第2話

 そして今日。一色はまだ長袖を着ている。

 初めは色々言った連中も、今では一々言わなくなった。既に興味は夏休みに向かっている。


 だが俺は違った。

 だって今も暇だと『何故一色咲夜は長袖を着続けるのか』と脳内に浮かんでくるのだから。


 何故かは分からない。

 だから俺はその理由を確かめるべく、その日一色咲夜の行動を追跡してみることにした。

 え? 気になるなら直接聞けば良いじゃないかって? ……そんな度胸があると思うか?




 授業が終わった一色は、さっさと教室を出ていく。俺もその後を追う。

 彼女は俺に気づく様子もなく、学校沿いの大通りを数メートル歩いた後、角を曲がって人通りの少ない路地に入っていった。

 彼女は景色や空には目もくれずに前を進む。


 何か急いでいるのか……? それとももっと別の理由があるのか? 例えば……



「あっ」



 そんな声が耳に入った瞬間、俺は意識を引き戻された。

 余計なことを考えて、目の前に人がいるのを気づかなかったようだ。

 前の人は前のめりに、俺の眼前でアスファルトの地面へと向かっていく。


 反射的に俺は相手の腕を掴み、そのまま足を前に出して相手の体を抱え込む。

 無事に惨事は止められた。思わず息を吐こうとして──そのまま固まった。



 俺が受け止めた女性は──

「…………」

 その時風が吹いて、女性の顔にかかった髪をほどいていった。



 今、俺の腕の中で一色咲夜が目を閉じている。

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