第37話
別世界での暮らしは2号から聞いていた通りだった。
この世と同じように家があり、普通に人が暮らしている。この人らが全て敗者としてこの世界に移ってきた人なのか分からない。俺にとっては家族や知人がいないというだけでごく普通の生活だった。学校もなく…その代わり俺は毎日訓練を課せられた。タブレットから3人の佐藤真司を選び、そいつに勝つ為に自分の長所やアピールポイントを磨く。考え方によっては素晴らしい自己啓発だった。先生は先生で情報を仕入れ俺に提供をしてくれる。そして毎日、勝率を報告してくる。最初は低かったが二週間後には80%ぐらいにはなっていた。
最終日、先生がいつものようにやってきて情報と伝達事項を告げた。
「明日から二週間頑張って下さい。チャンスは2回です。今は80%ぐらいの勝率でも実際は50%ぐらいだと思って下さい。それぐらい厳しい戦いです」
「分かりました。ところで先生、質問があるんですけど聞いても大丈夫ですか?」
「どうぞ」
「まず、先生って名前ないんですか?先生としか呼んでないし、いつも言うこと言ったらすぐ帰っちゃうし…」
「名前ですか、おかしなことを聞きますね。そうですね、じゃあ佐藤浩二とでも名乗っておきましょうか。私の名前なんて誰も興味を示さなかったのでね。いつもすぐ帰るのは私も忙しいし、あなた方の邪魔をしたくないんで。時間も限られ、することもいっぱいあるでしょうから」
「佐藤浩二って俺の父さんの名前…ワザとですか?」
「私は君に指導する立場にあるだけで個人的に付き合ったり親しくすることはないんで。呼び名さえあればいいんですよ。なので、君に教える立場として使ってみました。」
「まあそうかもですが…先生って、いつから先生をしてるんです?俺と同じように勝負に負けたんですか?」
「さあ、いつからでしょうね。覚えてないですね。ただ君達のように勝負はしてません。言った通り敗者は死、勝者は復帰ですから。この二択しかありません」
「じゃあ、ずっとこの世界の住人…他の人みたいに…として…生きて来られて仕事に就かれたって感じですか?」
「君は色々と興味を持つ方なんですね。いいことです。そうですね、君の言ったことが正解としておきましょう。君も感じてると思いますが住み易いですよ。俗世間の煩わしさもなく。あとは?」
「あの…俺は佐藤だけど、日本には「鈴木」とか「田中」とか多い名字ってありますよね?その…同姓同名さんってのも…やっぱりゲームあるんですか?」
「よく気付きましたね」
今まで無表情だった先生が満面の笑みで答えた。
「素晴らしい。そこに気付くとは。理屈は一緒です。2人も3人も身近に同姓同名は要りませんからね。ゲームの存在をみんな知らないだけです。毎日、世界中でゲームは起きてるんですよ」
やっぱりか。俺はゲームの話を聞いた時に、もしかしたら…とは考えていた。
「あと、何も言わなかったんですが、もし前の生活…俺が負けた相手と再戦ってできるんですか?」
「再戦を希望ですか?できますよ。但し、圧倒的に不利ですが…」
「なんでです?ゲームを知っているから?」
「それは記憶を残した方には該当しますね。ただ、記憶を消された方も、君みたいにこっちの世界で自己啓発をしてますよね?ということは、戻った世界でもその能力を保っていれば相当手強い相手になりますよ。2回負けたら終わりの人間が選ぶ相手ではないですね」
「なるほど」
「まあ、君は既に勘付いているかもですが…このゲームはエンドレスですから(笑)君が復帰したから…もうゲームは終わり。ではないので。世界に佐藤真司がいる限りゲームは続きますからね(笑)」
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