第12話 脱獄映画1

脱獄映画

1.

翌日、朝から暗い雲がかかっており、その隙間から雨がポツポツと降っていた。昼になって目が覚めた僕が上映室へと向かうと、彼女は既に先に来ており、パソコンを使って、数々の映画をリストアップしていた。

「このリストは何?」

「私がまだ見てない映画の中で、気になった映画よ」

「どれどれ……えーっと、あれ?『ショーシャンクの空に』って見てないのか?」

「見てないわよ。そんなに面白いの?」

「うん、そりゃあもう。後悔させない、良い映画だよ」

「ふーん……貴方がそこまで言うなら見てみようかしら」

つまらなかったらデコピンねっと半ば脅されたりもしたが、僕は「ショーシャンクの空に」をセットして、彼女と共に観客席へと向かった。フィルムが回りだし、スクリーンに徐々に映像が浮かんでくる。

僕はその僅かな間、昨日の男性達の事を考えていた。

「殺して欲しい人がいる」

脳内で、再び声が響き始めたような気がして、僕は思わず頭をブンブンと振って声を振り払った。

「そろそろ始まるわ」

彼女の美声に頭のシェイクを制止され、僕は意識を目の前の映画へと集中させた。

「ショーシャンクの空に」はなんと、映画史上最も胸糞悪い「ミスト」と同じ監督による映画で、所謂、脱獄映画だ。だが、これは知らないで見た方が絶対に面白い。そして、「ミスト」よりも断然に面白いと僕には思えた。

ある日、主人公のアンディは妻とその愛人を射殺したという冤罪を掛けられ、終身刑を下される。必死で無実を訴えるも虚しく、劣悪だと評判の悪いショーシャンク刑務所へ送られてしまう。

悪辣な環境下で、荒くれ者の囚人から暴行を受け、全治一ヶ月の怪我を負ったりするが、彼には何人かの友人が出来る。鉱物採集の趣味から知り合ったレッド、50年も服役している老囚人のブルックス、アンディの後に入ってきた新人のトミー、アンディは若くして銀行店の副取締だった経験から、囚人達からも、刑務官からも一目を置かれる存在へとなっていった。

最悪ながらも平穏な生活を送っていた彼だったが、ショーシャンク刑務所の劣悪さは徐々に増し、彼に牙を向けていく。

老囚人のブルックスに仮釈放が決まった日、アンディはブルックスを励まして仮釈放を勧めるが、ブルックスは長年服役していた為、外の世界に馴染めないといった恐怖心から、首を吊って自殺してしまう。

また、新人のトミーもアンディから読み書きを教わって、高校卒業資格を得るまでに更生したが、アンディを憎む主任刑務官の腹いせで、代わりに射殺されてしまう。

他の囚人達はショーシャンク刑務所の余りの非道さに絶望していく。アンディもまた、冤罪で最悪の環境に落ち、落ちた先で出来た仲間も失っていく中、彼だけは諦めずにずっと希望を持ち続けた。

そして嵐の夜の晩、彼が冤罪で服役して約20年の時、彼は鉱物採集の趣味から昔に取り寄せた小さなロックハンマーで、遂に壁に穴を開通させる。ようやく見たその空は暗い豪雨の中だったが、彼にとってはこれ以上ない天候だった。そして彼は刑務所所長の不正蓄財から金を引き出すと、ショーシャンク刑務所の劣悪で非道な様を新聞社へと告発状を送り、彼自身はメキシコへと逃亡する。

告発状からトミーを射殺した刑務官は逮捕され、不正を働いた所長は拳銃で自殺。やがて、その後も唯一服役し続けたレッドも、仮釈放の際にメキシコへと向かい、アンディと再会を果たして熱い抱擁を交わし、物語は終わる。

あぁ、やっぱりこの映画は脱獄する事を知らない方が面白いなと僕は思った。今となってはありきたりだが、アンディは壁の穴をポスターで隠していた。これを知った時、僕はなんてスゴいトリックだと驚いた程だ。

さて、彼女はどうだっただろうと横を見た時、僕は思わず息を飲んだ。

彼女は泣いていた。ポロポロと零れ落ちるその涙は、スクリーンの光がキラキラと反射して、とても美しく僕の目に写って見えた。

「……えっと、大丈夫?」

「えっ? あぁ、ごめんなさい……」

彼女は僕に言われるまで、自分が泣いていた事に気付いていなかったようだった。

「そんなに感動してくれたなら、お勧めした甲斐があったよ」

「……えぇ。本当に、素晴らしい映画だわ」

震える声で、しおらしく答える彼女の頭を、僕は壊さないように、そっと優しく撫でた。

溢れ出る涙を拭うことなく、スクリーンを直視する彼女のその様子は、僕よりもずっと人間らしく写った。

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