第27話
土曜日は1日テスト勉強をして日曜日は気晴らしに遊びに出かけた。といっても特にアテがある訳ではない。ネットカフェで漫画を読んだりバッティングセンターで身体を動かしたり。気の向くまま、ブラブラと好きなことをしてリフレッシュする。それが俺の気分転換だ。
気付けばもう20時。それでも今日は日曜日だから街中に人が溢れている。競馬で100万超馬券が出た。だの色々な会話が飛び交う街中を俺は目的もなく歩いていた。
「そこの君。待って、止まりなさい」
スゴイ大声の剣幕で誰かが叫んでいる。声の方向に振り向くと一人の老婆が俺の方…明らかに俺を見て呼んでいる。
「俺?」
椅子に座り、机には「占い、一回千円」と貼り紙がしてある。
勿論、知り合いでもないし占いなんて興味もない。
「お金なんていらないから。早くこっちに来なさい。私の話を聞いて」
何処からそんな大声が出るのだろうか?老婆は鬼気迫る表情で俺を必死に呼んでいる。
仕方なく俺は老婆の前まで行った。
「あの…俺、占いなんて興味ないんですけど」
「よかった。来てくれた。お金はいいから私の話を聞いて。信じる信じないとかは自由だから」
「時間ってすぐですか?」
老婆の有無を言わせない態度に諦めながら聞いてみた。
「5分ほどかな。あなたの人生について話すから。よく聞いてね」
人生って…漠然としたテーマに呆れながら…お金いらないって言ってるし…俺は聞いてみることにした。
「まず、君を呼び止めたのには訳があるの。君は今、とんでもない問題に直面しているわ。それを君に教えたかったから。君の人生が変わる大きな問題よ」
「じゃあお婆さんは、何か見えたら、見えた人みんな俺みたいに呼び止めるの?」
「いや、君は特別だよ。私の話を聞いて…君が行動を起こしても…無理じゃな、多分…それくらい大きな問題に直面しておる。ただ、それを君自身に知ってほしかった。可能性が0じゃないから」
何のことだろ?お婆さんの話し方だともう起きてるってことだよな。
「さっきも一人の男性を呼び止めた。その人はこの後か明日、自殺するはずの人じゃ」
「えっ?俺、死なないよね?死ぬの?」
「君はまだ若い。大丈夫じゃ」
「その人は死んじゃうの?」
「その人が抱えている苦しみや辛さは他人には分からん。他人からすれば些細なことかもしれん。ただ、命を粗末にすることはダメじゃ。だから、魔法をかけてやった」
「魔法?」
「そうじゃ、魔法をな。だが魔法はいつか解ける。一時的なものじゃ。解けた時、彼がどんな行動を取るか次第じゃ」
「お婆さん、魔法使えるの?俺にもかけて」
「君には魔法は必要ない。私が魔法をかけるより、君自身がしっかり現実を受け止め前を向けるかじゃな」
「ねえ、俺に何が起きるの?起きてるの?」
「明日、学校に行けば分かる。今のままの君では勝ち目はない。既に態勢は決しておる。だがな、君は若い。いくらでも人生は作り直せる。君が何を思い、何をしたいか。私が話せるのはそれだけじゃ」
正直、よく分からなかった。別に俺じゃなくても当てはまりそうな内容。
まあ、お金取られず有難い話を聞けたと思えば…そんな気分だった。
「頑張ってな、佐藤真司君」
「えっ?」
歩きかけた足がピタッと止まる。
「お婆さん、何で俺の名前を」
思わず摑みかかろうかという勢いで振り返った俺に
「私は占い師じゃよ」慌てもせず平静と答えた。
「なあ、お婆さん。お婆さんの言うこと信じるからさ、何が起きて、俺はどうしたらいいか教えてよ。お金払うからさ」
「君は私が呼び止めた。だからお金はいいよ。信じてくれるなら…まあ、今回は手遅れかもだか…自分磨き、自分アピールをしなさい」
「自分磨き?アピール?」
「そう、君は全てにおいて平凡、平均すぎる。だから存在が薄い。佐藤真司は俺だ。これは佐藤真司の出番だ。と周りが思うようなことをアピールしないと」
「それってどうすれば?」
「一つは欲を出すことじゃ。これ買いたい。欲しい。と思えば人は手段を考え努力をする。テストでもそうじゃろ?良い点取りたかったら勉強する。先生に出るとこを聞きに行く。悪い人はカンニングを目論む。そうやって人は行動を起こす」
「もう一つは周りに関心を持つことじゃ。人は誰しも一人では生きていけない。周りと助け合って生きていかないといけない。その為には、周りの人と歩調を合わせないとダメじゃ。その歩調を君が気にしないといけない。君が無関心なら周りも無関心になる。それではダメじゃ」
「わかった、やってみるよ。ありがとう」
お婆さんの言うことは漠然としているが、2号が来て…更に存在感や価値を失いつつある俺には響く言葉だった。
「明日、学校に行けば分かる」お婆さんの言葉が何回も頭の中で繰り返し流れていた。
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