68話Assistant2/師と弟子

 攻撃を回避し、攻撃を誘導しながらの立ち回り。

 言葉にするだけであれば簡単であるが。


「あぁ、もう!」


 入れ替え先のトランプを幾つか投げ飛ばし、アンナの懐に忍ばせていたトランプと自身の位置を入れ替え、アンナの目の前に現れる。と、すぐに彼女を連れ別のトランプと場所を入れ替え、背後から迫っていた攻撃を避ける。

 そして、攻撃目標を失った青い変異体の攻撃は、屋敷の壁を軽々と突き抜けていた。


「ふぅー、危ない」


 アバスとそのお付きの変異体は逃げる素振りを見せず、徹底抗戦の構えであった。

 何か在る。と、考えられるも倒すと言い出し実行に移させた手前、今更やめようとは言えない。

 やっぱり、もう少し探る時間は欲しかったかな。仕込みも不十分だし。


「コーンサンダー!」


 アンナは両腕がランスとなっている変異体に電撃を放つが、左へと飛び避けアバスから距離を取った位置で此方の様子を伺い初める。結果として青い変異体を挟んだ状態で再びにらみ合いとなってしまった。

 あくまで、"対応"する構え。アバスの奴、側近だけあってよく仕付けてる。


「シーラさん。下の階の処理は終わって、次の行動に入るそうです」


 そう伝えながら、彼女は可愛い炎の弾を左手に作り出し、ボクは真後ろにトランプを1枚投げ飛ばした。

 

「了解だよ」


 これで、もう少し派手に戦ってもよくなった分けだが。

 ユニー達には先程、戦闘が終わり次第周囲に展開するよう頼んで貰っていた。

 撤退防止の意味合いがあるが、それ以上に邪魔されたくなかったのだ。


「さて、ちょっと派手になるけど、いいよね」


「この構図になった時点で、覚悟はしてます。どうせまた、石像投げるんだろうなって」 


「あはは……」


 苦笑いを浮かべながら、指を弾き密かに遠くのトランプを別の物へとすり替えていく。


「流石に、アレに動かれんと不味いな……」


 独り言のようにアバンは呟き、執事が警戒しながら彼に近寄る。


「お嬢様の魔法でしょうか?」


「あぁ、何をしでかすか分かったモノではない。それに、よく魔法少女の手綱を握っている。色々と教えた甲斐があるというものだ」


「連携されると、厄介ですね。此方から攻め立てますか?」


「いや、後の先を捨てると一気に崩されかねんぞ。お嬢様は敢えて三つ巴の構図にし、アノ化物が乗っている形ではあるが、本質は何も変わっていない。結局、狙われているのは我々だけだ」


 三つ巴の構図とし、青い変異体はわざと背中を見せ攻撃を誘い、シーラ達はちょっかいを出しつつも真正面から当たろうとはせず削りの一手を取っていた。

 戦力としては、彼女らは変異体と連携しアバン達を倒した方が早く確実である。だが、シーラの性格に加えその後連戦と成り得る状態を招くのは不味いとの判断なのだろう。

 隣に居る魔法少女は、つい昨日さくじつにも戦闘をしている。魔力が回復しきっていない状態で今日の連戦となっている事はゆうに想像が出来ていた。


 ともなれば、魔力残量は彼より厳しい。更に言ってしまえば、奇襲とあの高火力の攻撃を連続して放てばアバンを無理矢理倒す事は出来る。この手段を行使出来ないほどに彼女は疲弊している。"連戦"出来るほどに魔力がないと言っても過言ではない。

 そして、その彼女の回復を待てば、今度は昼の件が尾を引く形となる。

 状況だけで言えば、"仕込み"が作用し、更に運にも恵まれアバンの考える最高の状態に仕上がったと言えよう。ただひとつ、あの青い変異体を除けばであるが。


「だが、手を拱いている分けにも行かん」


 彼は剣を逆手に持ち変え。


「一旦、仕切り直しといこう」


 地面に突き刺し、土属性の魔法を発動し砂煙を周囲に発生させ床を穿き2階へと落ちていく。

 この行動は、彼女が他の仲間を"遠ざけている"事を読んだ上であった。

 

「っち、下に行かれるのは困るかな!」


 指を鳴らし、急いで二階の個室に設置していたトランプと位置を入れ替える。


「なぜ急に移動を?」


 ドアを蹴破り廊下を見渡すと、次は轟音と共に屋敷が少しばかり揺れた。


「ボクが助手君以外と連携を取らない。と踏んでだろうね。多分下の階の部下は全滅してるのは織り込み済み。だとすると、少々厄介だな」


 顎に手を当て、思考を巡らせ始める。

 この選択は、地形で有利を取るため。それと奇襲を主眼に置く。正面からの殴り合いは部が悪い、此方の消耗を狙って。

━━昼間追ってた時にムキになりすぎたかな。ボクの魔力も心持たないから連発のし過ぎは自殺行為。このままだとジリ貧。全く、変なのが居るおかげで予定が台無しだ。


「助手君。少々不本意なのだが、遠距離から攻撃出来る子を用意してもらっても良いかな?」


 部屋をでて、暗い廊下を身を隠しつつ細心の注意を払いながら進み始めた。


「あ、はい。包囲は崩さず、援護してもらうんですね」


「ご明察。わかってると思うけど、出来れば夜目が効く子がいいかな」


 光源を"ずっと"焚くのは手間だ。


「その点は問題はありません。にしても無駄になっちゃいましたね」


「何がだい?」


「先程の睨み合いの時、石像の準備してましたよね?」


「あぁ、その事か。大丈夫。しっかりと二階にも用意しているから、さ。さて、助手君には一旦、"囮"になってもらうよ。その後は━━」



 魔法少女は補足している。

 だが、周囲にお嬢様の姿が見えない。それに居場所を教えるように手には光源となりえる炎属性魔法を浮遊させている。これは明らかに。


「囮か。些かわざとらしすぎるが……」


 ソレが目的だな。だが、手を出さない分けにも行くまい。

 ボロボロになっていた剣を再生成しながら、ゆっくりとアンナへと近づく。


「愛弟子の誘いに乗らない師はおるまいてっ!!」


 わざとらしく呟き、振りかぶりつつ前へと出る。


「ッ!? 本当に乗ってきた!?」


 犬のぬいぐるみを模ったような炎弾が放たれ、それを切り払うと盾を全面に押し立て彼女の視界を遮り。


「コーンサンダー!」


 流れるように放たれた追撃を防ぐ。

 直後、盾を手放し前蹴りを繰り出す。手放した盾にそれは命中し、そのまま魔法少女を押し退けるように吹き飛ばした。


「うぐっ!?」


「追撃は結構だが、その後が隙だらけでは意味がなかろう」


 足を地につけると剣を両手で持ち、背後を振り向きつつそれを振りぬいた。

 それは1枚のトランプを切り裂き。


「おっと」


 半歩ほど体を反らせると、上空から1本の槍が振って落ち地面に突き立つ。

 誘いからの多角的な攻撃。更に、魔法少女を"囮"と見せかけ。

 後ずさりし壁に背を付け体重を任せる。


「アクア!!」


 すると、壁が朽ち始め体が傾き。


「バルカン!!」


 倒れ対象を失った貫通性能を持つ水の弾は薄暗い廊下を飛び抜けていく。

 個室に侵入したアバスは、一回転し更に飛び退ける。すると、タイミングを見計らった日のようにして複数の石像が砂煙を上げながら降り注いだ。


「読みも申し分ない。だがしかし、2対1だとて」


 着地し壁に手を付けると、穴が空き手に盾が再生成され始める。


「あの、強いウェイトレス君の方が、随分と手強かったぞ!」


 舞い落ちる1枚のトランプが視界に入ってくる。そして、次の瞬間。


「相性のッ!!」


 位置を入れ替えたシーラが現れ、剣を振り下ろすが寸前で剣で受け止められ鍔迫り合いが始まる。


「問題じゃぁないかな!」


「確かに、老体にあの速さは堪えるがッ!」


 力任せに剣を振りぬく。力押しで負けると踏んだ彼女は、即座に位置を入れ替え攻撃を回避した。


「その魔法も大概だと思わんかね。それに、まんまと分断されてどうする」


 すると、アンナが居る方角から轟音が鳴り響き屋敷が少しばかり揺れた。


「アバス。君と戦うのに、あの部下君は邪魔だ。そして、各々の戦力は上だと踏んでいる君は、あの変異体がいない間に助手君を先に倒そうと差し向けてくる。そう予想した」


 深く息を吐きながら、声がする背後に振り向きシーラを見据える。


「それで? 君の魔法で向こうの加勢に向かうか?」


「まさか。そんな事をしてみろ。引くに決まっている。君……いや、貴方ならそう指示を出すはずだ」


 ならば、何を?

 と、彼は思考を巡らせ先程の火の玉思い出し、とある答えにたどり着く。

 彼女らの思惑を察し、口元が緩む。


「なるほどな。わざと乗せてきたのはそう云う訳か。こう言う手は身内でしか、効力を発揮せんぞ」


 分断させた。と思わせその実、"分断させられていた"。

 この思い込みをさせることにより、奇襲から潜む。この一連の流れを繰り返しての消耗戦を封じる事が出来る。所属不明の変異体の存在により、心理的に急いで倒してしまいたいと頭が働きかけるためだ。


「何、馬鹿相手でも効果はあるし、ボク的には慎重になってくれるならそれはそれで望む所って分けさ。ようは相手にわざと先手を取らせるか、一手遅らせるのが目的。あわよくば両方ってね」


「及第点だな。綱渡りなうえに、囮だとバレバレだ。それに、相手にされず浮かせられては元も子もあるまい。次やるならば、獣殿を使い彼女につけるか、いっそ相方を変える事を進める。さすればもう少し無理して引き込めよう」


「仰る通りで。けど今回は、弟子の誘いにわざと乗ってくれた事だし」


 シーラは彼に剣を向け、周囲にトランプをばら撒く。


「時間稼ぎして、キッチリ勝たせて貰うよ」



「っとっと!!」


 後ろに下がりつつ、突かれる槍のような腕を避けていく。

 昨日の犬見たいな人より、遅いですし避けれない事はありませんが……!

 ワンドを振りかぶり。


「コーンサンダー!」


 一旦距離を取るため、ワンドを振るって雷撃を周囲にばら撒くが、腕を交差し急所を防御し足を止める様子はなかった。

 少々、無理をするしかありませんね。


「ファイアキュート」


 小鳥の形をした火の玉を即座に撃ち放つ。

 変異体は舌打ちをしながらそれを叩き落とすが、破裂し一瞬ではあったが閃光と共に炎が彼の視界を遮った。


「ッ! まずい!!」


 咄嗟に防衛を固め立ち止り、後ろに下がった。

 次の瞬間、振るわれた石像が炎をかき消し、砂煙と共に壁をぶち抜いた。

 手応えがない。避けられた! けど!


『ユニーちゃん!!』


「あぶない、ですね!!」


 左手に持ち変えていたワンドを振り上げ。


「ユニ」


 振り下ろす。


「サンダー!!!」


 発生した雷撃は、閃光を産み砂煙をかき消す。


「何処を狙って!」


 再び距離を詰められ、腕が突かれた。

 咄嗟に、半壊している石像を振るうが破壊され、軌道が少しずれるだけで腹部を掠める。


「チェック━━」


 変異体は腕を引き。


「メイトは、此方です!」


 突こうとした瞬間、何処からともなく飛来した1本の矢が変異体の腹部を穿き黒い煙が吹き出す。

 痛みや動揺を押し切り腕を突くがワンテンポ遅れた攻撃はアンナの頬を掠め、懐に飛び込む。


「なっ!?」


「アクア」


 変異体の腹部にワンドを押し当て。


「まずっ━━」


「バズーカ!!!」


 零距離で放たれた水の柱は、変異体を飲み込み天井を突き抜け1つの大穴を空けた。

 数瞬後、攻撃をやめ魔力の節約に務める。


「倒せていると……」


 そう呟くが、身体の半分が崩れ元の人の姿が顔を出し、黒い靄が吹き出す変異体の姿があった。

 立っては居るが、とても戦闘ができるような状態ではなかった。


「お見事です。石像で壁を破壊し、雷撃は味方への━━」


「コーンサンダー」


 言葉を遮るようにワンドを向け、雷撃を放つ。

 防御も避ける素振りもなく、雷撃は彼に命中し黒い球体が排出されると共に声もなくその場に倒れた。


『助かりましたー。ツバキさんにお礼を言っておいてください~』


『あいよ』


「助かったとよ」


 屋敷の向かいに位置する民家の屋上にツバキとユニーの姿があった。

 作戦は単純で、外に居るツバキによる狙撃で隙を作りアンナが仕留めるというもの。

 攻撃タイミングはテレパシーを使用し場所の特定には光源、ファイアキュートかユニサンダーを使う。

 そして、ツバキには甲皮が薄そうな箇所を狙ってもらう。外壁は幾つか用意した石像を使って破壊してくれという指示であった。


 綱渡りもいい所であったが、敵の意識の外。つまり、」想定外の攻撃を行うには最適な手でもあった。


「うん。無事なら、それでいい」

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