第4話
「……
彼女の右腕──詳しく言うなら第一関節の辺り──に、痣らしき何かがあった。
幅が一センチより少し短いくらいの痣が、ぐるっと右腕を一周している。
その痣には色が付いていた。赤とピンクが交差しているのがハッキリと分かる。
色は全く薄くない。それどころか、色白の一色の腕で一際目立つ状態だった。
「なんだこれ……」
「そう思うよね。だから隠してるんだ」
なるほど。彼女が頑なに長袖を着ていたのはこれが理由か。
彼女は着たくて長袖を着ていた訳じゃない。着ざるを得なかった。だから暑さに耐えきれず歩みが止まり、倒れてしまった。そんなとこだろうか。
あまり見ないで、と一色は痣を隠す。俺も慌てて彼女から離れた。
だが新たな疑問が浮かんだ。それは当然といえば当然な疑問だが。
「この……痣? これが出来た原因は?」
「うん……多分ね……」
俺は彼女の口から、知らない病気が出てくると思った。
しかし彼女が告げたのは、予想とは少し違うものだった。
「これ……思春期症候群だと思うんだ」
「ししゅん……何て?」
思わず聞き返してしまった。
一色は「詳しくは知らないけどね」と前置きしてから話始める。
最近ネット上で話題になる不思議な事。
声が急に高くなったとか、気がつくと時間が一瞬で何時間も経っているとか、怪しい物もある中で、身体中から血が流れる等の、日常生活に支障をきたすような物まであるらしい。
発現者は今のところ皆学生であることから、「思春期症候群」と呼ばれてるらしいが……詳しいことはまだよく分からない。
「それで私のこの痣もその一つと思って……だって変でしょう? こんな痣、見たこと無い」
確かに。一色もそれではないかと思うところはある。
ならこの痣が出来た原因は?
考えてる俺を見て、一色は袖を戻してベンチを立った。
「心配かけさせた? ごめんね。でもいいよ」
皆には黙ってくれる? と一色は言った。それはつまり彼女と秘密を共有するということだ。
それは少し──いやかなり嬉しい。だが……
同時に、少し嫌だった。
この秘密をさっさと解いて、彼女を楽にさせたかった。
そう思った瞬間、俺の脳裏にとある光景が映し出される。
数週間前──夏服解禁日。一色が長袖を着てきた日。
あの日一色は……
…………
違う。注目すべきはそこじゃない。
もっと──それより前に──
…………
………………………
「あ」
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