第33話、剛の者、最期の意地

江里口信常と明智の一騎打ちが始まったのである。戦況はほぼ互角に見えていたが実際には江里口信常が押されていたのであった。



よく姿を見てみればよくわかることであった。一方は涼しそうな顔をしながら相手を見つけておりもう一方は満身創痍の状態で見つめていたのである。



すでに明智と江里口信常の差は歴然であったがそれでも江里口信常は諦めはしなかった。ここであきらめて負けると逃げたほかの者たちが危険にさらされるので江里口信常とて諦めるわけにはいかなった。



そんなことを考えているであろうと感じた明智は江里口信常に対して言うのであった。



「ついでに言っておくが誰かが殿をしてアーリナたちを逃がそうとすることはすでにお見通しだよ、江里口信常。そもそも吸血鬼に対して闇討ちしようとする時点で私をなめているでしょう。だから先に言っておく・・・コウモリは夜目が良いだよ。」



江里口信常は何とも言えない嫌な感じをしたのである。もし、本当に見通しているなら逃げているアーリナたちも危ないということになる。だが、ここで明智を食い止めておけば最悪な事態は避けられるはずだと思い戦いに集中するのであった。




しかし、そんな考え・・・希望をすぐに潰されることになったのである。突然、上空から魔方陣が出てきたと思っていたらアーリナとソウナが魔方陣から出てきたのであった。



江里口信常はアーリナたちにどうして戻ってきたのかと聞こうとしたがその前にアーリナが驚いた表情で明智に言うのである。



「ま・・・・まさか、あなたはここまで準備していたのですか。こんな強力な結界をこの一帯に私たちに気付かれずに作っていたのですか。それも一日、一週間でできるものではない・・・いつから作っていたのですか。」



「簡単なことだ・・・・この世界に来てから作っていたというべきかな。いつこの場所で因縁の戦いが起きて相手を逃がさないために・・・ね。まさか、本当に使うことになるとはあの時までは思いもしなかったけど。」



「・・・お父さん・・・いや、明智はその時はいつなの。」



「土居たちが事情もあって殺された後ぐらいかな、この後の行動次第では君たちも敵になると考え結界を強化しておいて正解だったよ。おかげさまで・・・君たち、裏切者たちを逃がすことなく殺せるからね。」





そうして明智は見たこともないような殺意と恐怖を感じざる得られない三人であったがこのままでは三人とも殺されて反乱軍たちは全滅すると気持ちを切り替えて明智に戦いを挑むことにしたのである。



アーリナ自身はこの戦いは勝算は低いことは承知であったがこの道しか助かる道はなくわずかな希望を信じて戦いを始めるのであった。



一方、ソウナは三人で戦えば勝てると考えていたのであった、深い理由はないがみんなが力を合わせれば何とかなると信じていた。



そうしてついに三人は明智と刃を交えることになった。



アーリナたちは連携攻撃や護衛などして明智に戦いを挑んだが明智は全然平気そうな顔をしていたのである。まるで相手にならないと言っているかのように見えたのであった。



「お前たちをどうやって殺そうかと考えたが・・・まずはソウナ、お前だけは子供だからせめて一瞬で楽にさせてやるよ・・・・来世では幸せな人生になることを祈っておくよ。」



そう言った瞬間、明智は目に取られられないほどの速さでソウナに攻撃をしたのであった。



その攻撃を受けたソウナは吹き飛ばされたのであった。二人は急いでソウナのところに向かったがすでに・・・ソウナは息をしていなかった。



明智の宣言通りにほぼ即死であったのである。これを見た江里口信常は己のすべてをかけて攻撃を明智に対してしながら叫ぶのであった。




「貴様は大切にしていた子供まで殺しやがって、それでも心を持っている生き物でござるかー。」



「これでも一応持っている・・・だから、残りのお前たちは今までの仕返しをしながら殺してやるよ、だからソウナみたいに楽に死ねるなと思うなよ。」




江里口信常と明智の死闘が繰り広げられた。お互いにかなり深手を負いつつも戦いは止まらずさらに激しさを増すばかりであった。その勢いにアーリナは入る余地もなかった。




明智もまさか、怒った江里口信常がここまでやるとは考えておらずここに来てようやく明智から涼しそうな顔が消えたのである。それで新しく出てきた顔は歪んだ笑顔であった。



アーリナは明智がすでに悪魔ですら超えた何かに見えつつである。そのために恐怖で体がうまく動けないでいたのである。江里口信常を助けたくても本能が動くなと言うばかりに体が固まり助けることが出来なかった。




江里口信常は限界を超えた行動をしているせいで次第に動きが鈍くなりつつであった。それを見た明智は余裕な表情で江里口信常に言うのであった。




「ついに体力が切れてきたのですかな、まあ、仕方がないことですね。あなたの相方が私の恐怖に飲まれて使い物にならなくなりましたからね。」



「最初から援護してもらおうと考えていないでござるよ、ただ彼女にはこの場から逃げてほしい所でござるが・・・・だから、この一撃にかけるでござる。」





そうして江里口信常はすべての力を次の一撃に注いだのであった。それは明智をここで深手を負わせることが出来たならアーリナを逃がすことが出来るかもしれないそんな希望をすべてこの一撃にかけたのである。



明智は所詮、死にかけの者の一撃であるためにそんなに警戒心は出しておらずどんな風に殺してやろうかと考えているばかりである。




そんな時であった江里口信常が最後の攻撃を仕掛けてきたのである。明智は特に警戒をしないで軽く防ぐだけでよかったはずであった。





しかし、江里口信常の槍は光り輝いておりまるで光の槍・・・ブリューナクのようであった。




光、輝いた槍は明智の心臓を貫き通した。まるで光の槍が江里口信常の守り通したい信念のようにも見えたのであった。そして明智は今まで見たこともない量の血が体から流れ出したのである。



「お、おのれーーー。江里口信常・・・絶対に許さんぞ。殺してやるーーー。」



だが、明智が深手を負っておかげで結界が崩れてきておりアーリナぐらいであったなら切り抜けるほど崩れたのであった。



江里口信常はアーリナの方を見て無言で見つめるのであった。それが通じたのかアーリナは何も言わずその場から逃げ出したのである。




それを見届けた江里口信常は明智に対して堂々と宣言をするのであった。



「・・・明智、この戦い・・・この江里口信常が勝利を頂いたでござる。」



その宣言はまるで咆哮のようにも聞こえたのであった。






















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