第3話 エイリアン映画3

3.

僕が知っているエイリアン映画はどれも大作として、世間一般的に人気があった作品ばかりだ。だが、それらを彼女が面白いと感じるだろうかと僕は非常に頭を悩ませていた。さっきの映画内のワンシーンで、エイリアンによって卵を植え付けられた女性のお腹から、腹を割いて出てきたエイリアンの赤ちゃんを見て、まるで愛らしいと言わんばかりに目を輝かせ、頬を紅潮させていた彼女だ。並大抵のエイリアン映画で満足するとは思えなかった。

無難にいこうか、いやでもこれを僕が面白いと思って選んだと思われるのはいくらなんでも嫌だなと悩みに悩んだ挙げ句、僕は知らず知らずの内に彼女のご機嫌を取ろうとしている自分に気が付いた。なんで自分はさっき会ったばかりの子の趣味嗜好に合わせて映画を見なきゃいけないんだ!と僕は彼女の嗜好に合わせるのを諦め、僕はいっそのことだと、僕が本気で面白いと思うエイリアン映画を過去の作品内から選択し、セットした。

タイトルは「第9地区」。エビに似た人型のエイリアン達が隔離施設である第9地区に住んでおり、主人公ヴィカスは国際局員の一人として、エイリアン達に新たな隔離施設第10地区を用意したから早く立ち退けとエイリアン達を半ば脅し、抵抗すれば暴行、射殺を行っていた。そんな中である怪しいエイリアンの家を調べている際に謎の液体を浴びてしまい、彼の身体は片腕から徐々にエイリアン化してしまう。人間とエイリアンの身体が共存する彼の身体は貴重だと判断され、元いた国際組織から実験体として命を狙われる。家族にも裏切られ、信用を失った彼は、死にものぐるいで逃げ、差別してきたエイリアン達の住まう第9地区に身を潜め、怪しい家の主人(人ではなくエイリアンだが)クリストファーと出会う。クリストファーは国際局員に隠れながら、故郷へ帰るために宇宙船を修復するだけの技術を持っていた。徐々にエイリアン化が進行していく中で、果たしてヴィカスは元の人間の身体に戻れるのか。クリストファー達エイリアンは故郷へ帰ることができるのか。SF系スリルアクションかと思えば、一人の人間ヴィカスを追ったドキュメンタリー映画になっている作品だ。

これでダメなら、きっと彼女と語り合うことは無くなってしまうな、と僕は諦めた表情のままスクリーンを見ていた。ちらりと何度か彼女の方を見たが、彼女は表情こそ真剣なままだったが、しっかりとその目で、スクリーンに映し出される物語を追っていた。

映画はちょうどエイリアンであるクリストファーと協力し合い、国際組織を一緒になって強襲しているシーンだった。その姿はまるで親友や仲間のようで、序盤ではエイリアン達を差別し、蔑んでいたヴィカスの心の変化が見られる。だが、エイリアン化が進行していく彼の身体が人間に戻るには2年かかると聞き、ヴィカスはクリストファーを裏切って勝手に宇宙船での脱出を試みる。

ヴィカスはエイリアンを常に下に見ており、主人公としてはかなりの性格の悪いクズの様に描写されているのだが、彼は決して諦めない。家族や妻に見捨てられても、元いた組織に命を狙われても、彼の腕を狙う謎の民族に狙われても、彼は必死で逃げ続ける。1人の人間に戻る為に。

映画が終わり、上映室は暗闇に呑まれる。

僕は何度も見た、名も無きエイリアンが写るエンディングカットを見届けて、彼女の方を見た。

彼女は恍惚とした表情を浮かべており、何も映っていないスクリーンを未だに見つめていた。

やがて僕の視線にはっと気づき、せっせとノートにペンを走らせる。書き終えた彼女が見せてくれた言葉には、第9地区の感想が書いてあった。

「エイリアンになっちゃうっていうのも案外面白いかったわ」

彼女はそうして、初めて笑ってみせた。

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