第6話 ゾンビ映画3
3.
「ショッピングモールに逃げ込むあたりから、救われない感が沸々と湧き上がってくる感じがして、私としては面白かったわ。でも、ゾンビ映画としてはなんだか物足りなさを感じたわ」
結局、彼女的にはもっと派手に暴れ回って襲い狂ったゾンビの方がお好みのようで、そんな感想をノートにまとめてからは、新たに勧めた「バイオハザードシリーズ」を見て、気に入った様子でスクリーンに張り付くようにして見ていた。
その間に僕は僅かな睡眠をとった。浅い眠りの中で見た夢では、暗闇の中で誰かが僕を呼んでいる夢だった。僕は呼ばれる方へ行こうと歩き、徐々に走りだすのだが、声はどんどん遠ざかって聞こえなくなっていく。一向に追いつけない僕は何とかしようと手を伸ばすのだか、何も掴めず、そこで目が覚めた。声の主は誰だったのか、おぼろげな夢の記憶は覚醒した頭からスルスルと流れ落ちていった。
時刻は午前11時手前、昨日僕がこの映画館を訪れてから、ちょうど丸1日が経つくらいだった。バイオハザードを1から3まで通して見ていた彼女は途中で疲れたのか、今は出会った時と同じように、椅子にもたれかかって眠っていた。
きゅうとお腹から音がして、僕は若干の空腹を覚えた。昨日は映画館内に元々あった機器でポップコーンを作って食べたくらいで、まともに何かを食べたりはしていなかった。そこでふとアイデアが浮かんだ。彼女とはこれから地球滅亡まで、共に暮らすことになるかもしれない同居関係にある。お互いの為を思って良好な関係を築いていくのは良い考えだろうと思い、僕は彼女が目覚めた時用の朝食を作っておこうと考えた。
そうと決まればと、僕は映画館から少し離れた駅前まで向かって歩いた。道中でコンビニなどを物色してみるも、中は無人で商品も殆どが残されていなかった。困ったなと思いつつも、僕はそのまま無人の街を探索して歩いた。
30分ほど歩くと大きなスーパーマーケットが見えて来たので中へと入ろうとした時、一瞬、自動ドア越しに人影がスッと写ったように見えた。ゾンビ映画を見たばっかりだったため、僕は驚いて反射的に後ろに数歩ほど下がって、扉から間合いを取る。まさかゾンビじゃないよな?と警戒しながらも、ひょっとしたら他の住人がいるのかもしれないといった僅かな期待に身を任せて、自動ドアを手で開け、中へと入って辺りを見渡した。
「あのー、すみませーん」
と声をかけるも反応はなく、シンとした店内で僕の声が響いた。人影こそ見失ってしまったが、目に写ったスーパーの商品棚には、未だ多くの商品が並べられていた。
彼女が目覚める頃には時間的に昼食になってしまうかもしれないが、それでも1日の始まりの食事として、朝食のメニューで良いだろうと思い、僕は食パンと卵、ベーコンにレタスといった野菜全般を選択してカゴの中に入れた。また、映画館のキッチンにはIHの電熱コンロがあったが、フライパンは錆びて傷んでいたことを思い出し、僕は新しくフライパンも買い足した。
食パンとフライパンという、食べられるパンと食べられないパンの代表格を両方共に買ってしまったなとか、彼女が言っていたように、「ゾンビ」では主人公達が今の僕と同じように、ショッピングモールに立てこもったりしてたなと、そんなくだらないことを考えていた時、ガツンと後ろから強い衝撃で頭を殴られて、僕は前のめりに倒れ、そのまま気を失った。
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