第11話 ファミリー映画4

4.

「許せない奴がいるから殺して欲しい。明日もまた同じ時間に来るから、それまでに頼みを聞くかどうか決めて欲しい」

そう言い残して男性達は、もう一度頭を地面に擦り付ける様に土下座をしてから、そのまま暗い街中へと消えていった。

「殺して欲しい」

男性達が去った後もその言葉が僕の脳内で反響し、しばらくの間、僕はその場に立ち竦んでいた。

「そんなところで何をしているの?」

美しい音色の声で、後ろから彼女が僕を呼んだ。

「あっ……いや、別になんでもないよ……」

僕は掠れた声で無理矢理笑って誤魔化すとキュウとお腹が鳴った。気分を変えようと遅めの食事を摂ることにした。厨房の冷蔵庫を眺めて僕は夜食のメニューを考える。

「メニューは何かしら?」

彼女が髪を揺らしてそう尋ねた。

「材料的に、サンドイッチしか作れないかな」

「そう。スクランブルエッグを作るなら、任せて頂戴」

「丁重にお断りさせてもらうよ」

僕は彼女に二の腕を抓られながらも、昼の時と同じようなサンドイッチを作った。

カットするのも面倒なので、食パンに挟んだ大きさのまま、僕は口を大きく開けてかぶりついた。

「ねぇ、君は何も食べなくて大丈夫なの?」

ふと、目の前で眺めているだけの彼女の事を思い、僕は聞いてみた。

「さっき眠ったから、バッテリーには余裕があるわ」

どうやら彼女はスリープ状態に移行するだけで、内部でエネルギーを貯蔵できるらしい。充電や発電といった事は必要無いのだろうか?

「つまり食事は必要無いと?」

「いえ、バッテリー量が低下すれば補給として水分や炭水化物を摂取して、エネルギーを合成するわ」

「すごいね……それって殆ど人と変わらないじゃないか」

純粋に僕は思った事を口に出していた。だが、それを聞いた彼女は悲しげに目を伏せた。

「私はどんなに頑張ったって、人にはなれないわ……」

「あっ……ごめん」

僕は思わず反射的に謝ってしまう。彼女はやはり人間と差別化されるのは嫌なのだろう。だから僕は助け出された以降も、彼女に対して「ロボット」といった単語は避けるように心掛けていたのに、ついつい言葉はこうして漏れてしまう。彼女はハァと小さく溜息をして、

「別に平気よ。ところで何か隠してる事あるでしょう?」

と切り返してきた。

「へあっ!?」

予想外の切り返しに僕は驚きの余り、サンドイッチを落としてしまい、間抜けな声が出てしまう。彼女は長い睫毛をした眼差しで、こちらをジーッと見つめてくる。

「こういう時、何て言うんだったかしら? あぁ、そうそう『顔に書いてある』って言うのよね?」

まるで獲物を仕留める算段を楽しみながら考えているといった表情で、彼女はこちらを見ていた。正直、ホラー映画より怖い。

「……僕、そんな顔してるかな?」

震えた声で何とか発言すると、彼女は吹き出して微笑んだ。

「フフッ、冗談よ。正確には、さっき貴方が扉越しにあの男達と会話しているのを見てたのよ」

「みっ、見てたのっ!?」

またしても驚きの事実で、僕は拾い上げたサンドイッチを再度落としてしまった。もう食べられないだろう。

「えぇ。会話は聞き取れなかったけれどね。扉を開けて入って来たら、またぶっ飛ばすところだったわ」

彼女は手の平を閉じたり開いたりといった動作を見せる。

「それで、何を話していたの?」

彼女は真っ直ぐに僕を見てくる。その目は青く煌めいて、僕の目に映った。

「実は……」

僕は先程言われた頼みと、明日の夜にまた来るという事をポツリポツリと話していった。僕が話している間、彼女はジッと何かを考えているかのように、顎に手を添えて目を閉じていた。

「……という感じなんだよね」

僕が話し終えると、彼女の瞼がゆっくりと開かれ、次いで口も開いた。

「わかったわ。その頼み、聞いてあげましょう」

透き通るような美しい声で、彼女は男性達の殺人計画に同意した。

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