第23話 ロボット映画4
ロボット映画
4.
僕、シミズさん、キムラさんと続いたので、次は順番通りにテツさんの番かと思われたのだが、テツさんはそんなに映画を見ない人らしく、僕達に紹介出来る映画は無いと言った。
「別に私達が見た事のある映画でも構わないんだぞ」
とシミズさんが提案するも、
「面白い映画なら3人の方が知っているし、どうせなら俺が見たことない映画の方が見たいから」
とテツさんは返した。
僕自身は面白いと思う映画は何度も見返したいタイプだったが、テツさんの意見もまた同様に納得が出来る。だって今は悠長に同じ映画ばかり繰り返して見ていられない状況下だから、同じ映画ばかりを見るよりも、多くの作品を見た方がより良いと考えられるのは当然だった。
そうすると僕が死ぬ直前に見る映画はどうすれば良いのだろう、とふと思った。何度も繰り返し見て、予め面白いことを知っている映画を見て最後を迎える方が良いのか、それとも有名な傑作の中から先の展開も全く知らない映画を選んで見て、1つでも多くの傑作映画を見てから最後を迎える方が良いのか、僕にはまるで分からなくなってしまった。数日前までの僕だったら、自分の人生の最後には今まで見てきた中で一番面白かった映画をもう一度見て、死ぬ瞬間を迎えようと思っていたのに、今はシミズさんやキムラさんが紹介してくれるであろう、僕の知らない映画の数々も見てみたかった。ひょっとしたら僕自身の決めた好きな映画ランキングを塗り替え、最後に見るにふさわしい傑作があるかもしれないのだ。
僕が頭をうーんと唸らせていると、キムラさんがさっきまでの悲しげな表情とは裏腹に、
「まぁ一旦休憩して、そこから次見る映画決めますか」
と明るく言った。
僕達は午前中だけでも映画を立て続けに3本見ているので、時計を見ると既に正午をとっくに回っていた。
僕はキムラさんの指示の元、人参や玉葱、ジャガイモを一口サイズの大きさにカットし、火にかけた大鍋へと入れていった。そこに鶏肉を加えて、ルゥと牛乳を入れて煮込むと、徐々にいい香りが漂い始め、僕達のお腹を刺激させたのかキュウと誰かの腹の虫が鳴った。
完成したシチューはとても美味しそうで、残りの枚数が徐々に少なくなってきた食パンを浸して食べると、更に美味しさが増したように感じた。
「私なりにテツ君の意見を考えてみたんだが……」と一足先に食べ終えたシミズさんが口を開き、
「面白い映画って一体何なのだろうな?」
と言った。
根底から覆すような発言に驚いたのか、キムラさんが口に含んだシチューを吹き出した。
「シミズさん、真顔で冗談言うの狡いっすよ」と口元を拭ったキムラさんが笑いを堪えながら返した。
「いや、冗談を言ったのではないよ。私は私なりに面白い映画を見てきたつもりだが、中には到底傑作とは言えない駄作も数多く見てきたんだ」
だがね、と顎をさすりながらシミズさんは言葉を続ける。
「だがね、そんな駄作を中には面白い傑作だと評価する者もいたんだ。ストーリーが無茶苦茶で強引な展開だろうと、アクションに見所が無く微妙だろうと、俳優や吹き替え声優の演技がイマイチだろうと、どんなに他者から駄作だと酷評されようとも、それらの映画を好む者は少なからずいたんだ」
としみじみと、しかしはっきりと鮮明にシミズさんは語っていった。
「私達の中でも面白い映画の根底は異なるものだろう。例えば私はスターウォーズの中ならルーク・スカイウォーカーよりもアナキン・スカイウォーカーの方が好きだし、彼が活躍するエピソード1から3までの方が、私としては面白い映画だと言えるんだ」
とシミズさんが言葉を区切ると、
「ちょっと待って下さいよ。1から3までって、スターウォーズのメインストーリーは4から6ですよ? ましてやアナキンなんて調子に乗って闇堕ちするじゃないっすか」
とキムラさんが若干食い気味にシミズさんの意見に突っかかった。
「っていうか1から6もいいけど、何だかんだで7からの新作版も面白いし、何なら8は神がかって面白かった」
とテツさんも黙っていられないと参戦する。
「はぁ? 7からの新作の方が良いとか、テツはホント映画の見る目無いよな」
とキムラさんが辛辣に言う。その言葉にムキになって掴みかかろうとするテツさんをどうどうとシミズさんが間に入って止めた。
「君はどうなんだ?」
とシミズさんが僕に聞いてくる。僕は若干戸惑いながらも
「えっと……ローグ・ワンですかね?」
と苦笑いながらも返したところ、3人から同時に白い目を向けられた。シミズさんまでそんな目で見てくるとは……と僕は少し傷ついた。
その日は結局、スターウォーズなら誰が一番格好いいか、誰が一番魅力的な女性かなどで僕達は談議し、会話は深夜になるまでヒートアップしていった。
スターウォーズ談議の中で、僕はふと思った。
面白い映画ってこうやって誰かと語り合うことが出来る作品のことなんじゃないかって。
常に辛辣で、僕の面白いと思う映画に酷評を付け、自分の好みに真っ直ぐな彼女とまた映画が見たいなと。
そしてそんな彼女をギャフンと言わせてやる様な作品こそ真に面白い映画で、僕がきっと最後に見るに相応しい映画になるんだと。
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