74話Zero2/接触
光が弾け、魔法少女の姿となった2人が現れる。
「よし、作戦……」
ピクピクとエミリアの耳が動き、突然走り出した。
『お、おいエミリア!!』
『このままだと、先手を打たれる!』
「ガード、ソードクリフト」
彼女の足元から壁がせり上がると同時に、右手に片手剣が生成され。
「ダッシュ!」
左手で指をパチンッと弾き、急加速して市壁の上部に向けて飛び上がった。
『アンナは!!!』
彼女の進行方向に、両腕のみが変異しアイマスクのような物をつけ尻尾が生えたマフラーを巻いている女性が市壁の壁を登って現れた。
そして、懐に飛び込み薙られた剣は変異した腕に防がれる。
『そのまま狙って!!』
押しのけるようにして腕が振るわれ、エミリアの体が宙を舞い変異体の尻尾の先が身体を捉えるが。
「アタック!」
指がパチンッと弾かれ、苦し紛れで放たれた衝撃が足元に着弾し、市壁の上部を少しばかり破壊しつつ砂煙を巻き上げる。
「手癖が悪い……」
アルファは煙で対象を見失い、威嚇射撃へと切り替え尻尾から水の弾を適当に撃ち放ちながら敵であるエミリア達の配置を肉眼で確認する。
「それに、用意もいい」
『カウス、魔法少女狙ってもらってもいい?』
『了解した。少し待て』
『ありがとっ』
煙が晴れると市壁の上にはエミリアの姿はなく、視線を上に尻尾を下からの攻撃に備えとぐろを巻くように身体に巻きつける。
空にも姿は確認出来ず下の確認に移ろうとした瞬間、金属音と共に下から撫でるように切り上げられていた。
「後、視界を外すのがうまい」
「ちゃんと備えてくるわね……!」
巻いていた尻尾を解く仮定で、彼女の身体に叩きつける。
だが、剣で受け止められ金属音と共にまた宙を待っていた。
今度は市壁の上ではなく、なにもない外側へと。
「ナイフクリフト、ランス━━」
だが、直ぐ様防衛に使っていた片手剣を投擲し、左手にナイフを。
「手癖が悪いのはもう知ってる」
アルファは回転しながら迫る剣を腕で弾き、尻尾の先が落下し始めたエミリアを捉える。
「━━クリフト!!」
続けて、生成されたナイフを投擲し右手に生成されるランスを盾のように扱い身体を守る壁とした。
無数の水の弾が射出され、盾としているソレに激突し衝撃が伝わる。
「アンナのアクアバルカンみたいね」
一発一発は重いけど、あの子ほどの貫通力はない。
着地する頃にはランスはボロボロとなっており、幾つかの攻撃は身体を掠めていたがなんとか直撃は避けることが出来ていた。
地に足がつくと同時に走り始め、回避行動へと移行。ランスを投げ捨てるように手放す。
「……とんでもねぇな」
突如始まった2人の戦闘を見ていたジェームズが漏らした言葉であった。
「わやじゃね。僕じゃマネできそぉにないわ」
「せんでいい。お前が歯が立たないと仮定するとどうするか」
狙われ一網打尽は防ぐために、固めてた部隊は散開させた。はいいのだが、あの戦闘能力が相手となるとこの数では焼け石に水でしかないとも彼は考えてしまっていた。
「避けれないことはないけど、変ね」
市壁の上からひたすらエミリアを狙っている攻撃に違和感を覚えていた。
確かに、半分囮となっている彼女が狙われている事は願ってもない事だ。だが、相手側の思考を読み取るとしたら、アンナやジェームズが率いている部隊の誰かを狙っていなければおかしいのだ。
逃げるのならば、この場合相手を減らすついでにかき乱し統制を崩す方が手っ取り早い。
初手に奇襲が失敗したとしても、この位置取りであの攻撃ならば行う事は十分に可能である。そして、未だにやってこない馬車。
水の弾を避ける際、バク転をし地面に手を付けた瞬間。
「ガード」
身を守り少しばかりの時間を稼ぐための土の壁を発生させ、着地しテレパシーを送る。
『何かあるから気をつけて』
「ソードクリフト」
片手剣を生成し逆手に持ち、土の壁を破壊して飛来した水の弾を弾き再び走り始めた。
思ったより時間が稼げないか。分身作ってなくて良かった。これじゃぁ、魔力の無駄にしかならない。
『こっちを全く狙わないのは、不気味だしな。分かった』
片手剣で水の弾を一つ切り払い、縦横無尽に走り回り避けていく。
にしても、まるで時間を稼いでるような━━。
すると、突然アンナの元に1つの何かが高速で飛来し、着弾とともに爆散して彼女の周囲に煙を巻き上げたのだ。
「アンナ!? ユニー!」
突然の出来事に思わず一瞬気を取られ足を止めてしまう。そして生じた僅かな隙を狙って放たれた水の弾は、エミリアの土手っ腹を貫き通り抜けると、地面に着弾した。
「しまっ!」
続けて撃ち放たれた攻撃を幾つか弾いた後、ウィンドカッターを使用し相殺して出来た時間を利用し体制を建て直す。
あぁもう。昔の癖が抜けないなぁ……。
『ゲホッ、ゲホ……此方はだいじょ、おうわあああ!?』
続けて第2射がユニーとアンナに遅いかかる。
攻撃を受けた方角は、真後ろである森がある方面からだ。それにただの弓矢や砲弾というには些か威力や速度がおかしい。考えられる答えは。
魔法使いか、[汚れた者]か。構図としては追っていたはずのあたし達が挟まれた形で、あの市壁の上を陣取ってる奴は囮と足止めが主な仕事。だとしても、どうやって"連絡を取り合って"連携した? そもそも、どうやって気取った?
攻撃が飛んできた方角を横目で確認するが、姿を確認する事は叶わなかった。
後者はセンサー役が居た。用心したと見ていいが、前者の説明がつかない。
狼煙も無ければ、大きな音も此方が発生させたもしくは戦闘で生じたモノ以外特になにもない。あの一見攻撃している水の弾に何かしらの連絡手段として扱っている可能性もあるが、この場合は考えられる最悪の答えを想定して動いた方がいいだろう。
『アンナ、ユニー。悪いけどそのまま囮頼んでもいい?』
煙からプロテクトを張ったユニーが一瞬見えた後、第3射が着弾し再び煙に飲み込まれてしまう。
『い、いいが耐えればするがな!?』
『邪魔されて正確に攻撃出来ませんよ!?』
『それでいい。二人がこのまま━━』
水の弾を弾き、エミリアの動きを予想して放たれた水の弾をストームロケットを利用し無理矢理避け、こう続ける。
『馬車を攻撃するって、思わせればそれで!!』
ユニーは2日前の夜、彼女が使ってみせた魔法を思い出し敢えてこの地形を選んだ理由を踏まえある考えに辿りつく。
『あー、なるほど……ならアレの後に相手変わった方がいいな』
『……えっ?』
『そうね。そっちのほうが助かるわ。ついでに出し惜しみもなしにしてもらえるともっと助かる』
『分かった。馬車が来た時が勝負時だな』
『頼りにしてるわよ』
『なんなんですかもー! 2人だけで分かり合わないでくださいよ!!!』
アンナの叫び声が脳内に響き、同時に第4射が着弾する。
向こうも時間がないのは分かりきっているはず。となると、伏兵を目眩ましに使ってきたということはそう時間をかけずに。
彼女の耳がピクリと動き、微かに聞こえる馬の蹄が石畳を蹴る独特の音を拾った。
「来た。ガード!」
足元から土の壁を生成し身体がせり上がって迫っていた弾を避け、それらは壁に穴を作り出していく。
「……? どう動こうと」
眉間にシワが寄ったアルファはそう口走ると一見乱射し、乱雑にも見える攻撃を放つ。が、それらは全てエミリアの行動を読み放たれた攻撃であった。
「ランスクリフト」
しかし、そう来ると"足を止めさせ本命を撃ってくる"と読んでいた彼女は、ランスを生成しつつ飛び降りソレを土壁に突き刺し身体を引き上げると新たな足場とし。
「ダッシュ」
パチンッと指を弾き、急加速する。その衝撃でランスが抜け回転しながら飛んでいき、同時に水の弾が壁まで到達する。
「緊急脱出。私の対応を遅れさせるためか。冷たい事する」
目線と尻尾の先を彼女が移動した先を追っていき。
『ごめん。姿晒す事になっちゃうけど、突撃してもらってもいい?』
『慎重にすぎなうえ、翻弄されすぎだ。が、まぁ仕方ない。いいだろう。お前にとってもいい勉強になったはずだしな』
彼女の姿を捉えた時、地面に手をついており不穏な魔力の流れを感知していた。
『うん。早めにお願い。かなり不味そう』
急いで市壁を飛び降り水の弾を乱雑に撃ち放っていく。
そして、ちょうど馬車が門を潜り外へと飛び出し。
「シージュ!!!」
エミリアを中心に地面から幾重もの土のトゲが生えせり出していき放った水の弾は防がれてしまう。
「ッち」
目線を馬車に向けると、トゲが馬車を破壊し目的の
「やられたっ……!」
「ざまぁみろって、えっリネ!?」
木箱と共に宙へと投げ飛ばされたリネの姿が見え同様するが、すぐに切り替えエミリアは即座に飛び退けると飛来する水の弾を避ける。そして、間髪入れずに1本の雷が駆け抜け変異体を襲った。
直撃はしたものの、ダメージが入っている様子は薄く着地すると直ぐに走り出す。
『やっぱり距離があると威力が落ちますね』
と、テレパシーが頭に響くと同時にトゲの中にアンナは入っていく。
『じゃ、アンナお願い。無理そうなら引いていいから』
『任されちゃいます~』
「ファイアキュート」
左の手にデフォルメされた犬の火の玉が生成されワンドの先をむけ。
「さーって、しっかり足止めを━━」
言葉を投げかけるが、かき消すように1つの迫撃砲にも似た矢がアンナの近くに着弾し爆発音が奏でられる。
「隠れても結構精度がいいですね。っと、関心してる場合じゃなかったです」
炙り出す算段を立てていると。
『やばい、ヤバい! アンナ逃げろ!!!』
突如焦ったユニーの声が頭に響き渡る。直後、再び矢が着弾し地面から生えたトゲの一部を消し飛ばした。
「ゲホッ、ゲホ! わ、分かり……」
彼女は状況を飲み込めていなかったが、彼の言葉に従おうとした。が。
「……へ?」
砂煙の向こう側にうっすらと、下半身が馬で上半身が人のシルエットが浮かび上がる。
そして、奴の手には大剣が握られていた。
◇
「くそ……!」
敵勢力は少なく見積もっても4名。
「へいへい、どうしたよ。おぉ?」
伸した男を投げ飛ばしつつ、パトリックは煽るようにこう続ける。
「雑魚ばっかりじゃねぇかよ!」
此方の数は十数名。更に援軍も含めるともう少し多い。向こうの戦力にペインが存在するとはいえ、数的有利に加え流れとはいえ対抗出来る戦力をぶつける事に成功もしている。馬車の破壊も成功している。
だが、どうしてた。どうして。
「此方が押されてるんだ……。実力差って奴か!?」
「ジェームズ、どーする? このままだと全滅するじゃろ?」
ルチアに話かけられ、彼は答えながら馬から降りる。
「わーってる。けど、あいつらが此方に来れなきゃ何やっても無駄だ」
お膳立てはしてもらった。最初の奇襲は完璧だった。なのになぜ完璧に対応されてしまっているんだ。
様子を見る限りでは、女の方が男の手綱を握り、周囲の状況を収拾し指示を出している用に見える。
「やるとしたら、女からか……」
彼がそう口走ると。
「ほいなら、僕が隙を突くけぇ、後は頼むよ」
ルチアはそう言い残すと、馬の手綱を引き駆け始める。
「お、おい! まっ、俺のさっきの言葉は……あぁもう! 勝手に動くなよ馬鹿野郎! フェリ! 動ける奴まとめろ!!」
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