1-3 ロックでメタルでデンジャラス③
悪夢の根源である村長から送られた刺客を見事に撃退してみせた二人。
スカルの今後はこの街のお偉いさんが決めてくれることだろう。安心して宿屋へ戻ったわけなのであるが----
「「本当に申し訳ありませんでした」」
そんな二人に待っていたのは宿長への謝罪であった。
当然だ。まだミートスパゲティやデザートのアイスクリームが残っているテーブルを突然ひっくり返し、血眼になって宿屋から飛び出した。
宿長さんからは勿論、他の宿泊者にとっても迷惑であったことは間違いない。下手をすれば営業妨害や器物破損で訴えられる危険性もあった。
「……何かワケがあったみたいだし、誤魔化しておいたからいいものの。全部をどうにかできるわけじゃないから頼むよ~?」
「はい。もう喧嘩はしません……あぁ、あと勘違いなさならいでほしいのですが。テーブルをひっくり返したのは俺達じゃなくて、あのトンガリ頭の男の方です。はい」
(呼吸をするように罪なすりつけたァア)
なんかムカっとしたので罪をスカルに擦り付けておいた。ラチェットのせめてもの犯行である。
『自分たちは何気ない話をしていたが思いがけない一言でヒートアップ、同席していた男が激昂。自分たちはそれにビビッて反撃後に外へ逃げた。』なんて根も葉もない事実を平気で口にしていた。
「だとしてもお店を荒らしたのは事実ですので!! 壊した皿の料金は皿洗いとかお仕事を手伝います!! 」
(本当にごめんなさい……何でも屋のおじさん……!)
頭を下げているコーテナは二つの意味で申し訳ない気持ちだった。
ラチェットは『尊い犠牲であった』と、全裸で放置さた散々な何でも屋の男に対して小声で念仏を送っておく。
「ここ最近魔物の襲撃とか繁殖が多くて誰もかしこも怯えてるんだ。あまり刺激するようなことは避けてくれよ? そうだね、じゃあ掃除とか食器洗いとかを手伝ってもらっていいかな?」
心の広い宿長さんはそれで許してくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
謝罪を終えた二人は部屋へと戻っていく。
掃除も食器洗いも気合を入れてやった。
「今日の騒ぎで長くはココにいられなくなった」
「この辺で遺跡か何かあれば……金を手に入れないとッ……!」
刺客がもうここまで迫ってきたとなれば、もう長居は許されない。あの心の広い宿長さんにもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
遺跡探索をしようかとも考えたがこの辺はシーバ村と違って人の手が多い。ほとんど発掘済みで調査をしようにも意味がないと思われる。
「っかぁあ~、厳しいナぁ~……!」
小声でそう呟いた。今日はいつにもまして胃痛がひどい。さっそく行き当たりバッタリな展開に追われ、ラチェットは悲鳴をあげそうになる。
「ボクに出来ることがあったら何でも言って!」
落ち込むラチェットを見たコーテナは自身の胸を叩いて声を張る。
「お荷物にならないよう頑張る! ラチェットの役に立ちたいんだ!」
「……そうか、じゃあ一つ頼みがアル」
口籠っていたラチェットであったが決意を固めて口を開く。
「今すぐに風呂に入りナッ!」
青ざめた表情でラチェットは叫ぶ。鼻をつまみながら必死の懇願だった。
「凄い匂いだ!! 何日風呂にはいっていなかったんダ!?」
「えへへ、お屋敷にいた時はお風呂に入れてもらえなかったから……」
「……だろうとは思った」
油虫がウヨウヨしている上に卵の山すら放置している牢獄に放り込まれていたんだ。お風呂には入れてもらえていないだろうと察していた。
すぐ近くにいると鼻を刺激するような匂い。周りのお客さんも匂いが気になったのかヒソヒソ話が酷く目立った。
変に注目を集めたのもそれが理由。というか早いうちにも指摘するべきだった。
「ここは個人でシャワーあるからッ! ほらっ! 入るッ!」
個人の部屋に一つ一つ用意されたバスタブがある。魔族の娘である証明の耳や尻尾を公に見せる危険性は皆無だ。無料で貸し出ししているタオルケットと石鹼を手に取り、彼女を半ば強引に脱衣所へと押し込んでいった。
「了解であります!」
敬礼をしたコーテナは脱衣所の扉を閉めた。
「あと、これも持っていけ。服の匂いを少しでも落とせよナ」
「繰り返し感謝であります!」
ついでに部屋においてあったアロマキャンドルらしきものを手渡すことにする。
良い匂いを広げる以外にも悪臭をもみ消す効力もあるようだ。部屋に置いてあった案内ガイドらしき書物に書いてあった。
「キャンドルを近づけすぎるなよ? 服が燃えて火事となったら俺は友人に顔向けできねぇ。もう一度会えるかどうかは知らんがナ」
「同じミスはしないよう気を付けます!」
もう一度扉を開き、アロマキャンドルも受け取るとコーテナは浴室へ入ってく。大惨事にならぬよう釘も刺しておいた。
「やれやれ……なんて一日ダ……」
ラチェットは仮面を外し、フードも剥ぐと頭を掻きむしる。
----風呂があるのは助かった。
「パソコンとかそういうのはないが……シャワーはあるんだナ?」
科学的な代物はないと思ったが以外にもシャワーは存在した。
「シャワーだけじゃない。外には車らしきものも走っていたし、街灯にも電気がついていた。どのような原理で動いてるんだ? やっぱり俺のいた世界とそう変わらないのか……うーむ。謎は深まるばかり。俺は学者じゃないから頭が痛くなることは嫌いだぞォ~……」
こちらの世界と変わらないものなのか。それとも魔法が存在するファンタジーな世界なのだから魔法を駆使したトンデモテクノロジーで動いてたりするのか。
コチラの世界に数少なく存在する科学のせいで余計に頭を痛める。
「まぁそれは置いといて……さーてと、どーするかネェ……」
それよりも明日の事で頭がいっぱいだからだ。
一文無しの状態で明日からどう過ごすのか。遺跡など金を稼ぐ方法がなかった時の保険を見つけ出すことが出来るのか。ラチェットはテーブルに顔をうずめ、深くため息を漏らしていた。
「万策尽きる前に終わっちまいそう……何かお恵みはないものか……」
現実逃避でしかないが、暇つぶしに宿屋のガイド書物に手を伸ばした。
部屋のこと以外にも街の名物などをページいっぱいに書いているようだが……何か良い情報を得られないだろうか。
一週間。それどころか一ヵ月や一年。
食費にも困らない一攫千金のチャンスがあるなんて旨い話がないか。そんな微塵も見えない希望を想像しながらガイドを開く。
「……ん?」
ページを進めるラチェットの手が止まる。
「んんん!?」
----まさか。こんなことが。
神様は存在するというのか。
「これは……もしや、もしやじゃないかァ~ッ!?」
ページを大きく見開き、ラチェットは大声で叫んだ。
「ねぇ、ラチェット~。櫛とか置いてない? 髪をほぐしたいというか」
浴室から声が聞こえる。自分で取りに来るという選択肢はないのだろうか。既に衣服を脱いでしまってるから手間のかかる状態なのかもしれない。
「はいはいーっと。オシャレが大変なもので……」
文句の一つでも垂れ流しながらラチェットはベッドの上に乱雑で置かれていた美容品を回収し、彼女のいる浴室まで持っていく。
「おら、持ってきたゾ~」
そして何の躊躇いもなく扉を開いた。彼女が衣服を脱いでいるかもしれないという考慮をしてたのにも関わらず。
「うわぁあっ! 普通に開けてきたぁッ!?」
コーテナはすぐさまその場にあった石鹸を手に取る。それは本当に目にもとまらぬ豪速球。
「くらえーーっ!」
「うぐぁっ!」
見事、彼の額に石鹸は命中。そのまま眩暈を生じさせて、勢いよく後ろへ倒れこむ。手放した櫛が空中で虚しく舞うように広がった。
「おわっととと……よしキャッチ! そんで隠す!!」
宙を舞っていたタオルをすぐに回収し、すぐさまコーテナは体を隠した。
「入ってくるならノックをしてよ! というか女の子が服を脱いでるって分かってるんだから普通は扉をちょっと開いて渡すものじゃない!?」
倒れているラチェットを指さしながら、顔を真っ赤にして説教を始める。
「いや裸なら前にも見られてるし。あんまり気にしてない様子だったから見られても平気なのかな~って思ったりしまシテ」
「あの時は状況が状況だよ! 見られるのはさすがに恥ずかしいよ!」
自分はそんな露出狂でもなければ変態でもない。
異常な性癖は持っていないと必死に断言する彼女は年相応な女の子。やっぱり全裸を見られるのは抵抗があるようだ。
「それは悪かったナ。あとでお詫びに何かしてやるから許しておくれ」
横になったままラチェットは謝罪する。
「もう! 櫛、ありがとう!」
お礼を言ったかと思うと勢いよく扉を閉めてしまった。ちゃんとお礼を言える礼儀正しい女の子だ。
胸がすっとしたラチェットは異常に痛む額を冷やすために氷嚢を貰いに行くことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----魔法世界暦1998年8月11日。
「みなさーん、集まりましたか~?」
翌日、街から離れた鉱山地帯にて考古学者らしき初老の男がその場に集う人達に号令をかける。
「それでは遺跡探検ボランティアツアー!これより開始いたします!」
「「「「はーいッ!!」」」」
その言葉に一同は一斉に返事をした。
まるでお祭りのようなイベント。テンションの高い声が四方八方から聞こえる。
「ねぇラチェット? 昨日、シャワーの後に聞いた一攫千金のチャンスって」
「あぁ、こういうことだ」
その人だかりの中にはラチェットとコーテナの姿もあった。
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鉱山地帯の長い行路を二十人近くの老若男女が歩いている。
先行する学者肌の若者、トレジャーハンターという第一印象を浮かべそうな盗賊や冒険家……そしてガラも頭も悪そうな粗暴の悪いお兄さん方が集う。
そして通りすがりの自称冒険家。ラチェット&コーテナもその一味に加わる。
「街から数百メートル地点!ソーア鉱山にて新たな遺跡を発見!」
彼等がやってきたこの場所。その名は【ソーア鉱山】。
「発掘活動のためにボランティアを募集します。珍しい古代品を見つけた方には特別懸賞金などを付与いたします、ってね!」
何故このような鉱山に来たのか。
こんな人込みに揉まれながらも文句ひとつ言わずについて行っているのか。それには理由がある。
「いやぁ実に運が良い!はっぴーはっぴーはぁっぴーっ、ってやつだナ!」
昨晩、ラチェットが読んでいた宿屋ガイドの書物の最後のページにこんなにも運よく求人の広告が見開きにドンっと書かれていたのだ。それが理由である。
「文字通り一攫千金のチャンスってワケだね!」
「俺達のために用意されたプレゼント……ありがたいったらありゃしない! 久々、天に向かって『ありがとうございます』と両手を重ねたもんだっ!!」
まだ人の手が及んでいない新たな遺跡。そこでお宝を発見すれば、それなりの額の懸賞金を与えるとのこと。
ラチェットはすぐさまコーテナにこの話をし、チャンスを無駄にして溜まるかと宿長のおじさんに駆け込んだわけである。このボランティアツアー参加のやり方を聞くために。
「それにしてもラチェット。これが仕事の求人ってよくわかったね?」
ちなみにラチェットはパンフレットの文字を読めていない。コーテナに読んでもらたのだ。
「ドーンと数字が書かれていたからナ。仕事の求人の可能性が高いと踏んだ」
「結構金にガメついね」
「死に物狂いでほしいからなッ!」
予想通り、あのページはお金を稼ぐチャンスの予告だったと彼は歓喜した。
見事、ボランティアツアーに参加したラチェット達は同じくして一攫千金を狙う夢多き若者や老人達と共に遺跡へ向かっているのである。
「お宝、見つかるといいね~」
「そうだナ。ちゃんと宿長のおっさんにもお礼をしたいしナ」
これでお宝とやらを手にすれば、しばらくは生活に困らなくなる。多少の生活費くらいは財布に入れておかないと不安で顔が萎れてしまいそうだ。
「しかし来たのはいいものの・・・・・・問題は一攫千金が手に入ったりするものかネ。競争相手が思ったよりも多いことだ」
「そうだよねェ……そう簡単には行かないかも」
ラチェットは軽い不安を漏らす。コーテナも同様の不安を抱いていた。
「そりゃあそうだ! 未発見の遺跡は宝の山ッ! ブチまけた話よォ~、カスはともかく綺麗な魔導書が手に入りでもしてみろ? その地点で勝ち組ってもんよ! 額次第ではお屋敷一つ買えちゃうかもしれないんだぜ!」
そんなラチェットに対して、背中を押すような心優しい男の声が聞こえてくる。
「となれば皆も必死になるし競争も激しくなる……でも、その競争を抜けきった先の喜びったらありゃしないぜ!一攫千金の喜びを勝利の美酒で飲み干すその瞬間……どうだ?やる気、出てくるだろ~?」
声は横からだった。ラチェットとコーテナのすぐ横を歩いているこの男も同じくして一攫千金を狙っている
----男は度胸。やはりこういったチャンスに挑むのも当然と言った話だ。
「……ん?」
しかし、だ。
直後、悪寒と共にラチェットはその場で固まる。
「アレ、今の声……」
聞き覚えがある声だ。さっき聞こえてきた男の声。
「「あっ」」
二人は一斉に声を上げる。
「あっ」
昨日と同じダメージズボン、特徴的な皮ジャケットを纏い、露出している胸元には髑髏のタトゥー。横にいた男もラチェットたちの姿を前に声を上げる。
----何でも屋のスカルだ。
昨晩以来、早すぎる再会を果たしてしまったものだ。
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