第7話 ゾンビ映画4
4.
目を覚ますと、僕は倉庫のような一室で、両手両足をロープで縛られ、口元をガムテープで塞がれ、拘束されていた。
入る時に一瞬見えた人影だろうか、おそらく別の誰かが最初からいて、僕はその人からしたら食糧を奪おうとする邪魔者として見られていたのだ。そりゃあ殴って止めに来るか。と拘束され監禁されている状況なのに、僕は意外と冷静だった。後頭部がズキズキと痛むが、出血はしてないようで、周りに血液らしい跡は無かった。
今、何時だろう。彼女は目覚めただろうか。拘束されてどのくらい経ったのだろう。腕や足に力を込めるも、ロープは頑丈に結ばれており、僕は倒れた姿勢からひとまず状態を起こした。拘束された状態ではうまく立ち上がれないので、僕は背中側で腕を組みながら正座といった姿勢で部屋を見渡す。目に映るのは簡素で殺風景な部屋で、これといった特徴もない普通の倉庫といった印象を僕は抱いた。
はぁと僕は溜め息を吐く。結局、自分のいる場所がスーパーのバックヤード的な空間にいることがわかっただけで、出入り口となる扉は一箇所のみ。その他のことはわからずじまいだった。
こんな時、ブルース・ウィリス(ウィルスではない)なら映画「ダイ・ハード」さながらの脱出劇を繰り広げるのだろうが、僕は彼のように行く先々で事件に巻き込まれた経験も無く、彼とは違って鍛えたりしていない僕の身体ではロープの拘束を解く事すら諦めざるを得なかった。
しばらくして、唐突に2人以上の男性が話し合う声が聞こえてきた。僕はもぞもぞと芋虫の様に扉の前まで移動して、聞き耳を立てる。扉越しなのでよく聞き取れないが、何か慌てているような声だなと思った次の瞬間、大きな音がして、連続して何かが壊れ、破裂し、砕ける音が響き渡った。僕は正面の扉から少し距離をとって、どうしたものかと考える。やがて男性達の声が巨大な衝撃音に対抗するように大きな怒号となって、こちらまで聞こえてきた。
「このクソアマッ!!ナニモンだ、テメェ!!」
「…………」
アマということは女性がいる筈だが、聞こえてくるのは複数の男性達の怒りに満ちた叫び声だけだった。
「この野郎ッ!!」
耳を劈く激しい金属音が何度も何度も繰り返し響き渡り、やがて音は小さくなって聞こえなくなった。
タッタッタと走ってこちらに近づいてくる足音が聞こえ、バンッと僕のいた部屋の扉が勢いよく開けられる。そこにいたのは、昨日会った大学周辺で見かけたボロボロの服を着ていた男性だった。
僕が目を大きく見開いて、何かを伝えようとするも、ボロボロ服の男性は御構い無しといった様子で、素早く僕の後ろに回り込み、僕の首元に何かを押し付けてきた。
「こっちに来るんじゃねぇ!!コイツがどうなってもいいのかッ!?」
どうやら男性は僕を人質にしているようで、自分が入ってきた扉の方に向かって叫ぶ。扉の向こうからは未だに何かが崩れている音と、コツコツとした足音が徐々に近づいて来るのが聞き取れた。
「来るんじゃねぇーつってんだろうが!!」
男性の手に力がこもるのが伝わった。喉元に鋭く熱い痛みが走る。
「この……ロボット風情がッ!!」
男性がそう言った瞬間に、何かが高速で飛んできて、僕の頭上横、僕を人質にとっていた右斜め後ろの男性の顔面に衝突した。カランカランと転がり落ちたそれはフライパンで、グニャグニャに湾曲していて、形が変形する程の衝撃だったのか、顔面に当てられた男性は、そのまま後ろに倒れてのびていた。
コツコツと近づいてきた女性は男性の手元から落ちたナイフを拾って、僕を縛っていたロープを切り、拘束を解いた。
「……ごめん」
僕はそれしか言葉に出せず、座ったまま頭を深く下げると、彼女はホッとしたように少しだけ微笑んだ。
やがて彼女はふと気付いた様子で、足元や周囲をキョロキョロと見渡して何かを探し始めた。
僕は、そういえば彼女がいつも持ち歩いていた手提げ鞄が無いからそれを探しているのかと思った。立ち上がって僕も探すのを手伝おうとすると、頭の痛みが一瞬強くなり、思わず情け無い声が出た。
彼女は僕の様子を見るや否やすぐさま駆け寄って、こちらを伺って口をモゴモゴとさせていた。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
僕は頭を抑えながら彼女に礼を言う。発言出来ず、筆談も出来ない状態でも、彼女が心配してくれているのが十分伝わってきた。
「……貴方が無事で本当に良かったわ」
やがて彼女は恥ずかしそうに、伏し目がちにそう発言した。
彼女の声は機械音声だった。その声を聞いて、ようやくあの筆談の意味が僕には分かった。
なんだ、機械音声が恥ずかしかったから、あんな風にしてたのか。
やっと聞けた彼女の声は、人間のそれとは明確に異なっていたが、とても美しい声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます