第17話

錦市場…京都の台所と呼ばれる所である。今やコンビニやスーパーがあちこちに立ち並び、欲しいものは何でも売っている。そんな時代に錦市場は各々が専門の商品を売り軒を連ねている。別にここに来て買わなくても…と思う方々もいるだろう。だか来て見て分かること…それは各々の店舗が商品に誇りと自負を持っている。値段相応の価値を持った商品を本当に欲しい人に売る。そういう伝統と文化を持った市場なのだ。

「すごい、美味しいそう」「えっ、こんな物まで売ってるんだ」「これ欲しい」

みんなキョロキョロしながら、この見たことのない光景を楽しんでいる。

そして目指す玉子焼きを発見した。

「えっ、真司の探してる店って玉子焼き?」

「すごい、すごく綺麗な黄色」

「美味しいそう、見たことない」

「でも玉子焼きにしては高くない?」

各々が言いたいことを言う中

「絶対美味しいからみんなで食べようよ」

「真司がそこまで言うなら食べてみようぜ」

一人一本は高いからみんなでお金を出して一本買って分けてみた。

「えっ?」一口、口にしただけで誰もが黙り次の言葉が出ない。

「これ、本当に玉子焼きだよね?」

「だよな、玉子焼き」

「何?このフワフワ感。違う物食べてるみたい」

「ひょっとして騙されてる?」

「美味い」みんなが「えっ?」って顔をしてる中、俺は叫んだ。その瞬間、解き放たれたように笑顔が辺り一面に広まった。

「真司、すごいな。こんなお店知ってるなんて。」

「今まで食べた玉子焼きが嘘みたい。他の食べれないよ」

「もう一個食べたい。あぁご飯欲しくなってきた」

結局、俺達はもう一個買って分けて食べた。

今でも俺達の班の子は、修学旅行の思い出は?と聞かれたら、みんな「玉子焼き」と思い出して答える。それ程の逸品だった。そして俺達の班の連中は、帰ってしばらくの間は玉子焼きを食べれなくなった。俺も母さんの玉子焼きでさえ、マズく思えて距離を置いてしまった。勿論、母さんには言えなかったが。

帰って父さんに話をすると

「真司は行くまでと今とでは「玉子焼き」だけでなく物の見方が変わったと思わないか?」

「見方?」

「そう、お前には失礼だか、行くまでは「玉子焼き」なんて…そりゃ高い卵使えってれば美味しくもなるし…ぐらいの考えだっただろ?」

「それは…あった。自分でも作れるし…同じ卵使えば自分でも…そんな気持ちはあった」

「でもそうじゃなかっただろ?」

「うん、卵が…とかって小さい世界じゃなかった。本物ってああいうものを指すんだ。って感じた。なんて言うかな?もし、俺が毎日通ったとしても、毎日同じ味、同じ見た目。そして俺の期待を裏切らない。それを俺だけじゃなく来る人、来る人にしてて、その人達に至福の時間を提供する。そんな感じ?うまく言えないけど」

「そう、本物ってそういうものだ。どこまでいっても本物はそう。偽物はどこかでブレがある」

父さんが目を閉じ頷いた。

確かに母さんは料理のプロでも専門家でもない。美味しい玉子焼きといっても素人の作品だ。その意味では本物ではないかもしれない。だが食べる度、俺を幸せに導いてくれる。至福の瞬間だ。そう、俺にとっては本物なのだ。それを2号は見抜いたのだろうか?

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