第27話 行動開始
正巳がキメラの前で立ち尽くしていたのと同時刻。分かれた今井と猫のボス吉は、誘導された地下駐車場に来ていた。そして、トラックの中でマムとこの後の動きについて打合せをしていた。丁度一通り打合せたところで、ブザーの音を聞いていた。
◆
『ビィー……ビィーー……ビィー』
3回のブザーの後で、スクリーンが映し出される。
恐らく、連れて来た参加者がどうなるか見れるように、配慮されているのだろう。
スクリーンには、参加者……正巳君が映し出されている……背を向けているので顔は確認できないが間違いないだろう。その正面にはキメラらしき影が見える。
……四つん這いになっているようだが、薄暗い為その様子がはっきりとは分からない。
「マム、話した通りにやってくれたかい?」
「はい、マスター!言われた通り、パパに全財産賭けました!」
「僕は参加者として出られないけど、僕も全てを賭けないと、正巳君に悪いからね……」
これで正巳君に何かあれば、僕は一文無しだ……文字通り、全ての財産を賭けた。
「まさか、あのゲームに出る気だとは思わなかったけど……」
前もって正巳から何のゲームに参加するか聞いていなかったので、
「正巳君の事だし、何か考えがあるんだろうけれど……」
賭けたのは勿論3番の”生還”だ。
賭けに参加する為に渡された、タブレットを操作して口座にある分全てを賭けた。
「それにしても丁度良かった!」
実は、タブレットを渡された際に、無線通信に介入してマムをシステム内にインストールしていた。
「はい、マスター。お陰で、内部システムに侵入及び掌握できました!」
マムがイヤホンを介して答える。これで施設内のシステム制御されている機器は、漏れなくマムの支配下にある事になる。
「それじゃあ、案内よろしくねマム!」
「はい、マスター!あと、ボス吉は別にやってもらう事があるので、まだイヤホンがあればボス吉にも付けてくれますか……その、マムは会話できるので」
イヤホンは全部で3つ用意した。
一つは正巳君、もう一つは僕、そして最後の一つは上原君……正巳君の先輩で、恐らく仲間になるだろう事を想定して用意していた。
ボス吉の分が必要になるとは思ってもいなかったので、用意はしていなかったが……
「分かった。ほら、ボス吉おいで」
そう言って今井君の座っていた席にいる猫に声を掛ける。
「にゃお!」
そう鳴くと、ボス吉が膝に乗ってくる。
元々、動物は得意では無い。
何故なら、話が通じないから。
しかし、こうして話が通じるとなると、かわいく思えてくる。
「……ボス君、耳に入れても良いかい?」
「にゃおおぉ!」
「マスター、『お揃い!』と言っています」
……それは、僕とお揃いと言っているのか、正巳君とお揃いと言っているのか……多分後者だろうけれど、それでもイヤホンを”ふんふん”嗅いでいる様子は可愛い。
「よし、それじゃあ失礼するよ……お、一応ピッタリだね」
ボス吉の耳にイヤホンを入れると、思いの他スポッっとはまった。
「にゃお、にゃお……にゃ!」
「マム、ボス君はなんて?」
ボス吉がこちらに顔を向けて話しかけてくるが、猫語が分かるわけでは無い。
「はい、『耳が変だけど……お揃い!』だそうです」
……余程、お揃いなのが嬉しいのかも知れない。
「ふふっ、正巳君とお揃いなのが嬉しいんだね」
そう言いながらボスの首を撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。
「にゃお、にゃにゃ。にゃおおにゃ!」
「『
どうやら、お揃いで嬉しいと言っていた中に、僕とお揃いなのも含んでいたようだ。……ボス君にも仲間と認識されているようで、良かった。
「にゃお、にょ……にゃにゃに……にゃお!」
ボス吉が何やら鳴いている……いや、話している。
「にゃあ!……マスター、ボス吉が『姉さん、主とそんな関係だと知らず、すみません』だそうです。それと、『今後は、姉御と呼ばせてもらいます!』だそうです」
……確かに、メスと呼ばれるのは嫌だけど、それも猫語は分からないから気にしていないんだけどな……それより、正巳君と”そんな関係”って……?
「マム?ボス君に、僕と正巳君の関係を、なんて言って伝えたんだい?」
「はい、マスター!マスターとパパは、”一緒に暮らす仲”だと伝えました!」
……まあ、間違いじゃない。
「それで、ボス君はなんて?」
「はい、『そんな関係だとは知らずに失礼してしまった!』と言っていました」
……ネコの世界の一緒に暮らすと云うのがどんな意味を持つのか知らないが、深堀してはいけない内容な気がする。
「ま、まあどんな呼び方でも良いさ……」
後で色々と訂正する必要が有るかも知れないが、今そんな事をしている時間はない。それに……少しだけ、本当に少しだけ、正巳君と”そんな関係”だと思われているのも悪くないしね……
「よし、これでボス君にも連絡が取れるようになった事だし……始めようか!」
そう言うと、マムの指示に従って最初にボス吉、次に今井、と順番にトラックの中から外に出た。
トラックの外に出ると、監視カメラが数台見て取れる。
「マム、問題ないかい?」
監視カメラの前に行き、マムに確認する。
「はい、全ての監視映像を過去の映像が再生されるように変えていますので、今監視カメラの前で何をしたとしても
便利なことこの上ない。
「それと、打合せした通り……」
「はい、それも問題ないですマスター!カメラには、トラックはちゃんと表示されています!」
そう、単に”過去”の映像を再生するのでは、”今”に問題が出てくる。何故なら、過去の映像には今の状況である”トラックが駐車”されていないから。なので、問題にならないよう、マムに再生する映像加工して、トラックが表示されるようにして貰ったのだ。
「よし、それじゃあボス君、用事が済んだらココでまた会おう!」
ボス吉はマムと一緒にやる事があるらしい。
マムは、同時に何人とでも話せるので、ボス吉と一緒にも行くけど、僕とも一緒に行く。ついでに言えば、正巳君とも一緒にいる。
「よし、それじゃあ何かあったらよろしくねマム!」
「はい、マスター!それでは、ボス吉は上からなので、ここで二手に分かれましょう!」
そうマムが言うと同時に、ボス吉がジャンプする。
「にゃお!」
見ると、空調管理の配管だろう場所の仕切り扉が開いている。
恐らく、マムが開けたのだろう。
マムによると、この施設は隅々まで軍事の最新技術で出来ているらしい。一般的に、軍事用技術は一般の技術の20年先とも30年先とも言われるほど進んでいる。
その技術は、当然の事ながらIT技術によるところが大きく……結果的に、マムにとっては敵なしの……格好な
「僕も頑張らないと……」
ボス吉が配管の中に消えていく姿を見ながら、気合を入れ直した。
「マム、指示を頼んだよ!」
そう言うと、マムが開けてくれていた”施設内への扉”へと足を進めるのだった。
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