第14話 勇者と執事と鐘の街①
カナデ村を立ったジン達は現在、教会都市リンゴーンへとやって来ていた。教会都市リンゴーンは通称鐘の街と呼ばれている。それは、街の中央にあるヒュマナス教の教会にある大鐘楼から来ている通称だ。
この鐘は朝、昼、それに夕暮れに鳴らされる。この街の人々はこの鐘の音を基準に生活していた。今も丁度、昼の鐘が鳴ったところだ。
「ジン殿、今日は図書館へ?」
そう聞いたのはファフナー。今彼らは宿屋の一室にいた。
「ええ、ちょっと調べたいことがあって」
リンゴーンは大きな都市ともあって、図書館施設も存在していた。それを知ったジンは図書館へ行きたがった。その理由は、先代勇者の手記にあった"ディアノメノス"の手がかりを探すため。このことは、まだ誰にも話していない。話していい事かもわからなかったからだ。故にジンは一人、図書館に行こうとしていた。しかし――。
「それなら、私も一緒に行きましょう。私も今日はすることが無く退屈だったのです。宜しければジン殿の探し物も手伝えるでしょう」
ファフナーが同行を申し出た。
ジンは曖昧に笑うと、では宜しくお願いします。と言った。よくよく考えてみれば、この世界の知識をあまり持たないジンにとって、誰か聞ける人間がいるのは悪くないことだ。
「残念です。私は教会に用事がありますので……。勇者様と一緒に過ごしたかったのですが……」
そう言うメリオ。
「私も今日は騎士団に顔を出せと言われていますので、残念ですが」
ニルスもどうやら用事がある様だった。
結局、ジンはファフナーと連れ立って図書館に行くことになった。
図書館は街外れにあった。そこは円形の建物で、中に入ると正面に受付が。左右には階段があり、本棚はその奥に並んでいた。
「凄いな、これが異世界の図書館か」
「本は基本的に持ち出し出来ない。持ち出そうとすると、本に掛けられた魔術に探知されて直ぐにバレますから、決して外に持ち出さないように。因みに二階に本を読むスペースがあるので、本はそこで」
「受付は?」
ジンが尋ねるとファフナーはチラリと受付を見る。
「アレは特別な許可を得ている者に対して本を貸し出すための受付です。俺達にはとりあえず関係ない」
「へぇ……」
ジンはならば、と本を探しに図書館の中を歩き出した。
「ジン殿、因みにどういった本をお探しで?」
ジンは言うか言わまいか悩んだ末、ファフナーに相談してみることにした。
「ファフナーは、ディアノメノスって何か分かるか?」
「ディアノメノスですか?」
ふむ、と頷くとファフナーは続ける。
「恐らく、知の神。神竜ディアノメノスのことでしょう」
「知の神?」
「ええ、
「……成程」
ジンは思案した。もし、それが本当なら、先代勇者である一条 美怜がディアノメノスを探せと言ったのも頷ける。きっとそこに答えがあるのだろう。
「そのディアノメノスってのは何処にいるんだ?」
「……それよりジン殿。ディアノメノスのことは何処で?」
ギクリとジン。
ここは誤魔化すべきか、正直に話すべきか。正直なところ、ジンは仲間であるファフナー達を信用していない。散々考えた結果、恐らく彼らには先代勇者と同じく魔族に憎しみを持つように洗脳が施されているのだろう。そうなると、他の洗脳が掛かっていない保証がない。ジンは迂闊なことが言えないのだった。
すると、ファフナーは溜息を吐き、勇者に耳打ちした。
「ジン殿が我々を信用していないのは分かっています。その理由も。私はこれでも優秀です。自分に掛かっている洗脳の術式程度はレジストしていますので、そこまで警戒しなくて結構ですよ。……それに、アステアのあの街路樹、アレのお陰で私に掛けられていた術式は綺麗さっぱり壊れました。形だけは残っていますけどね」
ジンは驚いた。まさかファフナーが気づいているとは思いもよらなかったからだ。
「恐らくはヒュマナス教の洗礼、あの儀式でしょう。私も幼い頃に受けましたが、我等の家系は魔術師の家系。まず初めに習得するのはそういった呪いとも言うべき魔術に抵抗する術です。ああ、このことは他の二人、特にメリオには黙っていて下さい。彼女は教会側の人間ですから」
ジンには確かに洗礼を受けた記憶があった。それも数度に渡って似たような儀式を経験している。
「成程、ね。普段は?」
「フリをしていますよ。この国では魔族に対する絶対的な嫌悪は常識ですからね」
道理で、ファフナーがカナデ村で魔術を放つのを一瞬でも躊躇したわけだ。
ジンは思った。これなら、ファフナーには打ち明けても良いんじゃないかと。ある意味で、この世界で初めて出来た本当の仲間、という意識が芽生えた。
「実は……」
「ジン殿、待ってください」
ジンが先代勇者の手記の事を打ち明けようとすると、ファフナーがそれを静止した。それは――。
「おや、貴方様。大変!顔面に凶相が出まくってますわ!今にも死にそう、ああ怖い。怖いわぁ」
いつの間にか見知らぬ銀髪の女性が近づいて来ていたからだった。
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