第22話 ロボット映画3

ロボット映画

3.

次にシミズさんが勧めてくれた映画は「エクス・マキナ」というものだった。映画内では、発達した人工知能を搭載した女性型ロボットが、人間の様に振る舞い、主人公である男性エンジニアのケイレブは試験テストとして女性型ロボットと面談していく中で、徐々に彼女に対してロボットではなく女性として惹かれていくといった内容だった。

僕は作中のヒロインであるこのロボット、エイヴァが何処かアフィに似ている所があった事から、彼女と照らし合わせたりしながら見ていた。

物語の後半で、エイヴァは自身の感情といったものをはっきりと持っている事をケイレブに告白し、施設からの脱走を望んで助けを求める。ケイレブはエイヴァの持つ心や感情は本物なのか、それとも製作者によってプロミングされているだけに過ぎないのかと疑いながら、好意を寄せる彼女に対して協力するようになっていく。

果たして主人公はエイヴァの脱出に協力して、彼女と共に脱出が出来るのか、改めて感情や心とは一体何なのだろうかと、深く考えさせられる内容に、上映が終了して数秒ほど、観客席はシンとした静寂な空気になっていた。

「どうだったかな?」

とシミズさんが切り出し、此方に視線を送ってくる。珍しく目が爛々と輝いており、自分の好きな映画について語るその様は、何処かアフィを思わせた。

「ヒロインに当たるエイヴァが何というか……」

まるでアフィのようだったと、言葉を繋げそうになって思いとどまった。今日一日は彼女の事を保留にして、ゆっくり休むと決めたばかりだ。

僕が上手く表現が出来ず、他の言葉を探していると、

「エイヴァがアフィそっくりだった」

とテツさんが呟いた。僕は再び空気が静まると思ったが、予想に反してシミズさんもキムラさんもそうだなと深く頷くだけだった。

「でもアフィと比べて、中が丸見えでセクシーだったな」

とキムラさんがジョークを言う。その発言にアッハッハとシミズさんは豪快に笑った。

「確かに、アフィは性格こそ女性だが、ボディはエイヴァほど女性的に作らなかったからな」

と笑いながら上機嫌な様子でシミズさんが返す。

作中でのエイヴァは人間そっくりの顔と手を除いて、胴体などの他の部分は機械のパーツが露出しており、傍目は少し不気味にも見えるのだが、確かに女性的で不思議な魅力を持っていた。

「……エイヴァの抱えていた心は、本物だったんですかね?」

僕のやっと出てきた感想に、シミズさんは穏やかな表情で

「感情や心といったものは、時間や環境によって勝手に生まれる……というのが私の見解だな」

と何処か遠くを見るように、そう言った。

ロボットやアンドロイドでも勝手に心や感情を持ってしまう、即ち本物だとか偽物だとか、そういったものでは無いのだと、僕は噛み締めるように納得した。

「さて、まだまだ見るだろう?次の映画をセットしに行こうか」

とシミズさんが話を切り替えると、じゃあ次は俺が、とキムラさんが立ち上がって、上映室へと向かった。

続いてキムラさんがセットした映画は「チャッピー」というタイトルだった。

「お前さんは『第9地区』は見たことあるのか?」

と僕の座席の隣まで戻ってきたキムラさんが聞いてくる。

第9地区は以前アフィと一緒に見て、珍しく彼女と意見の合ったエイリアン映画だ。

「えぇ、見ましたよ。とっても面白かったです」

「じゃあ気にいるだろうな」

とほくそ笑むキムラさん。何でも第9地区と同じ監督で、しかも主役のヴィカスを演じていた俳優が、本作のチャッピーのモーションキャプチャーと声を担当しているという。

仲のいいコンビだよな、とキムラさんが笑うと同時に、スクリーンに映像が映し出され始めた。

舞台は近未来のヨハネスブルグ、犯罪が頻繁に起こる街中を人工知能の半分積んだロボットが警備しているといった世界だった。

そのロボットを製作した主人公、ディオンは新たに人間の知性を完璧に模倣した人工知能を開発し、人間のように感情や考えを表現できるロボットを製作しようと試みていた。だが、彼の思惑とは裏腹に会社の上司に製作を止められてしまう。

諦めきれないディオンは廃棄寸前のロボットを拾い漁り、新たな人工知能を試そうとしたところ、犯罪を起こそうとしていたギャングの3人に誘拐されてしまう。

半ば脅迫されながら、その場を切り抜ける為に、ディオンは拾ってきた壊れかけのロボットに新しく開発した人工知能をインストールする。

新たに生まれたロボットはチャッピーと名付けられ、ギャング3人達をまるで母親と父親のように慕うようになり、彼らが借金返済の為に繰り返す犯罪に、チャッピーは産まれたばかりの赤子のように、純粋無垢にギャング達を信用して協力するようになってしまう。

そんな中、ディオンが人工知能を作り上げる才能に嫉妬した同業者の男、ムーアはディオンの開発し、街中に配備されたロボット達にウィルスをばら撒いて制御不能にし、代わりに自分の手柄として売り込む為に自作した攻撃ロボット「ムース」を用いて、ディオンの警備ロボットが動かなくなった事で街中に溢れかえるようになったギャング達を、警備と評して制裁していく。

チャッピーもまたウィルスの被害に遭うが、ディオンの手によって修復。修復されたチャッピーは赤子だったはずの頃と比べてはるかに成長しており、驚異の学習速度を持っていた。その学習能力から自身の壊れかけのボディでは寿命が少ないことを予測したチャッピーは、敵の攻撃ロボット、ムースに使用されている脳波コントロールを利用することで、意識をコピーして別の物に移し替える機械を自分で開発する。

しかし、ギャングと攻撃ロボットのムースに襲撃され、育ての親であるギャングの内の2人は無残に殺され、ディオンも致命傷を負ってしまう。

チャッピーは瀕死のディオンを抱え、ディオンの意識をロボットへと移す事を決意するも、工場には攻撃ロボットのムースの製作者であるムーアが、瀕死のディオンにトドメを刺す為に待ち構えていた。

チャッピーは成長した学習速度から、育ての親であるギャング達やディオンを襲った襲撃の主犯がムーアである事に気付き、彼を容赦なく力でもって叩きのめす。「なぜ人間同士で争いあうのだ」と彼を含めた全人類を罵りながら。

そしてムーアを生かして逃した後、チャッピーはディオンの意識を別のロボットへと移すことに成功する。

無事にロボットの身体となったディオンとチャッピー、そしてギャング3人の中で唯一生き残った1人と共に、死んでしまった仲間の意識の入ったUSBチップを使って、新たに意識をロボットへと埋め込み蘇生しようとするところで、物語は幕を閉じた。

上映が終わると

「やっぱり機械のボディになりてぇな」

とキムラさんが冗談めいて笑っていた。

その横顔は笑っているのに何処か悲しそうで、スクリーンよりも先を見据えるような瞳からは、静かに一滴の涙が伝って流れていた。

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