第3話
そして話は冒頭に戻る。
一色咲夜は今、近くの駄菓子屋前にあったベンチ(屋根付き)に座った俺の膝に頭を乗せている。
念のため首筋には、駄菓子屋で買った二本のラムネを俺が手に持って、首を挟むような形で当てている。
……色々訳が分からない。
ただ、この時間がもう暫く続いてほしいとは思った。
「ん……」
すると、一色の方から声が漏れた。
ほどなくして、彼女が上体を起こす。片手で頭を押さえているのは、まだ頭が回転してないからだろうか。
「あれ、私……」
とろんとした目で辺りを見渡す。そして隣にいた俺を見つけて、視線を止めた。
ヤバい。心臓がまたドキドキしてきた。一色とは話したことはおろか、こんな風に目を合わせた事なんか無い。というより女子とそんな経験したこと無い。
堪らず視線を外す。すると一色は「あぁ、君は……」と言って俺の名前を呼んだ。ひょっとすると、俺の名前を思い出せなかったのかもしれない。
俺は努めて平静を装い言った。
「よぉ、目が覚めたか。大丈夫か?」
しかしこれは理想なので、現実には、
「よ、よぉ。め、目ぇ覚めた? え、だ、だいじょ、ダイジョブ?」
と聞こえただろう。しかし一色はちゃんと意味と状況を把握してくれたようだ。
「そっか……私倒れて……」
「あ、あぁ。びっくりしたよ。目の前でフワ~って倒れていくからさ」
迷惑をかけたね、と苦笑いする一色に、手に持たラムネを差し出す。
一色はすぐに理解したらしく、笑顔で一本受け取りそのままラムネに口を付けた。
ここでフッと笑って俺もラムネを飲んでたらそれなりの絵にはなったかもしれないが、残念ながら俺はその時「あの唇さっきまで目の前にあったんだよな」としか思っておらず、その時の思い出がずっと脳内を反復横跳びしている。あぁ男子高校生の
一色はそのままラムネを一口で半分まで飲んだ。
「喉乾いてたのか?」
「うん、今日暑いしさ。あ、ラムネありがとね。後でお金返すよ」
「いや……いいよ別に」
安いし、と言いかけて、俺ははたと気づいた。
今……暑いと言ったか?
俺は一色の服に目を向ける。
一色は白い長袖を変わらず着ている。袖も捲らずに。
俺は冷え性だからとか思ったが──違うのか?
ちゃんと暑いのか? なら何で──
「何で長袖を。って顔に書いてるね」
一色はその声で、俺の視線を強制的に顔へと向けさせる。
「知りたい?」
一色はいたずらっ子のような顔で俺に訊ねる。
ここではい、と言うのは一瞬の躊躇いがあった。
でも、この一色咲夜という少女の神秘性と俺の好奇心が勝った。
俺が頷くと同時に、一色は右腕の袖を捲った。
そこには──
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