第34話
「なあ、これから俺はどこへ行ってどうすればいいんだ?」
もう目の前の2号に敵意もない。
「そもそもさ、お前が佐藤真司に負けて俺の前に来た。って言うけど、お前の話だと地域に1人いればいいんじゃないの?
だったらさ、わざわざ俺…佐藤真司…のいる地域を避ければいいんじゃなかったの?そしたらお前も…こんな勝負なく…すんなり溶け込めたんじゃないの?」
「そう思うよな。俺も思ったさ。でもな、このゲームはそうじゃないんだ」
「ゲーム?」
「そう、これはゲームなんだ。佐藤真司ゲームとでも名付けようか。不思議で悲しいゲームだよ」
2号が語り始めた。
「もうすぐお前も分かると思うが、ゲーム…存在を消された…に負けた人間は一時的にこの世と別の世界へ行く。見たこともないし、不思議な世界だ。そこで普段の生活と同じで勉強をしたり身体を鍛えたり色々なことをする。やる内容は人によって違うみたいだけどな」
俺は黙って2号の話に聞き入った。
「その世界には先生と呼ばれる一人の男性がいるんだ。その人の指示に従わないといけない。その人がこの世…今の世界…への復帰の方法や指導をしてくれる。っていっても復帰の方法はただ一つ。同じ名前…佐藤真司…と勝負をして勝って入れ替わるしかないんだけどな」
「その先生って何を教えてくれるの?俺の情報とか?」
「それもだし色々。まず、最初にタブレットを見せられる。その中には世界の「佐藤真司」の情報がいっぱいあるんだ。その中から俺が勝負をして勝てそうな3人をピックアップしてくれる。勝負してってのは「存在感」。期限は1ヶ月。出会って1ヶ月以内に「存在感」で上回らないと俺の負け。これが結構厳しいんだぜ、実は。チャンスは2回。相手は違ってもいいが2回とも負ければ…本当に「死」だ。葬式も何も…死んだことすら誰にも知られることもない」
「存在感。って言うけどさ、それだったら…俺…最初から勝ち目なかったことない?容姿も頭の良さとかも…」
「そう思うだろ?違うよ。まず、「存在感」ってのは、特定の人物…例えばクラスの女子…とか限定じゃないんだ。お前の家族含め、お前が関わって来た人全ての人が対象なんだ。そして目標数値は70%。つまり7割の人が「佐藤真司」と聞いて、お前じゃなく俺を思い浮かべる状況を作らないといけない。
当然、お前の家族とか副島とかみたいに昔からの友達ってのは最後までお前を思い浮かべる。そして俺には知り合いや家族もいない。まさしく0からの戦いよ。そんな簡単なゲームじゃないさ」
2号の顔が普段の真剣な顔に戻った。
「だから対戦相手を決めた瞬間から約2週間、その相手に勝つ為に勉強したり身体を鍛えたり…色々するんだ。中には整形した人もいたみたいだけど。でもさ、2週間で出来ることって限界あるんだよね。それに…人の気持ちって…簡単には動かない。頭が良いとか容姿が…とか一時的なものだよ。でも、一時的でも7割を超えないと一生戻れないから」
「その一時的かもだけど、一時的に俺は負けたってこと?」
「そう。悪く思わないでくれよ。君の場合は全てが平均だった。最初選んだ時は楽勝かなって思ってたさ。でも違った。平均ってことは可もなく不可もなくだろ?だから俺が来たことで一緒に君もクローズアップされて…「佐藤真司」って聞くと、俺もお前もセットで出てくるんだよ、常に。だから家族とか…そういう繋がりを持ってるお前が優勢だったんだよ、実は」
まさかまさか…平凡であることがこんな作用を生み出していたとは…
「じゃあ、なんで俺は負けたの?」
「お前が自己アピールをしてこなかったことと、容姿とか…俺の方が上だ。って認めたこと。勿論、誰かに話したりはしてないだろうけど、このゲームが始まってからは、お前の俺に対する評価…気持ちとか…も結果に影響する。お前が俺より下…ってか勝てない。みたいな気持ちになった瞬間から評価が劣勢になる仕組みになってるんだ。だから勝てた。お前が向かってきてたら俺は負けてたんじゃないかな?多分」
占い師のお婆さんの言葉は当たってたんだ…。
「それと、このゲームの間は君の行動、思考全てを先生が教えてくれる。だから君が俺をつけたのも知ってるよ」
「えっ?」
「あれは隠れてたんじゃない、消えたんだよ。今なら信じれるかもだけど」
「消えたって…どこへ?じゃあ家は?」
「家なんてないさ。別世界…これから君が行く世界に戻っただけだよ。毎日が往復だよ。僕も佐藤真司だけど、ゲームに勝つまでは佐藤真司でもないし、この世の人間でもないんだ。幽霊みたいなものだよ」
再び2号の顔が暗くなった。
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