第4話 「バリケードの向こう側 4」
その週の土曜日。和哉はT県のU市の駅に来ていた。都内からの直通の電車から飛び降り、出口を探す。何故、T県に来たか。当然ながら【バリケードの向こう側】へ行くためだ。監察官が【バリケードの向こう側】から帰ってこないというニュース後からの3日間は和哉の【バリケード】への関心を強く引いた。案の定、監察官はその後帰って来ず、更には廃墟内で彼らのDNAと一致する血が数滴発見された。これは瞬く間に全国版のニュースや朝刊にのり全国に知れ渡る事になった。その後の調査で彼らの衣類が全て見つかった。だが、その後の調査で彼らの遺体はおろか人間の影すらも発見する事ができなかった。奇妙な事が多く続く【バリケードの向こう側】の調査は、警察も全力を尽くしたものの早々に打ち切られ、【バリケード】はまた誰も居ない閑散とした唯の廃病院と化してしまった。そんな隙を狙って【バリケードの向こう側】には本当に何も無いのか?という高ぶった欲求を解消すべく和哉は友人を連れて、【バリケードの向こう側】へ向かう決心をしたのだ。そして、今、駅の近所のレンタカーショップに駆け込んだところだ。手続きを済ませキーを定員から預かり、指定された車に乗り込む。エンジンボタンを押す。エンジンがかかり、車が振動し始める。5人全員が乗り込んだのを確認すると和哉はハンドルを握り、ブレーキから足を離し始める。レンタカーショップの敷地から出て大通りを走り始めると、一人の人間が口を開く。
「どのぐらいかかるんだろうな?ここから」
この発言は栄一のものだ。【バリケードの向こう側】の知識を一番持っているだろうし、何より【バリケードの向こう側】への好奇心を一番もっているだろうという事で、和哉が誘ったのだ。
「まぁ、山の奥だからな…。一時間ぐらいかかるんじゃないか?」
どのあたりにあるかは知っていても実際にどのくらい時間がかかるかというのは全く分からなかったため、和哉はあてずっぽうで言い放つ。
「また、適当に答える…」
呆れたようにそう言い放つと、美佳は窓の外に眼を向ける。
「そう言うなよ…」
そっけない美佳に対して諭すように和哉は言った。オカルト染みた事が嫌いなのを和哉は知っていた為、美佳は誘わなかったのだが、【向こう側】へ行く事がバレ、無理矢理ついて来た。つまらないからやめておけと言ったのだが、ついてくると聞かなかった。案の定、電車がT県に入る頃になると次第に不機嫌になり、電車を下りる頃には完全に機嫌を損ねていた。
「そうだぜ!?勝手についてきたくせにそりゃ無いぜ!?」
和哉の味方をするのは、同じ大学で、和哉、美佳の高校からの友人である上原 智樹だった。
「智樹も馬鹿よね?こんなのについてくるなんて」
美佳が皮肉たっぷりに言う。「な!?」という智樹の声が塞がれ、その横から女の声が聞こえてくる。
「いいじゃんね!?智樹!」
智樹の恋人である江上 優華だ。智樹を誘った時に智樹が彼女を誘ったのだ。優華はこの事を告げると喜んでついて来た。智樹も優華もホラーが好きらしく、よく友達を誘っては廃墟めぐりをしているとの事だった。
「ま、俺達は好き勝手についてきてんだから心配すんな」
「心配なんてしてないわよ」
智樹の言葉を否定するように冷たい言葉をかける美佳。後ろの座席からハンドルを握る和哉の首を絞め、前後に揺らしながら智樹は言う。
「だぁぁぁ!!和哉!この女をどうにかしろぉぉぉ!!」
「ぐぁ!?ちょっと!や、やめろ…」
そんなやり取りをしながらU市内を5人を乗せた車は駆け抜けていった。1時間50分後、彼らの車は例のバリケード前についていた。いつかテレビで見たとおりの風景が彼らの眼前に広がる。
「ここがバリケードの向こう側か…」
いざといわんばかりに落ち着いた雰囲気で智樹が言った。
「行こうぜ!」
栄一が意気揚々と言うと、ずかずかとバリケードをまたぎ、木の壁に覆われた砂利の一本道を歩き始めた。そんな栄一を止めるように和哉は声をかける。
「おい!何があるか分からないんだ!気をつけろよ!?」
栄一は和哉の声を聞くと気取ったように後姿のまま右手を上げた。
「ったく!勝手に入っていきやがって!栄一を追おう!」
和哉も自分のバックを右肩から斜めにかけると、バリケードをまたぎ一本道をひたすら歩いていく。それについてくる3人。また、彼らの手には、各々のバックが握られている。
「おい美佳。お前、こんなの嫌いだろ?ついてこなくてもいいんだぜ?」
智樹が、後ろ頭を両手で支えながら皮肉を言った。それに対して美佳は鋭い視線を智樹に投げかけ言った。
「何よ!?あんなところに私一人にするつもりなの!?」
「何だ~?お前怖いのか?」
「あ、当たり前でしょうが!!」
あははははと智樹がちゃかすように笑う。二人の痴話喧嘩が森中にこだまする。まだ、日が暮れる前だというのに森は薄暗く来るものを闇の中に誘う。4人が歩く砂利道も永遠に続くように思えた。数分間、歩けど歩けど同じ風景の道を歩き続けるとやがて開けた場所に出た。それもまた、テレビで見た廃病院が佇む広い面積の場所だった。
「こ、これが…【バリケードの向こう側】…」
テレビで見たことはあるが、この病院の禍々しさはテレビからでは伝わらない、実物を目の前にしたときにしか味わえないものだった。ふと、病院の入り口に目をやると入り口の前で仁王立ちをし、病院を眺める栄一の姿があった。
「おーい!栄一!!」
栄一の元に駆け寄る。
「勝手に行くんじゃねぇよ」
智樹が憎まれ口をたたくように栄一に言い放つ。
「ごめん。いてもたってもいられなくて…」
後ろ頭を右手でボリボリと掻き毟ると申し訳なさそうに言い訳をした。
「で?これが【バリケードの向こう側】ってわけ?」
栄一の言い訳を無視するように美佳が言う。能天気な声が夜の山へこだます。
「わー、私も初めて来たー!」
はしゃぐ優華。
「じゃあ、入ろう」
智樹がそんな優華のはしゃぎようを無視するように言う。誰一人として相手の言葉を耳に入れようとせず、思い思いの事を言う。和哉はそんな状況に頭を抱えた。そうして思い思いに廃病院へ足を運び、和哉は病院の外に取り残されてしまう。
「はぁ、先が思いやられるな…」
と呟いた瞬間、後ろの森がガサガサと鳴る。驚き瞬時に振り向くが何も無い。しかし、森が歌うようにガサガサと風にあおられいつまでもいつまでも鳴り響く。それは5人に対するレクイエムのように和哉は聞こえて仕方が無かった。
「…嫌な予感がする…」
いつの間にか、森の中は暗くなりつつあった。暗くなりつつある。木々の間からこぼれる光もあと少しでその命が絶たれてしまう。和哉は暗闇の世界を想像しながら、4人と合流するように病院内へ入っていった。
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