第16話

その日の夕食、いつもの家族団欒の時間。

「ねえ、母さん、母さんの玉子焼きって美味しいし絶品だけど、見た目は普通だよね?」

「えっ?いきなりどうしたの?」

「もう一人の俺、佐藤真司が俺の弁当箱覗いて玉子焼き美味しいそう。って言うから。でも、アイツ玉子焼き好きじゃないらしく、家でも食べないらしい。それにハンバーグが好きらしくてさ。だからアイツが何で玉子焼き美味しそうって言ったのか分からなくて。

見た目がズバ抜けて綺麗とかなら分かるんだけどね。」

「そうね、見た目は普通かも。でも味も見た目も結構自信あるんだけどな」

「分かってるよ、贔屓なしに美味しいし。」

「ありがとう。嬉しい。そうね、同じ真司同士通じ合うものでもあるんじゃないの?例えばだけど」

「双子じゃないし、それにまだ数日しか一緒にいないし。そんな気持ち悪い」

「でも、そうでもないと玉子焼き嫌いな人が玉子焼き褒める理由ってないことない?あの大きなハンバーグは食べちゃってたの?」

「弁当開けたとこだしハンバーグも丸々、他のオカズも残ってたよ。」

「少し話はズレるかもしれんが、双子じゃないと息が合ったり考えてることが一致しない。とは限らんぞ」父、浩二が割って入ってきた。

「よくテニスのペアとか、いちいち指示や声を出さなくてもお互いの動きが分かったりするだろ?お前と同じ名前なんだし、何か一致するものがあるんじゃないか?例えば、先生の呼びかけに一緒に返事したとか。ないか?」

「ない。反対に二人とも返事しなかった。佐藤。って呼ばれて普段なら俺、返事するけど先生は俺でも2号でもなく名簿…下を向きながら言ったし。それにまだクラスもオレ達も新だの旧だの…佐藤真司に敏感になってる時だから。クラスがシンとしたよ。」

「そうか。じゃあ、佐藤君が玉子焼き…には詳しくないかもだが、本物を見分けれるような目を持ってたら」

「それって父さんが教えてくれた京都の玉子焼きのこと?」

「そうだ、その話だ」

京都の玉子焼きとは、俺が修学旅行で京都に行く時に、京都の錦市場に玉子焼きの専門店…正確には玉子屋さんだったはず…に行って玉子焼きを食べろ。と言われた。何で?と聞くと本物の玉子焼きの味だから。と返ってきた。俺の中では、それは美味しい玉子焼きかもしれない、でもワザワザ高いお金払って食べなくても家でも作れる。母さんの玉子焼きも絶品だ。その時は父さんの言ってる意味が分からなかった。

そして、修学旅行で京都観光をするが、観光は清水寺とか金閣寺とか有名たる寺院が主である。錦市場も京都の台所として有名であるが中学生が行くところではないだろう。事実、俺達の班の観光ルートにもなかった。だが俺は父さんがそこまで言うので興味があった。玉子焼きを売って商売が成り立つ玉子焼き…そんな物あるのか?と。

そして俺は京都の地理、道路事情を事前に調べ四条から錦市場を通り八坂神社経由清水寺行き。というルートを作り班のみんなと行動した。

京都のバスは通り毎にバス停がある為、よく停車する。そしてバス停も一つの目的地ではなく複数の行先があり複数のバスが止まる。その為、烏丸通や四条通りといった大通りになると常に誰かがバス停でバスを待ってる。勿論、人が待ってる以上バスは止まるが違うバスを待ってる人も中には含まれている。その為、人は待っていてバスは止まったが誰も乗らなかった。ということもよく起きる。そういう事情も含まれ且つ交通量も多い為、時刻表より遅れたりすることもしばしば起きる。

俺はそういう事情を調べ、歩ける距離は歩いて風情や情緒を楽しもうと提案した。勿論、その分お金も浮くしみんな賛成してくれた。そして俺達は四条通りではなく中に入って錦市場を通り八坂神社に向かったのだ。

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