第26話
保健室のドアをノックすると「はい、どうぞ」と明るい声が返ってきた。
「失礼します」
「あら、1年生の佐藤君、どうしたの?顔色真っ青。生きてる?」
「生きてます」
「そんな真っ直ぐ返さないでよ(笑)冗談よ」保健室の先生、中川先生だ。年齢は26〜28歳ぐらいって噂。明るくて人懐っこくて美人という学校のアイドルである。
「いつから具合悪いの?とりあえず熱測ってみよっか?」
俺が質問に答える間も無く体温計を俺の口に突っ込んだ。
「しばらくそのままね♫」と言い放ち、俺の存在を無視するかのように、先生は自分の仕事を始めた。こういう小悪魔的な面も魅力の一つである。
「体温計、止まったみたいです」
「見せて。ちょっと微熱?真っ青だからもっとあるのかと思ってたのに。気分とか悪くない?」
「そこまでは…でも顔色悪いんですよね?」
「元から?笑」
「えっ?」
「冗談よ♫先生、佐藤君の顔、今日初めてみたから。普段の顔知らないもん」
「先生、どっちもヒドイんですけど」
「私の冗談に付いて来てくれないと困るな(笑)まあ、せっかく保健室に来たんだし、少し休んでいきなさいよ。竹田先生もそのつもりでしょうし」
「分かりました」
とりあえず、俺はベッドに寝かされ休むことになった。休んでいる間、中川先生は俺の存在を無視して、ひたすら自分の仕事をしていた。時に大きな物音を立て…時に「もう嫌だ」とか大きな声を出したりしながら…。
少し休んだので気持ち的に楽になった俺はベッドの上から保健室を出るタイミングを模索していた。既に俺の荷物は保健室に届いている。竹田先生が配慮してくれたのだ。
相変わらず中川先生は自分の世界に没頭している。ふと何かに気付いたのか中川先生がこっちに来た。
「もう大丈夫そうね、ちゃんと帰れる?」
「多分大丈夫です」
「じゃあ気をつけてね」
「先生、一つ聞いてもいいですか?」
「何?一つだけよ」
こういう質問に慣れてるのか、甘い声が返って来た。
「先生、幽霊っていると思います?目の前で人が消えたって言われたら信じます?」
中川先生なら冗談で返してくれそうな気がしたから…そして誰かに聞いてほしかったのかも知れない…この気持ちを。
「えっ?意外。もっと違う質問かと思ってた(笑)幽霊?人が消える?そうね、マジックの世界ならありかもね。そんな大々的なマジックなら楽しいんじゃない?佐藤は深刻に考えてるみたいだけど」
そっか、マジックか…昨日、俺はマジック…催眠術にでもかかってたんだ。それなら催眠術のせいで身体が疲弊しているってこと考えることもできる。
「さすが先生。ステキな回答ですね」
「そう?ありがとう」
俺は保健室を出て家に帰った。実際はマジックなんかじゃない。2号が消えたのは事実だ。だが、重たく考えるより、先生のようにロマンティック…プラス思考で考えればいいんじゃないか。そう思い込ませるしか俺には手段がなかった。
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