在る転生少年のくだらない話

欲望貯金箱

第1話

 俺が転生して一番最初の後悔は、産まれ直して赤ちゃんプレイ強制されたことだ。下手に意識があるといらない羞恥心で死にたくなること請け合い。

 次の後悔は記憶を固定しなかったこと。転生チートは記憶力に直結している場合がほとんどなのに、異世界来てから生まれて今まで勉強に次ぐ勉強、労働に次ぐ労働で前世の重要なチート技術なんていらん知識しか覚えてない。

 つい最近の事と言えば神様に願った膨大な魔力の所為で下半身の半不随になったこと。それと声もあまり出せなくなったことかな。転生したことそのものが直接的に体を傷つけたわけじゃないから質が悪い。

 それでも、それでも俺は生きている。

 生きていられている。

 それは酷く退屈で最初の一歩から躓いたバカなやつの話だ

 これは俺のくだらない話だ。

 くだらない俺の話だ。


―――――――――――――――――――――


 剣と魔法のファンタジーな世界で一旗揚げて異世界ハーレム。

 ライトノベルやネット小説で憧れた世界に行くにはひどい痛みを経験しないといけない。

 心とか体とか。

 それは厨二要素だったり交通事故だったり、あるいは恋した少女に振られたり、階段から転げ落ちたり、そんなとこ。

 神様も美しい女神や年老いた男や少年、獣、龍、光の球とか自分の理想像とか。

 ある意味では厨二の心を映しているのかも。

 なんて考える余裕があるわけでなく。

 これは現実逃避。

 体中が痛い。とても痛い。

 どうしてこうなったんだっけ。


 普通の家の生まれで、遊びは農作業の手伝いで、貴族の1人も来やしねえ。

 そんなドの付く田舎に生まれたのが俺。

 アンゲルス・アドレサンス。

 苗字はあれど土地由来のもので、ご近所に同じような名前が並ぶのもちらほら。

 トニー・ルイとかジョン・ルース、ハンナ・ルインとか、とにかくルーイーンって土地にちなんだ苗字が並んでるから珍しいと目立つわけで。

 アドレサンス家は大昔にルーイーンに左遷された騎士さまの家系なんだと。

 まったく困っちゃうね、俺のハーレム街道に繋がる騎士物語だったら良かったんだけど。

 冤罪で長男がムリヤリ姫様孕ませた罪被せられてそこそこ力持った貴族だったから騎士職についてた五男が田舎に逃げても問題なかったらしい。

 ルーイーンの人たちもアドレサンス家にご恩があるからと受け入れてくれたらしい。

 これ、教会での授業でテストに出るから。

 テストで思い出したけど、魔法がある。魔法のテストはないけど。

 魔法の授業があるから遅くても6歳で検査するわけ。

 魔力の初期総量が多ければ強い魔法も便利な魔法も使い放題だけど、否かで使う魔法なんてほとんど無いから。

 せいぜい洗濯のときに水に直接触れなくて良かったり乾かすのが早かったりするくらいじゃね?

 で、まあ俺も村の少ない子供たちと一緒に遅めの魔力検査したわけですよ。

 他の子供たちと一緒になって石投げして隣家の馬怒らせてみた。

 牛の飼葉でかくれんぼした。

 そんな思い出が吹き飛んだね。物理的に。

 魔法に優れていればチートハーレム、略してチーレムも夢じゃないって思ってたんだよ。

 幼馴染は男子しかいないけど。

 そう思ってたんだ。


―――――――――――――――――――――


 荘厳な雰囲気の教会の中で、ぺちゃくちゃ喋って神父さまに叱られて。

 シスターの老婆ににらまれて緊張してさ。

 いざ俺の番になって、検査用の水晶に手をのっけたんだ。

 目の前が真っ白になった。

 比喩じゃなく光で眼を焼かれるかと思った。

 外から眺めていた、今年もそんな時期が来たねえと笑いあってたジジババも腰を抜かしたらしい。

 そりゃそうだ。

 内側から白い光を放った協会が爆散すればな。

 教会内部にいた子供たちは嫌な予感がしたんだと椅子にしがみついてて無事。

 でも至近距離にいた神父さまは大きなステンドグラスにたたきつけられて重症。

 シスターも壁にたたきつけられて重症。

 俺も子供で体重軽くて、水晶に触れていたから爆発をもろに受けて吹き飛ばされて。

 一番遠いはずの出入り口の扉まで吹き飛ばされて、飛んできた主祭壇に挟まれて扉ごと外に放り出され、硬い地面に叩きつけられて。

 気がついたらシュライバーン王国国立病院のベッドに寝かされていた。

 どれがいけなかったのか、どれもいけなかったのか。

 俺の体は30分も立ってられない、というか立つな座ってろ車椅子強制な!な状態になっていた。

 これも記憶にないんだが、二週間眠り続けてたまに発狂したみたいに大声上げたそうな。

 おかげで声もガラガラ、今じゃかすれた音しか出ねえよ。

 それでも魔力の量が、質が、魔法使いの才能がある、国が引き取る、いや研究室に来ないか、実験させてくれ、庶民の生まれではないのでは、農民にふさわしくないとまあ色々な人が訪ねてきたんだと。

 父母はノイローゼ気味になったあげく俺を置いてどこかに行ってしまって。

 現在は重傷を負わせてしまった神父さまのところで厄介になってる。


 まあ、聞いての通りだよ。

 異世界ハーレム?無理ムリ。

 魔法で世界を救う?この足で?

 他人に迷惑かけて親に見捨てられたのに。

 のうのうと生きていられている。


 そういうくだらない話をしていくわけ。

 わかる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

在る転生少年のくだらない話 欲望貯金箱 @81273

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ