第13話 閑話 - 執事と主と鬼人
「と、いう訳でして」
「……」
ブルーノート伯爵家執務室。そこで、この屋敷の主であるブルーノート伯爵ことバイオレットは執務机の椅子に座り、頭を抱えていた。
「どうしましょう」
「どうしましょうじゃないわ!この馬鹿タレが!何で勇者の動向を監視しに行った奴がオーガを鬼人にして帰ってくんだ!その上連れてきやがって!」
彼女の正面には執事姿の男。それに何故かやるせなさそうに俯いた浅黒い肌の青年。それにホブゴブリンが五名程。因みに浅黒い肌の青年の左の額からは角が一本生えている。彼はジルバが倒したオーガが進化した鬼人、ガズルだ。
バイオレットは盛大に、これ見よがしに溜め息を吐いた。
「分かった。お前がどうしようもなくアレな奴だってことはもう、分かってたことだし。この際だ、建設的な話をしようじゃないか」
再度大きな溜め息。
「分かっているとは思うが、鬼人ってのは魔王クラスだ。魔王クラスってのは、分かっているとは思うが、他の魔族をその力で統治出来る程の力を持ってるってことだ」
「ええ、存じておりますとも」
「……で、そんな化け物みたいな存在がこの世界に一人増えちまったわけだが、問題はこれをどうするかだよな?」
ジルバは頷く。ガズルは何故かシクシクと泣いている。
「コイツを野放しにすることは出来ない。とすれば、誰かが首輪をつけて監視しておく必要があるわけだ。そして責任の所在はジルバ、貴様にあるわけなのだが、さて、どうするのが良いか答えてみろ」
「この屋敷の使用人として、バイオレット様が監視すれば良いかと。部下の不始末は上司が責任を持つということで」
「ああ、正論だ。正しい。もうこの際だからはっきり言おう。もうこいつは、こいつらはウチで引き取るしかないんだよ!それで、こいつらをどうする。誰が教育する?」
「ええ、勿論バイオレット様が……」
「馬鹿か!?私にどれだけの仕事があると思っている!」
「ですよねー」
「ですよねーじゃないわ!」
ムキー! と言わんばかりにブルーバイオレットの髪をグシグシとかき乱すバイオレット。
「……トレードオフか、畜生。で、勇者の動向はどうなっている」
「現状は問題ないかと。現在はカナデ村を出立し、鐘の街リンゴーンを目指しています」
「やはりリンゴーンを目指すか。あそこはヒュマヌス教の総本山、面倒なことが起きなければいいが……」
「無理でしょうね」
バイオレットはもう何度目か分からない溜め息を吐いた。
先代の勇者に関してもそうだったが、魔国への侵攻ではカナデ村を出た後にリンゴーンに一週間程滞在し、そこで教主により
「……事前策は打てたのか?」
「いいえ、特には。今回は少し邪魔が入ったり、ハプニングがありまして。というか、ぶっちゃけすっかり忘れておりました」
バイオレットは歯ぎしりした。
「ですので、残念ながら私は直ぐにでも引き返し、勇者殿に
「本来ならお前に少なくともこの鬼人は任せたいところだが……、おい、鬼人ってお前は何で泣いてんだ!」
「いえ、どうやらこの方、先の私の姿に惚れておいでのようで」
何故か泣いてるガズルにようやくバイオレットが触れる。しかし、ガズルが泣くのも仕方ないだろう。惚れた女が何故か執事の男になってしまったのだから。これほど悲しいことはないだろう。咽び泣くガズル。
バイオレットはまたも頭を抱えた。
「お前、これもう本当にどうすんだよ……。ええい、泣くな!鬼だろう!」
鬼とか関係あるのかどうか分からないが、バイオレットは数分間に渡りガズルを宥め、というか罵倒した。
ようやく涙の止まったガズル。そこには強い意志の光が宿っていた。
「何だか良く分からないが、俺はもうここを出ていかせてもらうぜ。これ以上いても仕方がねぇ。むしろ嫌なことを思い出しちまう」
「ほう、何かサーヴィスでも足りませんでしたか?」
「違わい!貴様の事じゃ!嫌なこと!」
朗らかに笑うジルバ。ガズルはジルバの胸倉を掴む。
「貴様のせいで、俺の心は今ドス黒い何かに染まってんだ!テメェの首一つじゃ済まさんぞ!?」
「それは恐ろしい」
やっぱり笑うジルバ。これでは埒が開かないと、バイオレットが口を挟む。
「貴様、ガズルとか言ったな。残念ながらお前をはいそうですか、とここから出してやるわけにはいかん。貴様の力は今や世界の情勢を余計めんどくさくさせかねんからな」
「だったらどうするってんだ」
凄むガズルに対し、バイオレットはやはり溜息を吐き――。
「こうする」
とフィンガースナップ一つ鳴らす。すると、ガズルを囲むように魔方陣が展開され、胸倉を掴まれていたジルバごと雷撃が襲う。上がるガズルの呻き声。因みにジルバは瞬時に効果範囲から抜け出していた。
「言っておくが、貴様ではそこの馬鹿どころか私にも勝てないということを覚えておけ。そして、貴様はこの屋敷で大人しくしていてもらう。……次いでだ。貴様等もこの屋敷で働いてもらうことにしよう、ちょうど人手不足だ」
そう言ってホブゴブリンを見回すバイオレット。
「いいな」
今度はバイオレットが凄む。今のやり取りで迂闊に手を出してはいけないと思いコクコクと首を縦に振るホブゴブリン達。
この日から、ブルーノート伯爵邸には六人の使用人が増えることになった。
彼等はバイオレットにより、物理的に仕事の内容を叩き込まれ、立派な使用人になったとかならないとか。
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