81話Cold/的中する懸念
「ミ、ミイラ取りがミイラになる……古典ね。これ」
ベッドに運び目を覚ましたエミリアの第一声がこれである。
運んだ先は城に内にあるセシリーが借り受けている部屋の一つであった。
普通の病院は重症者で溢れる寸前なうえまともな治療は受けられない。スノージュームの時に運んだ人達を収容している近くの別荘は、城から離れているうえに部屋もほぼ満員状態。
使っていないモノであれば空きは幾らでもあるらしいのだが、そうなってくると今度はカミーリア自体から離れてしまう事となる。
「大丈夫か? 何か持ってこようか?」
俺はエミリアの枕元に降り、そう問いかける。
「あたしなら大丈夫。心配しなくても平気だから」
此方を向き、辛そうな表情で微笑みながら俺の頭を撫でながら彼女はそう言った。
「でも」
「ほらほら、あたしのためを思うなら早く解決策探してくる」
「分かった。何かあったら呼べよ」
「頼りにしてる」
俺はパタパタと飛び立つと振り向き、アンナの顔色を見た。
「……アンナは此処に残ってくれ」
それだけ伝えると俺はドアの方へと飛んでいく。
「わ、分かりました。此方は任せてください」
「頼む」
ドアノブを全身を使って捻り、開けると部屋を後にした。
俺が出ていくのを確認し、アンナはゆっくりと口を開く。
「ユニーちゃんに、"また"何か吹き込みました?」
「……いいや。あいつが自分で気がついた。まっ、アホでもないと気がつくわよ。そんなやせ我慢」
エミリア同様冷や汗が頬を伝い、彼女顔もまたほんのりと赤くなって辛そうな表情となっていた。
「まぁ、そうですよね」
◇
さて、どうしたもんか。
エミリアもアンナもダウンしたとなると、中々厳しい状況だぞ。
大規模な魔力の暴走。これが自然発生するとは考えにくい。何か人為的な原因である可能性が高い。
こうなってくると、戦闘をする可能性が高くなってくる。一応、変体のリロードは終わっているため使用は可能だが、効果時間は3分が限度。
この力はアテには出来るが、長期戦に持ち込まれたら話は変わってくる。
そもそも俺も発症して動けなくなる可能性もある。早く解決しねぇと……。
「どーでした?」
通路の窓際で考え込んでいると、ティーセットを乗せたトレイを持ったルチアが話しかけてくる。
「2人共動けそうにない。ルチアも体調悪くなったりしてないか?」
「僕は今の所は平気ですね。後、バッシュに先に流行り病の方を止めてこい。ってゆわれまして、このまま微力ながらユニーさんのお力になれればと、お邪魔ですか?」
「いや、助かる。話を詰めよう」
それから会議室に向かうと、動きやすい格好に着替えを済ませたセシリーの姿があった。
「ユニーさん。すみませんわね。わたくしの見通しが甘かったばかりに」
「状況を聞いたのは俺達からだし、ほっとけもしないからどうあがいても似た状況にはなってた。だから気にせんでいい」
「それを言いますと、わたくしも呼びつける準備を進めておりましたし」
だろうな。返事がやけに早かったから薄々気がついてはいた。
「だとしてもだ。セシリーのせいじゃ」
てろり~ん。という懐かしい音が頭の中で響き渡る。
久々の事で反応がワンテンポ遅れてしまう。
びっくりした。こんなタイミングで魔法の追加か? それとも情報か?
☆新規の能力を習得しました。
という文字が見え、能力か。と思いつつ何が追加されたのかと思い詳細を開く。
◯[契約数の増加]3人目の魔法少女と契約する事が可能になりました。これまで同様に対象に意識を向け、汝、我と契約し魔法少女にな~れ]と言って下さい。強制的に契約し魔法少女とする事が出来ます。
……マジか。このタイミングでか!?
すると、解放条件に[契約した魔法少女が二人共死亡ないし戦闘不能に陥っている場合]と書かれており、ある意味必然とも言えるタイミングであった。
「どうかしましたの?」
急に黙り込んだ俺を覗き込んだセシリーが問いかけてくる。深く考え込んでいたせいか、彼女の接近に気がつくのが遅れてしまっていた。
「うわっ!? な、なんでもない」
この話をすれば興味津々で根掘り葉掘り聞かれる可能性を懸念した俺は、誤魔化しとりあえずいないであろう魔法少女候補を探す事にした。
えーっと確か、念じればいいんだっけか。久々過ぎて感覚が鈍く……。
「マジか」
「どうかしました?」
今度は紅茶を淹れているルチアに話しかけられる。
「な、なんでもない」
「本当ですの~? ユニーさんの可愛い顔にはとてもそうには見えませんけれど」
「ふ、2人の事が心配なんだよ。そうだ。そう、これからの動きを詰めよう。そうしよう!」
誤魔化すようにして話を降っていた。
動きやすい服に着替えているという事は、付いて来る気があるという事。そして、止めても彼女は止まるような奴じゃないので諦めるほかない。ならば、逆にそちらに話の矛先を向けてしまえばいい。そうすればこれ以上追求されることは多分ない。
「まっ、そういう事にしておいてあげますわ」
この反応、絶対にバレている。
椅子に腰掛け、これからの動きを話し合った。
ある程度の資料は既にかき集めた。と言われたが、新たに発見した事があるかもしれない点と、俺達の視点で見える事があるかもしれない。という事を踏まえ、まずは聞き込みに出る事で話はまとまった。
ただ、病院に押しかけたのでは邪魔になりかねないし集めた情報もある。よって、この場合は医師からの情報ではなく、完治した人からの情報を集める事にする。
主に治った前日から直前にかけて何をしていたのか。を聞いて回るのだ。
その中にヒントが恐らく紛れ込んでいる。が、まずは目の前に居るセシリーから話を聞いてからである。
彼女は治る前日、動ける人員と一緒に機能不全に陥りかけているギルドに頼まれ、グリモアーバ及びアウラウネの討伐に出かけていたそうだ。後は食事を薬膳料理中心にした事。
変わった点はこれらで後はベッドで安静にしただけ。
「ありがとう。じゃぁ、行こうか」
俺達は部屋を後にし、街へと出向くため歩を進め始める。
そういえば、スピカの奴何処行ったんだ?
などと思いだしたかのように彼の姿を横目で探していると、城の入り口で律儀に灰皿を片手に佇んでいる姿を発見した。灰皿には10本ほどの吸い殻があり、ヘビースモーカーなのだと察する。
「あら、スピカさん。このような場所に居たのですの。仰ってくだされば部屋を用意致しましたのに」
「やっと来たか。面倒くせぇ話聞いてても訳分からんだけだし、部屋借りるほどでもないからな。だったら此処でタバコでも吸って時間潰そうって
「とても動けそうな状態じゃない。スピカは平気なのか?」
「ハッハ、おりゃぁ体が丈夫でな。んじゃ、護衛してやっからさっさと行くぞおら」
街へと繰り出し、用意されていたリストを見ながら1人1人聞き込みを開始した。
のだが、完治した人物のほとんどが傭兵並びに冒険者であり、前者はまだ良いのだが後者は既にカミーリアから出て居ない人が多い。
傭兵も日中はカミーリアから出て狩りや採集をしていた人が多く、結局数時間を費やし話を聞けたのは3名ほどであった。
「うまく行きませんね」
そして日が傾きかけた頃、俺達はリストの最後にあった酒場の店主の所にやってきていた。
「だなー、バオム酒1つ」
至極当然のように酒を頼むスピカの足を、ルチアが思いっきり踏みつける。
「いてぇ!?」
続けて、痛がる彼を見上げてこう言った。
「飲みに来てるんじゃないんですよ。この変態さん」
可愛い裏声なのは変わらないが、ドスが効いており何処か怖い印象を受ける。
「いいじゃねぇかよ。自腹で飲もうってんだから」
「それがいけないと言ってるんです」
言い合いが始まり、俺は疲れた表情でただ呆然と眺めていた。
「仲がいいですわねぇ」
「いいのか? これは」
次第にヒートアップしていき、ルチアの広島弁が段々で始めていた。
「……ほっといて、話を聞こう」
「ですわね」
この場に限りセシリーがまともに見える。
俺達は店の奥へと行くと、この姿を見て驚く店主を宥めつつ話を聞き始めた。
「治った前日ねぇ。あぁ、グリノコが取れたってんでお得意様からもらって食べたくらいかね。俺なんかに渡さずに売っちまえって言ったんだけど、これがまた休業されると困るから栄養つけろって言われてねぇ」
グリノコ。グリモアーバの若芽で食べる事が出る。現実世界で言えば
問題はその異様な成長スピードであり、低木なのも在るがグリノコが発生後1日から2日程度で過食部分がなくなってしまう。更に数日すれば
故に安定供給など無理に等しく、入手そのものが困難な所から高級食材の1つとなっている。
栄養価も高く一部の人間からは薬膳としても扱われているほどだ。
「お元気になられてよかったですね。他には変わった事はありましたか?」
「うーん。後は……店じまいを早くしちまったくらいだねぇ。ごめんねぇ。力に慣れそうになくてさ」
「いえいえ、十分助かります。ありがとうございました」
「ユニーさん、このお店美味しいですわ……!」
何時の間にか、料理を注文をしていたセシリーが感激の声をあげていた。
まともに見えたのは俺の錯覚だったらしい。が、嬉しそうに頬張っている彼女を見るとどうでも良くなってくる。
言い合っていた2人に目をやると、ルチアが言い負かしたようで渋々水を飲んでいるスピカの姿があった。
「あ、すみません。あいつ止めるので必死で」
「酔っ払いになられても困るから助かった。なぁ、セシリー」
「なんですのー?」
此方を向き、手で口元を隠し返事をする。
「お前も、グリノコ食べたのか?」
「ええ、食べましたわ。運良く少しばかり採取出来たので、お城で述べた薬膳料理に混ぜてもらいまして」
「ありがとう。となると……」
1つの仮説は頭に出来上がってはいた。だが、確証がないうえにもし合っていたとしても、現状知っている情報だけでは対処が不可能だ。
「セシリー。今、手隙の医者っているか分からないか?」
「医者ならどなたでもよろしくて?」
「構わない」
「であれば、王宮に待機させている者が居ますわ」
「話をすることは出来るか?」
「勿論、出来ますわよ。……バッシュ。準備なさい」
すると何処からともなく、了解。と返事がなされ、天井から何者かが移動するような物音が聞こえてくる。
「バ、バッシュも来てたの!?」
「ええ。此方が最優先事項ですし、あの子達は基本わたくしの周辺警護してますので」
食べ終わり、スプーンをお皿に上に置く。立ち上がり皿の隣に頼んだ料理の10倍以上のお金を置いた。
「セ、セシリー様。その、金額が多く……」
「お気になさらず。また来ますわ」
と、言い残すと出入り口に向けて歩を進め始め俺も急いで飛んでいく。
「帰るのか?」
「そのつもりですわ。あのような質問をするという事は、大体の目星がついたのでしょう?」
この辺りの察しの良さは非常にありがたい。
そうだ。と返答しようとした時、背後からスピカが俺を押しのけ。
「あら、何やら騒がし……」
呟きつつ店から出ようとするセシリーを突き飛ばした。
「んな!?」「はひっ!?」
次の瞬間、彼は何者かに殴り飛ばされてしまう。
そしてその腕は人の物ではなく異形の生物のソレであった。
こんな、時に!!
「いったーい! ですわ……」
思いっきり前のめり倒れ込んだ彼女は、体を起こしつつそう呟く。
「全く、いきなり何を━━」
すると、彼女の背後で甲高い金属音が聞こえ振り向くと、変異体の攻撃をナイフで受け止めているルチアの姿があった。
彼は変異体を蹴り飛ばすと周囲の状況を素早く確認する。
「数5、囲まれてます」
跳び上がると、背後からセシリーを狙っていた個体をスカートを押さえつつ蹴り飛ばし、店の屋根から様子を伺っていた個体に威嚇するようにしてナイフを投擲した。
着地すると、手を差し伸ばす。
「分かった。逃げるようにして撤退しつつ対処しよう」
店から飛び出ると、指示を出しながら2人と変異2体と1人の巨漢の男の間に割って入るようにして止まる。
「第三ごうじょ、みづげた。おで、お前ら、たおず」
腕には黒い球体が嵌めてある腕輪を確認する事が出来た。
「七賢人か」
ルチアはセシリーを立たせ、ナイフを袖から出し構える。
「ナイフがよぉけぇないけぇ、何時も以上に戦力になれんと思うんでよろしく頼みます」
「了解。その辺りは任せろ。セシリー他の護衛は?」
「今に限ってはこの"場"には居ませんわ」
となると、この状況で出し惜しみしてる余裕もなければ旨味もない。
スピカとの合流まで耐えるにしても、浄化するためには俺が戦うしかないか。
「ヒューマン、変体!」
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