第2話 エイリアン映画2
2.
「ミスト」とは誇張なしに映画史上最も胸糞悪い映画として有名な作品で、ある日突如として街中が霧で覆われ、その霧の中から出てきた怪物達が街中の人々を襲っていくといった内容だ。
これだけ聞けば、なんだ普通のホラーアクション映画と変わらないじゃないか。虫やらトゲの付いた触手やら超巨大な怪物も出てくるけど、大したことないじゃないかと思うかもしれない。だが、このミストの真価はそこではない。最終局面にて、助からないと思った主人公デヴィッドは自分の息子と、一緒に生き残った仲間達を乗せた車内にて、せめて楽にしてあげようと拳銃で自分以外の仲間達と息子も手に掛け、殺してしまう。弾を使い切り、自殺も出来ない彼は大人しく怪物に殺されようと、車外に出て自ら死にに向かうも、特殊部隊が到着し、怪物達を一掃。デヴィッドのみが助かってしまうといった最悪の結末を迎えるのだった。
これを彼女が最高と言うのなら、おおよそ僕の映画趣味とはかなり異なるものであり、語り合うことが出来ない相手だと察せた。それでも、僕は彼女が気になってしまっていた。久しぶりに映画の話をできる人が現れたからか、僕はテンションが上がっていた。たとえミスト好きでも、何か1作品だけでも語り合う映画くらいあるだろうと僕は彼女に更に質問した。「他にはどんな映画が好きなの?」と。彼女はミストと書いたページをめくって、次の白紙のページにサラサラと書いていく。やはり筆談でしか会話ができないらしい。耳は聴こえているようだから、声帯が悪いのだろうか。そんなことを考えていると、やがて彼女が書き終わり、どれどれと見せてくれたものに目を通すが、どれもやはりという作品が多く、ゾンビ映画やエイリアンシリーズ、「時計仕掛けのオレンジ」など、バッドエンドな作品やバッドエンドで無いにしろ、大勢の人が殺される映画などが多く挙げられていた。やはり語り合うには難しいなあと考えている中で、そういえばと僕は思い出したことを彼女に提案してみる。
「今月からの新作でエイリアンの映画あったんだけど、それ見ない?」
一瞬、彼女の目が輝いたのを僕は見逃さなかった。彼女が頷いたのを確認してから、早速プロジェクターをセットしに、僕は上映室へと向かった。タイトルは「エイリアン エクスキューション」実に安直なタイトルだなと思いながらセットして、僕は観客席へと戻った。彼女は今か今かと楽しみにしているようで、目が先程よりも爛々と輝いていた。あぁ、新しい映画見る時ってやっぱそうなるよなぁと思いながらも、僕の方は気が乗らず、余り楽しみにはなれないまま、作り笑いを浮かべていた。
前半ではタイトル負けしない、エイリアンによる人間の虐殺シーンが続き、思わずスクリーンから目を逸らしたくなる様な、かなりグロテスクなシーンが続いたのだが、後半では主人公達が協力し合い、見事なまでの返り討ちによってエイリアンを撃退していった。さてどうかなと彼女の方を見ると、序盤は嬉々としていた彼女が、今では明らかに不満気といった顔をしており、こんな展開聞いてないぞとこちらを睨んでいる。「わかった、悪かったよ。まさかあの局面で主人公が火炎放射器をイチから開発して、そこからエイリアンを虐殺しまくるとは思わなかったんだ。まさかタイトルのエクスキューションが人間をではなく、エイリアンを処刑するって意味だとは思わないじゃないか」と弁解して、「じゃあ上映室に行って止めてくるよ」と言って立ち上がろうとした時、彼女が僕を引き止めて、また何かを書き始めた。
「エイリアン映画で面白いもの見せて」と。
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