80話Cold/チンピラと原因

「いやー、悪いな。一緒に入れてもらう事になってよ」


 城門でチンピラと言い争っていた憲兵に話を通し、彼を一緒に入れてもらう事にした。

 単純に人手が必要になると考えたのと、エミリアの予想が的中しているのならこいつは良い戦力になる。

 ただし、条件として暴れない。セシリーのお眼鏡に叶わなければ王城から出ていく。の2点を提示していた。


 信用出来ない相手、よくホイホイ使う気になるわね。等々エミリアからぼやきのようなテレパシーが送られて来ていた。恐らく彼女から見れば悪手以外の何物でもないのだろう。

 彼の話だと此処から更に北に行った所に存在する山の村に住んでいるらしいのだが、なんでもカミーリアと同じ病で村人の多くが苦しんでいるという。更に、王都よりも症状が深刻であり薬を取りに来たのだとか。


「いえいえー。大変なのはお互い様ですから」


「はー、話の分かる"坊主"は面倒臭くなくていいな。あの憲兵共と来たら、ほんと面倒臭いったらありゃしねぇ」


 ソレが彼らの仕事だからな。と内心ツッコミを入れる。


「え?」


「なんだ? 何かかんに障ったか?」


「い、いえ……」


「ならいい。後、後ろに乗ってる女2人に獣1。そろそろ顔出してもいいじゃないのか」


「パス」「右に同じくです」


 2人共即答し、拒否していた。

 あまりの速さに彼は喉で笑い、1本のタバコを取り出す。


「ま、いいけどよ。警戒しねぇ方が可笑しいもんな」


「おい。タバコ、此処で吸っていいのか」


 俺は馬車の荷台から降りると、彼の元までパタパタと飛んでく。

 この世界にもタバコってあったのか。


「あん? 吸っちゃいけねぇのか?」


「いや、知らんけど、一応誰かに伺ってからの方がいいんじゃないか」


 少し考えた後、確かに。と彼は行ってタバコを仕舞った。

 エミリアの言う通りこいつは只者ではないかもしれない。

 馬車の荷台はほろで覆われている。よって、外から中に積んでいるモノの確認はしづらく、彼の立ち位置では中を見る事は叶わない。


 つまり、気配ないし親しいモノで俺達を察知したと言う事となる。更には言動から察するに、ルチアが男である事にも感づいている様子であった。

 幸い、見た目と言動の割には素直であり扱いは比較的容易であった。


「面倒くせぇくらいひれぇな」


 彼がぼやくのもうなずける。城壁門から10分ほど移動してようやく城の入り口に辿りついたのだから。

 そして彼は城を見上げ、でけぇ。と呟く。

 入り口付近には誰もおらず、閑散としていた。

 遠目に憲兵を視認する事は出来るが、大声で呼んでも良いものか考えてしまう。


「そういや名乗ってなかったな、おりゃぁスピカってんだ。よろしくな」


「俺はユニーよろしく」


「おう。お前とは、戦わんで済む気がする」


 すると、突然門が開き中からセシリーが現れた。

 周囲には彼女の私兵の姿はなく、憲兵も護衛についていない様子であった。


「お待ちしておりましたわぁ~♪ って、あら? この方は?」


 開幕スピカに興味を示し、問いかけてくる。


「城門で拾った」


「おりゃぁ猫か? てか、タバコ吸っていいか?」


「なるほど、捨て人ですの♪」


 荷馬車から吹き出したような笑い声が聞こえてくる。


「タバコはお好きになさってくださいまし。でも、吸い殻や灰をその辺に捨てるのはご法度ですわよ」


「つまり、拝領すりゃぁええんだな」


 俺はセシリーの耳元まで飛んでいき、小声でこう耳打ちする。


「こいつも手伝わせたいんだけど、いいかな。なんでも村人救いたいらしくて」


「よろしいですわよ。スピカさんは山賊の根城を襲ってそこに村作った変人でごく一部に有名ですし。同時に警戒する必要も薄い人物ですので、わたくしとしては好判断だと思いますわよ。それと口の布はまるで意味をなしませんわ」


 そう返され、呆気にとられてしまった。

 知ってたのかお前。じゃなぁなんで聞いたんだよ。あれもアイデンティティー1種なのか!?

 ルチアが馬車から降り、セシリーの前まで歩いていくと頭を下げた。


「セシリー様、ご無沙汰しております。お元気そうでなにより」


「かたっ苦しいのは嫌いなの知っているでしょう? やめてくださいまし、それに後ろ気をつけた方がいいですわよ」


「へ?」


 彼は頭をあげると首を傾げた。

 すると、ガバッと突然スカートが捲りあげられ、女性モノの下着があらわとなる。


「はー。ちゃんと女モン履いてんだな。やっぱ、こういう事するのに形から入るのって大事なんか?」


 最初は状況に気がついていなかったが、徐々に理解し始めルチアの顔が赤くなっていく。


「うわあああああ!? あっ、きゃあああああああああ!!」


 彼は一度素の声で叫び、言い直すようにして裏声で叫び直した。そして、回し蹴りを繰り出しスカートをたくし上げた人物であるスピカに食らわせようとするも、ヒラリと避けられてしまう。


「おっと、男同士じゃねーかよ。恥ずかしがるもんじゃないだろ」


「じゃけぇって、やっちゃいけん事はあるじゃろうがあほんだらー!!!」


 ◇


 それからセシリー自ら中に通され、彼女の私兵が作戦会議を開いている部屋へと案内された。

 中には彼女の私兵のうち1部隊を纏めているバッシュという少年が居り、椅子に小腰掛け項垂れていた。


「あ、お嬢様。ありがとうございます」


「いいんですわよ。この程度」


 すると、ルチア彼に駆け寄っていく。


「おひさー。お疲れ? それとも病気?」


「久し振り、前者。お嬢様の兵のほとんどが重症で動けるのが少なくて、しわ寄せが酷いなんてもんじゃないんだ」


 俺も彼の元にパタパタと飛んでいき、お疲れ様。と声をかける。


「ユニーさんも先日ぶりです。来てくれて助かりましたよ」


「さて、早速ですけれど話を始めますわ。バッシュはそのままもう少し休んでくださいまし」


 セシリーは深呼吸をすると話が始まった。


「ユニーさん達はある程度の概要は知っていると思いますけれど、今現在カミーリア及びごく一部の村で疫病……いえ、魔力の暴走による発熱、嘔吐、頭痛と言った症状が現れ、場合によっては内蔵の機能不全から死亡する例が十数件確認されておりますわ」


「ちょっと待って。魔力の暴走?」


 遮るようにしてエミリアがそう問いかけていた。

 病気だと手紙には書かれていたが、今語られた内容だと根本的な原因が異なっている。


「ええ。一昨日に断定出来た所ですの。とはいえ表向きは病気、という事になっておりますわ。それに何が原因で暴走するかも分かっておりませんし、解決策もほぼない状態」


「ほぼって事は何かありはするんだな?」


「ええ。現状、"魔力の扱い"に長けた者は暴走そのものの抑制から、正常の状態に無理矢理戻し完治することが可能ですの。問題はその魔力の扱いに関してなのですけれど、完治まで持っていくほどの魔力の扱いを手にするには最低数年から十数年はかかると言われまして。更にいえばこれは魔法使いの場合の話であって、一般の魔法が扱えない人はもっと時間を要する。ともなれば対抗策、解決策として採用するには些か時間が掛かり過ぎますの」


「でもセシリー様は、治ったのですよね」


 ルチアが率直な疑問を口にする。

 彼女が魔法を扱えるという話は効かないし、あの性格なら扱えたとしたら既に俺達の眼の前で使用しているはずだ。


「その事なのですけれど、完治した理由は不明ですわ。最初こそ症状が軽いから。だと考えていたのですが、なんでも症状の程度は関係なく、治らない人は一行に快復に向かわないらしいですの」


 そうなると、セシリーがなんで完治したかが鍵になってくるのか。


「ふぅ……話がまるで分からん」


 灰皿を片手に窓際でタバコを吹かし、スピカは呟いていた。


「スピカさんは面倒くさい事が嫌いなのでしょう? ならば、もし戦闘が起きる自体が発生したら撃退する手伝いをしていただければ十分ですわ」


「お、なら簡単だ。泥舟に乗ったつもりでいてくれやハッハッハ」


 彼は上機嫌に笑うが。


「それ、沈むわよね……」


 エミリアからツッコミが入る。


「こまけーこったいいんだよ。俺が沈んじまう相手ならそれまでだ」


 っほん。と上品っぽく咳払いをすると、彼女は話を再開する。


「話は逸れましたけど、もう1点お話する事がありますわ。魔力の暴走が発生した場合の重症者の割合。全体でみると、大体20~30人に1人程度の確率で重い症状になりますわ。ですが、これを種族ごとといいますか、エルフとその他で分けてみると、ちょっとした偏りがありましたの」


「偏り? エルフの重症者が多いとかか?」


「いえ、その逆ですわ。エルフは大体100人に1人の割合で重症者が出ているのに対し、他の種族は大体5人に1人の割合で出ていますの」


 なるほど、マンドレイクが効かないのも理由の一つだが、ソレ以上にエルフ以外の冒険者を遠ざけるために立ち入り制限を設けていたのか。

 それでいてセシリーの私兵は各地でスカウトして編成されていると聞いた。一応構成種族はエルフが一番多いらしいのだが、それだとしても打撃は大きかったのだろう。


「ちょっと、待って。それあたしとアンナ危ないんじゃない?」


 ほんのりと顔が赤くなっていたエミリアが問いかける。


「御二方は魔法が扱えますし、大丈夫だと踏んで呼びつけた次第ですの。それに、此方としても動きにくくて……エミリアさん?」


 次第に動機が荒くなり、冷や汗が彼女の頬を伝っていた。


「なるほど、全部は分かってないのはほんとみた……」


 喋る途中でエミリアの意識が途切れ、その場に倒れ込んだ。


「エミリア!? エミリア!!」

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