2-2 コイツはまさに大迷惑②
一難去って、ようやく安全地帯。
二人に一時の休息が訪れる。
「この直後に……こう、っとな」
頭の中でさり気なく妄想する。
「あぁあ~、今、ハンドガンとかが必要なんだよナぁ~。昼食は肉が食いたいからナぁ~。肉質ムッチムチの鳥を撃ち落とす銃が出てきたりしないかなぁ……なんて」
ハンドガンが欲しい。そんな願望を紫の本片手に口にしてみる。
「するとどうだ。あら不思議、だナ」
----紫色の本が閃光が強まった。
光が引っ込んだかと思うと、ラチェットの右手にハンドガンが出現していた。
「やっぱり出てくる……欲しいと思ったものが、ボンっと」
----頭の中で妄想を浮かべる。
すると突然紫の本は光りだし、妄想の中に現れたものが出現する。
リザードをどうにか対処できないものかと考えていたときも、『拳銃の一つでもあれば』・『あいつの腹をぶっ飛ばす爆弾とかあれば』的な事を妄想した。
その途端に二つの武器が片手に握られていたのである。
「確定だナ、やっぱり武器はこの本から出てきやがる」
何度か試してみたが、ハンドガンと手榴弾が欲しいと想像するたびに本が光っては出現する。その数、計六回。
本から距離をとって妄想してみると出現しない。この紫色の本がラチェットの願いを叶えた張本人であることが確定した。
(もしかしたら魔導書かもしれねぇ! しかも俺はそれを使いこなしてるっ!)
持ち主の妄想した武器が現れる本。やはりコレは魔導書なのだろうか。
(だが出てくるのは拳銃と手榴弾くらい。トンデモ兵器は微塵も出る気配がネェ)
手榴弾とハンドガンをその場に置き、一度両手を天に掲げ体をほぐす。
「それ以前に食い物とか家具とかも出てこない。ちょっとした武器が出てくるくらいだぜ。コレ……?」
ハンドガンと手榴弾は想像した瞬間に出現する。
ただし重機関砲やレーザー砲、ロボットなどに搭載されていそうなプラズマキャノンだとかミサイルだとか徹甲弾だとかは想像しても現れない。
----ちなみにだがナイフは現れた。
それ以外の刃物は出現しない。日本刀も南蛮刀も、自身の身長を遥かに超える
「これが魔導書っていうやつなのかどうか……まあ、後でボチボチわかることか」
「ねぇねぇ、ラチェットさん?」
コーテナが後ろから声をかけてくる。
「どうした?」
「この果物は何ですか?」
それは質問だった。何やら果物らしきものを拾ったらしい。
(うーん。果物か何か落ちてたにしても、俺はこの世界の果物の知識なんて一切ないんだゾ……腹は減ってる。食えるものなら是非とも食わせてほしいもんだ。夢かもしれないのに腹もちゃんと減りやがって、チクショウが)
食べられそうなものかどうかは目を通してみる価値はある。ラチェットはちょっと期待をもって振り返ってみる。
「この黒い小さなパイナップル、食べられるんです?」
……振り向いた途端、悪寒の走る光景が映り込む。
「何か変な枝もついてますけど」
---手榴弾を握りしめ、ロックであるピックに何度も触れるコーテナがいた。
「あっ」
枝、もといピックが抜ける。
「あっ」
枝を失った黒い小型のパイナップルは彼女の腕の中。
「うわぁあああーーーーーーーーーーッ!?!?!?!?!?!?」
ラチェットの背筋が勢いよく凍り付く。
「うおわぁあああーーーーーーーー!!!!!!」
そこからは意識もせずに体が動いた。体の危険信号のみで無意識に動いた体はコーテナから手榴弾を奪い取り、即座に数メートルほど先へとぶん投げる。
人間は危機を覚えるととんでもないパワーを生み出す。プロ野球選手顔負けのフォームで投げられた手榴弾は猛スピードで二人のもとから離れていく。
「ひえっ……!?」
コーテナは思わず変な声が出た。
----直後、空中で具現する真っ黒な花火。
真っ黒の果実は真っ赤な華を咲かせたのである。
「……うわぁあああ」
「バカかテメェ!?」
コーテナの体を取り押さえる。
「痛い痛い痛いッ!?」
そのまま、十字固めで締め上げていく。
コーテナに対する説教方法。ビンタにゲンコツ、それなりの方法は頭に浮かんでいたがそんな生ぬるい方法で済ませるものかと考える。
「爆弾をっ! そんな危ないものを素人が触るんじゃありませんッ!!」
素人が何か言っている。
ラチェットは更なる関節技で絡めていく。身長差はそれほど無いものの力の差はある程度あったのか……いとも容易くコーテナを捕縛できた。
「ギブギブギブギブ!! 本当に何なのかわからなかったんだってぇええ!!」
コーテナも悪意があったわけじゃない。
彼女は手榴弾が爆弾だと知らなかった。無知であるが故の窮地であった-----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----数分ほどの休憩を終え、二人は再び歩き出す。
「これはね、鉛玉を発射するの。んでアレはピンを抜いたら爆発するの。分かりましたかいナ?」
歩いている最中にラチェットは自分が使った武器の解説をしっかりしておく。
「鉛玉を放つ拳銃?」
コーテナは首をかしげる。
そのリアクション……まさかこの世界、拳銃が存在しないというのか疑問。
「こうやって弾丸を入れて引き金を引いて撃つだけ! 常識だぜ?」
彼はミリタリーオタクではない為に拳銃の知識は豊富じゃない。そのため見たまんまのアバウトな解説しか出来ない。だが銃はそれくらいの説明でいい。
しかしどれだけ説明してもコーテナはポカンとしていた。
「もしかして、拳銃知らないのカ?」
「いや知ってますよ? でもボクの知ってる拳銃と違うような気がして」
「知ってる拳銃と違う? どーいう意味だ? 弾丸を組み込んで発砲するだけの道具にそれ以外が存在するのかァ~?」
「だってほら……拳銃って魔力を組み込んでエネルギー弾を発射するマジックアイテムですから。こうやって鉄の塊を飛ばすだけの拳銃は見たことなくて」
なんという事だ。この世界の拳銃もまたマジックアイテム。
弾丸を使用せず、魔法弾などを放つことが出来る便利なアイテムだそうだ。
「こんな感じの拳銃は存在しないのカ?」
「見たことないですね。だってここ最近で見かける野生動物や魔物とかに効かなそうですもん。玩具ですよ、こんなの」
(玩具っ……!?)
玩具! 彼の呼び出したアイテムはこの世界では玩具扱い!!
この世界では弾丸なんてBB弾とかビー玉くらいの威力しかないという事なのか。魔法という存在が当たり前の世界ではガラクタも同然だというのか。
「この武器は紫の本から出てきたってことでいいんですよね?」
「そうだろうナ。あれから何度も試して結果は変わらなかったし。確定だ、たぶん」
ラチェットは『魔法は使えない』と正直に語っている。この本を使って、とある行動をしたら何かが起きた。そう告げていた。
「あのぉ、えっと……」
「やらんゾ」
「まだ何も言ってないんですけど」
「目が先走ってんだよ、今から言おうとしたことをヨォ~」
紫色の本片手にラチェットは、あっかんべーをする。
もしかしなくてもこの本は魔導書の可能性が高い。お宝だ。
おそらくコーテナは『その魔導書を譲ってほしい』と言おうとしたのだろう。視線が完全に本に向けられていたし、視線からして『欲しい』と思っているのが丸わかりだった。
「コイツは俺が見つけたんだッ。どうするか否かは俺に権利があるっ」
「そ、そうですよねェ……はぁ……仕方ない、早い者勝ちだよねぇ……」
心底残念そうにコーテナは肩を落とす。申し訳ないが譲るわけにはいかない。
この魔導書とやらは持っていて損はなさそうだ。役に立つかどうかは別として、古代の魔導書というだけでも高値で売れたりするらしい。
使うにしても、売るにしても今後の生計に役立つ。そう考えていた。
……この世界。夢かもしれないけど。
「……貴方は学者さんなんですか? 妙な武器に変に詳しかったり」
「異国の武器商人及び考古学者です。どうも」
異国どころか別の世界から来たわけなのだが。
何処かもわからない世界からやってきた何者かなんです、と自己紹介したところで白けた空気になりそうだし、頭の心配をされそうだったからソレは避けた。
出来る範囲。申し訳なく嘘で誤魔化すしかなかった-----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----数時間後。彼等は何の目的もなく歩いていたわけではない。
彼らは”村”を目指していた。そこはコーテナが住んでいる村だという。
「なんでさっきは魔法を使わなかったんだよ。あの炎でバーッと焼いちまえば解決だったんじゃねェのカ~?」
「あはは……実はアレくらいの小さな炎しか出せなくて……あっ、つきましたよ!」
人の住んでる場所に行きたい。とにかく今は寝床が欲しい。
一休みできる場所がないかとラチェットが彼女に告げたところ、歩いて数時間の場所に村があるとのことでそこで休んだらどうだろうと提案してきたのだ。
(今日はひどく疲れたッ……さすがに休むっ! んで眠って次に目を覚ました時には元の世界かもしれない! そう祈るしかネェ!!)
コーテナが住むこの村の名前は【シーバ村】。安値の良い宿がそこにあるそうだ。
「これ宿代です!」
宿屋に泊まるためのお金をコーテナが手渡す。
「いや待て待て。さすがにココまでしてもらうわけには」
「今日一日ボクを助けてくれたお礼です! お気になさらず!」
なんと笑顔の眩しいことか。コーテナは満面な笑みを浮かべながら背を向ける。
「では、これで!」
金を返すよりも先に----コーテナの背は見えなくなっていった。
「……ま、いっか。どうせ夢かもしれないんだし」
年下であろう女の子からお金をもらう。この上なく複雑な気持ちではあるがコレ以上の深追いをしようと思わなかった。
実際死ぬほど助かった。この世界の単価とやらを彼は手にしていない。実をいうと遺跡で何個か拾い物をしていたので換金できないかと金策をしていたが……思わぬ形でまたも救いの手を受けることになった。今は素直にお礼をし、その恵みを満喫することに。
「それじゃ……休むとするか」
----時は既に夕刻。夜になる前にチェックインすることにしよう。
ラチェットはコーテナから手渡された宿屋の料金片手、村にそびえる古ぼけた宿屋へと向かっていった。
----彼は知る由もない。
この旅、この冒険は今日で終わるどころか。
まだ、プロローグでしかないということに----
【第0章 序章 終わり】
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