第21話 ロボット映画2

ロボット映画

2.

彼女が居なくなってから数日が経過しようとしていた。

あれから僕はシミズさん達と協力して、4人で手分けをして、閑散とした街中を朝から晩まで探し回った。

僕が初日に向かおうとした大学、フラフラと歩いた夜道、朝焼けを共に見た歩道橋、シミズさん達が隠れて潜んでいたショッピングセンター、何処も隈なく探したが、彼女は見つからなかった。

本当の彼女の事を知れた今だからこそ、僕はもう一度彼女と会って、また一緒に映画が見たかった。この映画もあの映画も、まだまだ彼女に紹介したい映画が沢山あった。ハッピーエンドばかりで、どうせつまらないと一蹴されたとしても、彼女と感想を語り合うあの瞬間に戻りたかった。

だが、彼女の姿は街中の何処にも無く、朝から探し回って、昼に映画館に戻り休憩をして、日が暮れるまで探し回る日々が何日も続いていた。

そんな日が続いた事もあり、僕らは限界に近かった。ひょっとしたらもう彼女は何処か遠くへ行ってしまったのかもしれないと、僕らは発言こそしなかったが、諦めが混じりつつある空気を漂わさせていた。

彼女が居たら何て言うんだろうと僕はふと考える。でもその答えは容易に想像がついた。

「映画が見たいわ」

きっと彼女ならこう言うだろう。

そんな考えが伝わったのか、彼女が居なくなってからちょうど1週間が経つ日の朝、いつものよく通る声ではなく、少し疲れの混じった掠れ声となったシミズさんが

「今日1日は、みんな休暇を取ろう。私達人間は休まずに動き回れる程、丈夫ではないからね」

と提案してくれた。

その考えに、僕達3人も賛同した。

このまま探し続けても見つからないなら、映画を見る事で、彼女がいつのまにか戻ってくれていたらいいのに、と僕は淡い期待をしていた。

いつのまにか彼女がいる、そんな状況が前にもあった事を思い出し、僕はとある映画を思い出した。

「そういえば、シミズさん達は『Future』ってもう見ましたか?」

「Future」は今月になってから公開された映画で、僕が彼女と出会う直前に見ていたSF映画だ。

あの時の僕は久しぶりに感動する内容に夢中で、いつのまにか入ってきた彼女が、すぐ後ろの席で眠っていたことに気付かないくらいだった。

「いや、前は頻繁に映画を見ていたんだが、こんな身なりになってからは見てなくてね」

とシミズさんは自身を指差して、自嘲気味に笑った。

「それ、面白いのか?」

キムラさんが興味あるといった口調で聞いてくる。テツさんも見てみたいと僕をじっと見ていた。3人ともここ数日、探索で疲れていた為か、今は少しだけリラックスした表情が浮かんでいた。

「僕は面白いと思うんですけど、彼女にとってはイマイチだったらしくて……」

「だとしたら、傑作間違いなしだな」

キムラさんの冗談に僕達は笑い、僕は数日ぶりに上映室のパソコンを立ち上げ、「Future」をセットし、プロジェクターが正常に作動しているのを確認してから、観客席へと戻った。

僕は以前と同じ、ド真ん中の特等席に、右にはキムラさんとテツさん。左にはシミズさん。そうして見た2時間は、知っているはずの場面でも、以前よりもずっと胸が高鳴って、内容も数倍面白く感じた。

「アンドロイドの反逆か……何というか、こうして実際に私が体験する側にいるとはね」

シミズさんがエンドロールを見ながらしみじみと良く通る声で言う。

「昔は考えたりしなかったですか?」

僕は少しだけ気になって聞いてみた。

「あぁ。実際にテクノロジーが発展していく中で、恐怖を感じる人は多かったかもしれないが、私達科学者ってのはどうも楽観的でね」

「まぁ昔からよくある題材っていうか、議題っていうかですもんね」

とキムラさん。その話から、天才と称される車椅子の理論物理学者、ホーキング博士が生前、人工知能の発展を恐れていたと、僕は何処かで目にした事を思い出した。

「今日一日は彼女の事は一旦保留にして、楽しもう。きっと映画に釣られて彼女も帰ってくるさ」

よく通る声が復活したシミズさんが、珍しくウキウキとした足取りで上映室へと向かう。きっと本当に映画が好きなのだろうと僕は改めて思った。

僕はふと映画館の天井を見上げて彼女を思う。

彼女は今頃何処にいるのだろう?

やはりあの時、シミズさん達の制止を振り切って追いかけるべきだったのだろうか。

この1週間、ずっとそんな風に考えていた僕だったが、映画について語り合うシミズさん達の姿に、僕の心は少しだけ落ち着きを取り戻しつつあった。

次の映画をセットしたぞーと、シミズさんの低い声と共に、照明が落ちてスクリーンに映像が流れ始めた。

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