第31話
「勝ちとか負けとか一体…それに竹田先生とかは?」
「一つずつ説明するから。今後の君に関わることもあるからしっかり聞いてね」
「今後?俺はこれからどうなるんだ?」
「とりあえずさ、俺の話を聞いたら?それから話してくれる?君は何も分かってないんだから、今」
突き放すように2号は言った。
「分かった」俺は黙り込んで視線を2号に向けた。
「まずさ、質問。この世の中には何億って人がいて、日本だけでも47都道府県があって…自分の知らない人や行ったことのない土地。生涯行くことのない土地や会うことすらない人だっている訳だよね?」
俺は黙って頷いた。
「その中で、この狭い地区に佐藤真司が2人もいるっておかしくない?すごい確率だよね?」
「まあ、そうかも」
「これ2人だからその程度の回答になるけど、5人とか6人とかいたらどう?例えばさ、学校でも予備校とかでもいいけど、テストの結果の上から5人全てが「佐藤真司」だったらどう思う?嫌じゃない?気持ち悪いよね?」
素直に頷いた。
「これだけ世界は広いのに「佐藤真司狭すぎ」だよね?」
「確かに」
「じゃあさ、その地域に1人でいいって思わない?5人いたら5地域に分けた方が誤解も起きないしスッキリするよね?」
「そりゃそうだけど…そんな都合の良いことなんて」
「もし、それが実は世界で起きてたら?」
俺は意味が分からなかった。もし2号の言うように、そういう事態が起きているなら何故2号は俺の前に現れたのだろうか?地域に一人っていうのであれば、俺がいればいいんじゃないのだろか。
「じゃあ、何故君は俺の前に?」
「そう思うよね?じゃあ次の段階に移るよ」
「今、仮に3人の佐藤真司がいたとしてさ、地域に残すのは1人。ってことは後の2人は別の地域に行くことになる」
「その残る子と去る2人の選定の基準は何だと思う?」
「それってもしかして、君がさっき俺に勝ったとか言ってたこと?」
「そう。内容は何だと思う?」
分かる訳がない。分かっていれば俺は勝負に負けていないはずだ。
「分かってたらもっと勝負は続いていたよね」
俺の気持ちを見透かしたかのように2号が言い放った。
「思い当たる節もない?」
あれこれ考えるが何も浮かばない。
「勝負事なんだから君は何か俺に劣ったから負けたんだよ」
劣る?そんなの全てじゃないか。今では悔しさも出てこない。それで勝負が決まったのか?
ふと、俺の頭に占い師のお婆さんが浮かんだ。もしかして…
「存在感?」
「すごいね、正解♫気付くの遅いけど」
「それがどう関わってくるの?」
「まずさ、さっきの話だと3人の佐藤から1人を残すんだよね?その時の問題が残りの2人の存在なんだよね。簡単に言うと、実際3人の佐藤は存在するけど、地域の人の記憶には最初から1人の佐藤しかいなかった、つまり2人は存在しなかったって状況を作らないといけないんだ」
淡々と2号は恐ろしい話を続ける
「存在を消すってことは、存在感ありありの人より元々いるのかいないのか分からない…いてもいなくても害のない人間を消す方が楽でしょ?」
「その…消す…って?」
「残り2人の佐藤の存在を人々の記憶から消すってこと」
「そんなことできない…」と言いかけた俺の言葉を遮るように
「できるんだよ、だから君は竹田先生や副島、クラスメイトの記憶から消えた」
「消えたって…じゃあ俺は…?」
「大丈夫、君は死んだ訳じゃない。ただ記憶から消えただけ」
平然と言ってのける2号。
一体俺はこれからどうなるのだろうか。俺に残された手段は、ただ2号の話を聞く。それしかなかった。
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