカルはその場で堂々とポーズを取る。余裕の表情だ。

「今の矢……あそこからかッ!」

 そんな彼を無視し、ラチェットは見逃さなかった。

 スカルが歩いていた通路。そこで何かが作動したその瞬間を。よくみると壁に隙間があり、足元にはスイッチのような窪みがある。

「あの隙間に何かあるナ。中に何があるのか確認したいが……毒蛇の巣穴に腕を突っ込むような馬鹿な真似はしたくネェ。ここから直接、壊してみるカ」

 隙間の中に入る程度の小型手榴弾をアクロケミスで作成する。

「えっ!? 爆破物は許可貰わないとダメだって……」

「言ってる場合かッ。死んだら元もこうもねぇ」

 何の躊躇いもなく手榴弾を隙間の中に放り込んだ。

「ダイジョーブだ。他の連中とはだいぶ離れて奥へ来たみたいだし? バレなきゃルール違反になりゃしネェ。黙って今は悪い子になっとけ。はい、どかーん!」

 瞬間、隙間の中で爆発。

 中で砕け散る音が聞こえる。おそらくだが罠が壊れたのだろう……ボウガンだった何かが隙間の中から外へ放り出される。

「どれどれ」

 スイッチらしき窪みにそっと手を添えてみる。

「何も起きない……やっぱ、コイツを動かすスイッチだったみたいだナ」

「もう! 怒られてもしらないよ~?」

「正当防衛でしたと言い訳すりゃあいい。ほら、次に行くゾ~」

 人間を殺す罠なんて危なっかしいものがあるのだ。

 爆破物を使わざるを得ない状況だったと話せばいいだけの事。不祥事ともなれば、遺跡の事に詳しい考古学者様も許してくれるだろう。

「ちょうど目の前の何でも屋さんが罠の場所を教えてくれてるんだ。ガイドの仕事も快く引き受けてくれる優しいおじさんらしい」

 スカルの背後について行くことにする。

 あの男が歩いたすぐ後ろをついて行けば安全地帯だ。何処で罠が作動するかも分かるし一石二鳥である。

「お前ら。思ったよりも怖いモノ知らずだな~?」

「遺跡探検中は襲ってこないって話だったろ。プロの何でも屋は約束を破るのカ?」

「ツアースタッフとは離れた場所にいるんだぜ? ブチまけた話、ここでお前らぶっ飛ばしておいても遺跡の罠で死んだと片付けることも可能なんだぜぇ~?」

「お前の目的は生きた俺達を連れ戻すことだろーが。遺跡関係なしに下手な真似はできねーヨ。頭ピータンなのか、テメェは」

 自身の頭を指さしながらラチェットは答える。


「テメェよぉ……ちょっとは大人に対して礼儀ってものを見せたらどうだァ~!? 子供相手にはそういうのは気にしないようにしてるがッ! あまり露骨にそうクソガキぶられると流石にムカつく!! えぇ!? 礼儀見せろ礼儀!!」

「だったら礼儀の良い大人っぽいところを見せてほしいなァ~? 自分が上みたいな立場でいやがってムカつくんだ。そう何度もテメーに負けると思うナ。いや負けたのはお前だったカ~? えぇ~?」

「……ちっと社会の厳しさを教えておくべきかァ! その減らず口は潰しておくべきだとたった今、判断することにしたぜェ~!?」

 挑発が過ぎたようだ。手が出せないという状況を利用するにも後先を考えなさすぎる発言だった。


 ラチェットの性格上、引っ込むような真似はしない。

 敵意剥き出しの人間と関わり続けてきた彼にとって、この口調は当たり前のものになってしまっていたのだ。


「お前、うちの遺跡マニアをなめてるナ?」

 ラチェットは言葉で牽制を続けている。

(え、ボク?)

(合わせろ)

 ラチェットが合図を送る。それにコーテナはそのアイコンタクトで頷く。

「こいつは魔法のエキスパートだゾ~。村長とやらには見せなかったが、その気になれば脱出することなんていつでも可能だったんダゾ? 仲間に傷ついてほしくないという一心で、いつは単独での脱出は行わなかっただけだからな!!」

「……そ、そうだぞ! ボクってば本当はメチャクチャ強いんだからね!!」

 勿論、嘘だ。

「その気になったら!お前なんて、ボッコボコのブックブク! なんだからな!!」

(……ブクブク?)

 コーテナは結構な数の魔法を使えるが、どのような状況にも対処できるような威力の魔法は使えない、かなり特殊の状況下で便利くらいな魔法ばかりである。完全に見栄をぶつけているだけ。


 しかし、今。下に出ればそれこそ自身達の身が危ない状況。

 これくらい胸を張らなくてはこの男を良い気にさせてしまうのである。


「現に、お前の対処は簡単だったしナ~?」

「あの時は油断した! それはすっげぇ腹立つが認めるしかないぜ!」

 スカルは敗北を認めていた。あれは確かに油断だったと、自分の迂闊さを真面目に肯定している。

「だが俺は一回ミスったら反省するんだよっ! 誰だって油断の一つや二つはあるッ! だが人間、格の違いってのはその二回目からが重要なんだッ!! 同じミスを何度もする奴は学習能力のないアホって事だ! 俺は同じヘマはしねェッ!!」

 緊迫とした状況が続く。一歩ずつ、スカルとラチェット達は遺跡の先へと進む。

「どうだかな!! 返り討ちにしてやるよ!!」

「やっぱ、ツアースタッフがこっちに来る前にテメェラ黙らせるか!! 」

 ----限界だ。

 最早戦闘は免れないと思ったその時だった。




「さぁ行くぜ! 今度こそ俺の、実力、をみぃ、せぇ------」



「「……?」」

 ずっと耳障りに轟いていたスカルの声が途端に

「……ねぇラチェット。あの人の声」

「急に遠くなったナ……?」

 妙な感覚に見舞われる。

 何故、あの男の声が遠くなったのかと疑問に思う。

「それとさぁ、ラチェット~。なんか涼しくない?」

 それと同時……何故だから知らないが、体全体身軽になった気分にもなる。

「あぁ~、すっげぇ涼しいナァ~? まるで空を飛んだような----」

 ----浮いている。



「「……飛んでる。というか浮いてる。」」

 ラチェットとコーテナは今の状況を理解する。

 ----故に黙って下を見る。


「うぉぁああああああ~~!? おぉおれのふぉおおううがぁああ~~! じぃごくにぃおちてぇええるぅううううううううーーーーーー!?」

 底の見えない暗闇と一緒に、ゴールの見えない闇の中へ真っ逆さまに落ちてるスカルの姿が目に入る。彼は片手を挙げながら涙声で悲鳴を上げていた。

「げっ!これ、ってやっぱり……」

「そういうこと、だよねぇ……!?」

 そして横を見るとコーテナも浮いている。ラチェットも同様だった。


 ----罠だ。話に夢中で落とし穴という古典的な罠に気が付かなかった。


「やっちまったァアアアーーーーッ!!」

 迂闊だった。罠は飛び道具だけとは限らなかったはず。落とし穴なんてベターなトラップも想像出来たはずだった。

「捕まレぇっ!」

 ラチェットはコーテナに向かって指示を出す!

「はい!」

 彼女はラチェットにガッシリと捕まった。

「俺にじゃネェ! アイツにだヨ!」

 軽く彼女の頭を小突いて即座に訂正する。

「あいたっ! えっ、あの人に!?」

「アイツに捕まればチャンスあるぞ! 助かるかもしれない!!」

 ラチェットとコーテナはすぐさま、魔衝フリークの力で肉体をメタル化させているスカルにしがみついた。

「おいぃい!? 俺をクッションにする気かァアア!?」

「鋼鉄化の肉体なら耐えられるんじゃねぇの!? 大人なら子供達守ってやるくらいの気概は見せろってんだ! うぉおああああーーー!!」

 この下に何があるか分からないが仮に何もない地面であったとしよう。その場合、地面に勢いよく正面衝突し、全身の骨が砕けて即席ミンチの出来上がりだ。

 -----だが、この男は鋼鉄化ならば落下の衝撃に耐える可能性がある。

「ご、ごめんなさい! あとでちゃんとお礼はしますから! あっ、村長のところに帰る以外のお礼で!!」

 せめてもの悪あがきとして二人は必死にスカルへしがみついた。助かる手段がこれ以外にないのなら背に腹は代えられない。

「離せっ、このっ!」

「離すかボケェエエエ……!」

 スカルは二人を振りほどこうとするが意地でも彼を離そうとしない。頑固でしつこい油汚れのようにしがみついていた。



「俺だけ痛い目に合わせようなんて!そうはいかな……ぐほぉおおっ!?」


 ----ようやく地面と衝突したような感覚がした。悲痛をあげながらもスカルは無事である。

 痛みは伴っているが骨も体も丈夫となった彼には大したダメージにはなっていない。鋼鉄化の頑丈さは想像を絶する見事なものだった。


「「うっぐっ……た、助かった……!!」」

 ラチェットとコーテナも助かっている。二人揃って安堵で息を漏らす。

「コーテナ、炎を出せ。周りが見えネェ」

 さっきの落下のせいで松明を手放してしまったようだ。新しい松明に火をつけるためコーテナに炎を出すよう仕向けた。

「はい!」

 両手を差し出し、その場で小さな火柱を上げる。火柱はあたり一帯を照らす明かりとなる。


「……ひっ!?」

 空間を照らした直後、またもコーテナの顔が引きつった。

「またか」

 ラチェットも明るくなった辺りの光景を前、分かりやすい程に不機嫌な溜息を漏らした。今のストレスを言い表すかのように。


 ----近くに転がっていたのは白骨化まで進んでいる遺体の群れだ。

 骨や首があり得ない方向に曲がっている遺体が数体ほど地面に転がっている。

 異臭が酷い。足元に水が広がっており、その水も腐っているせいか異臭が漂う。この空間はまるでお城のゴミ捨て場である。

「ひええええ!!」

 ショッキングな映像を目にして驚いたコーテナは一度炎を消してしまう。


「「待て待て待て!消すなァア! 炎よカムバぁあああック!!」」

 大量の遺体が見えた後に視界がブラックアウトすると不安が一気に込み上げる。

 早く火をつけろと、男達の情けない叫び声が響いていた。

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