1-4 ロックでメタルでデンジャラス④
なんということだろうか。
こんな事が起きていいというのだろうか。
「ゲゲゲッーー! 昨日の自称何でも屋ァアーー!?」
昨晩、全裸で放置されていたあの男が何事もなくそこにいる。それどころか彼等と同じように一攫千金チャンスのボランティアツアーに参加している。
「そういうお前達は例のクソガキャァアアーーッ!?」
((まずいまずいまずいまずいッ!!))
ラチェットとコーテナの顔が一瞬にして青ざめる。まずい。これは非常にまずい。全力疾走で逃げる準備を開始する。絶体絶命である。
「ん~? どうかしましたか~?」
突然の騒ぎ越えに反応した学者が声をかけてくる。
「あっ! なんでもないですぜぇ~! コイツが石ころに足を引っかけて転びそうになっちまったんですよッ! そこで俺が助けるために腕を引っ張ったら驚いちゃったみたいで! いや、すんません!」
するとどうだ。
スカルは即座にラチェットの腕を引っ張って嘘を言い出した。
(ざけんなっ! 離せッ! お前もしつこい奴だナッ!? 悪いがこんなところで捕まるわけにはッ、)
(そう元気に騒ぐなッ! 今はお前たちを捕まえるつもりはないから安心しろ!)
(……え?)
ラチェットとコーテナは血気盛んに逃げ出そうとしたがどうだ。スカルは『捕まえるつもりはない』と愉快気に宣告したじゃないか。
「ほら、足元には気を付けなよっ……てなわけで大丈夫なんで!気にせずどうぞ前進しちゃってくだせぇ!!」
「ま、まぁ。大丈夫なら……乱闘だけはよしてくださいね~?」
学者はスカルからの報告を受けると再び前を出して歩き出す。一言警告を残した後に目的地である遺跡のガイドへと戻っていた。
「ていうわけだからさ」
「……どの口が言いやがるッ。信用できっかヨ」
昨晩は間違いなく殺しにかかっていた。有利に立つ者の余裕かと憎らしく言葉を吐き出す。
「嘘はついてねぇよ。ツアーの広告に書いてあっただろ~?【ツアーに同行する際、他のツアー参加者の邪魔にならないようご理解を。手柄を奪う目的での暴力は発見次第、対処させていただきます】ってな。だから手は出さん」
実に残念な話だとスカルは頭を掻きながら前を見る。
「自分から一攫千金のチャンスを見放すどころか、自分から豚箱に飛び込む真似なんてするわけねーだろォ~。普通に考えてよォ~」
この反応。何やら別の目的があってこのツアーに参加しているように見える。
「お前、俺達を監視しにきたわけじゃねーのカ?」
「そうだって言ってるだろ。というか昨日のあの出来事の後だ。とっくに街の外にでも逃げ出してるかと思ってたよ」
「……二つ質問」
ラチェットは二本指を立てて問う。
「お前、あの
「村長の話を聞く限りではお前らは資金に恵まれてねぇみたいだしな。徒歩でそう遠くには行けないだろうし、一日くらいアドバンテージ置かれても余裕で追いつける。そう考えてたのさ」
この言葉は嘘ではないと思われる。
現に彼は事件が起きてから一日も立たずに追いついた。ラチェット達の泊まっている宿屋まで見つける徹底ぶりだ。その余裕ぶりに腹が立ちそうだ。
「次にもう一つ……ズバリ聞く、俺らを追いかける理由は何ダ?」
「言っただろ。村長さんからの依頼だって」
スカルは質問に答える。今まで何の話を聞いていたんだと言いたげに。
「俺が聞きたいのは村長の依頼を引き受けた理由ダ」
追いかけてくる目的は何なのだとラチェットはストレートに質問した。そう必死になってまでその仕事を引き受ける理由は一体。
「そんなの決まってるだろ! 金だよォ~! 金ェ~!!」
((えー……))
あまりにもストレート。ビックリするくらいストレートな返答だった。
「ブチまけた話さァ~! 俺は大金が欲しいんでな! あそこの村長さんは随分と高値で俺を雇ってくれたのさ!! 仕事が成功したら向こう何年は遊べる金が貰える。だから、お前たちを追いかけていたというわけさ」
「んで? 賞金首の俺らを無視してここにいる理由は……最悪俺達を発見できなくても、それをカバーする大金をゲットできるチャンスがここにあるからってことカ」
「察しがいいじゃねぇか」
大金が手に入るチャンスを見つけたら、その前の仕事は放棄する。何でも屋としてどうなのだろうかと呆れたくもなる。
この男に関する危険度は少し下がった気がする。いや、追手であるのは確かなのだから危険であることには変わりないか。ツアーが終われば、また追ってくるだろう。
(チッ!やっぱ神様は信用出来ねぇ!
終わらない苦難の連続に中指を突き立てたくもなった、ラチェットは。
極力はこの男から離れて行動すべきか。遺跡の中での行動パターンを話し合うべきかもしれない。
「なァ、コーテナ」
「……っ」
どこかむず痒い表情でコーテナは地を睨みつけている。
(……あのクソ野郎に金で雇われた奴だ。こう反応するのも無理はない、か)
金。そんな理由で痛めつけられた。被害者側である彼女としては、この言葉に苛立ちを覚えるのも無理はない。
「あとで話がある。遺跡に到着したら、少し耳を貸せよナ」
「……わかった」
少し彼女の機嫌が落ち着くのを待とう。今は何も言わず、しばらくの長距離歩行会を楽しむことにした。
このヒソヒソ話はスカルに聞こえていない。彼は大金を手に入れたらどうしようかとヨダレを垂らしながら色々妄想している。チャンスは幾らでもありそうだ----
徐々にスカルから距離を取り、彼の視界から免れることにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・
----数十分後、ラチェット達はようやく鉱山の奥の遺跡へと到着した。
集いしトレジャーハンターは遺跡に入る前に考古学者から注意事項を受ける。
まず広告のチラシに書いてあった通り。
手柄の奪い合いによる暴動は全面的に禁止。発見次第、取り締まりの対象となる。これは絶対条件であり特に頭に入れておくようにと念を込めて釘を刺された。
そして、もう一つは遺跡内での爆破行為はスタッフの許可が降りてからのみ使用を認めるものとする。まだ未開のエリアということもあり調べたいことは山ほどある。入念に調べ物を終えてから、範囲は徐々に広げていくという事だ。
それ以外にも禁止事項を大量に頭に植え付けられる。
……そんなに不安ならどこの誰かも分からない人たちに頼まなければ良い話のような気もする。調べ物を沢山したい未開の遺跡なのであれば尚更だろう。
学者の話では、現在人手が足りないとのことだそうだ。
背に腹は代えられない。猫の手でも借りたい とでも言いたいのだろうか。
「それでは、始めてください!! どうか皆、安全かつ仲良くです!!」
考古学者のゴーサイン。
一攫千金のチャンス目掛けて、トレジャーハンターが一斉に遺跡の中へ!!
「俺たちも行くカ」
「そうだね!」
ラチェットとコーテナも遺跡の中へと向かう。
遺跡の探検グッズはしっかりと揃えてある。出発前に宿屋で入念に準備をしておいた。それにコーテナは遺跡探検の経験は豊富だという。
ラチェット達の意気込みは完璧であった。二人とも胸を張って遺跡の中へ----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
遺跡の中ではどう行動するか。
一攫千金を狙う輩はあっという間に遺跡の奥へと姿を消してしまった。
単に遺跡の中身に興味があるだけの学者達は事を急がずにツアースタッフと共に呑気な博覧会で楽しんでいる。
「さぁてと、どうするかねェ~?」
その手前、困ったものだとラチェットは頭を掻く。
「一番安全なのは今からでも全力で逃げ出す事なんだよなァ~。一刻も早く、あの何でも屋から距離を置くことだァ……これだけライバルがいるなら宝が手に入るかもわからん。だがこのチャンスはそうそう巡ってくると思えないし、うーむ」
「私は行くよ。危険を承知してでも! じゃないと前に進めないのなら!」
「……だな。金だけ手に入れて、とっととズラかるぞ」
金が沢山手に入るチャンスはおそらくココしかない。ラチェットは遺跡探検のプロを自称するコーテナを頼りに遺跡の奥へと向かっていく。
「罠があるかもしれない。怪しい場所は指摘するから安心して」
まだ誰も通過していないエリアを見定め、そのエリアを入念にチェックする。
一攫千金を狙う輩と同じエリアで探索をしていれば間違いなく奪い合いは勃発する。あんな警告程度、話を聞くとは思えない輩も数名いたのは覚えている。
選んだルートは当たりかハズレか。
ラチェットは当たりを信じて、遺跡の探検を進めていく。
「どう? 何かある?怪しいスイッチだとか、アイテムだとか」
「なんにもねぇナ」
部屋の入り口は幾つか見つけられるが、中に入ってもそれといった代物は見つからない。ハズレを引きまくる。
まだそこまで奥には行っていない。それらしい物が見つからないあたり、やはり相当奥に行かなければ見つからないか。先に取られているのかもしれない。
「同じような部屋がずっと続くナ……前も疑問に思ったんだが、どの遺跡もこんなものなのナ?」
「古代人の遺跡は基本的には住居か研究所。部屋はこういうのが多いんだ」
つまり自分たちが足を踏み入れているのは古代人たちが使用していたマンションみたいなものかとラチェットは理解する。同じような部屋がずっと続いているのだ。マンションと例えた方が早い。
「もっと奥に向かうカ」
「了解!」
ラチェットと共にコーテナは部屋の外に出る。ボーっとしている暇はない。トレジャーハンター達に宝を取られる前に行動しなくては----
「「……あっ」」
すると、何というタイミング。
「あっ」
ラチェット達が探索していた部屋のお向かい。反対の部屋からも誰かが顔を出す。
「……よぉ」
例のファッションのあの男。
何でも屋スカルとの、二度目の再会であった-----
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