第32話

「記憶から消えた人間…俺はどうなるんだ?」

「どうなると思う?」

不敵に笑みが溢れた2号。こいつ楽しんでやがる。

「さっきも言ったように死んだ訳じゃないからね」

「ああ」

「思い出してごらん。君は今日どんな扱いをされた?」

「不審者」

「正解。君はこの地区では不審者であり、佐藤真司でもなくなった」

「佐藤真司じゃないなら、俺は違う名前になったっことか?」

「違うね。そんなことある?ないでしょ?この地区の佐藤真司じゃなくなったってだけで佐藤真司は佐藤真司だよ」

「この話の流れからすると俺は別の地区に行って佐藤真司として生活をしろ。ってことか?」

「正解。そう。その通り」

「でもどこへ?家とか家族とか…」

「動くのは君一人だよ。それに君に家族はいない。君の存在は今まで君と関わった人全てから消えている。つまり、今、君を知っている世の中の人は0なんだよ」

「そんな…」

「この勝負に負けるということはそういうことだよ。大丈夫、君の家族は俺の家族になるから。俺が今の君と入れ替わって佐藤真司として君の家で生活するから」

「そんなことできる訳がない」

「できるさ、君の記憶や情報は既に折込済み。何の問題もない」

「記憶や情報って…どこで仕入れた?そんなデタラメ…」

「デタラメ?この状況で俺が嘘を言って何の得がある?気持ちは分かるけど言葉は選びなよ」

思わず涙が溢れた。悲しさや悔しさ…ありとあらゆる気持ちを含んだ涙が。

分かっている、2号が嘘を言ってないことぐらい。でも認めたくない。

「泣いても変わらないよ」

冷たい言葉が飛んでくる。でも涙は止まらない。大好きな家族も失い…生きていく意味なんてあるのか。このまま死んだ方が楽じゃないのか。

「まだ話は終わってないんだけど…続けていい?」

とても話を聞ける状況ではなかった。

「仕方ないな、君が聞ける話を先にしよう」

こんな俺が聞こうと思える話?この状況で?

「今、君は俺に負けてこの地区から存在を消されたよね?」

静かにゆっくりと頷いた。

「実は俺も違う佐藤真司に負けてお前の前に来たんだよ」

思わず顔を上げて2号を見た。

「これで分かっただろ?お前の前に俺が来た理由が」

2号の顔は今までに見たことのない穏やかな顔をしていた。もしかしてこれが2号の素顔なのか?俺は言葉も出ずただただ2号の顔を見つめていた。

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