67話Assistant2/連戦

 ツバキは片手剣を返却し外へと出ると、昼間アンナ達と遭遇した化物と対峙していた。


「頼まれた。はいいけど」


 振られた鎌を固定ブレードで受け流し、ツバキは半身のみの変異体から距離を取り背負っていた弓を引き抜く。

 ブレードを仕舞い、カチンッという音と共に顔を出す矢を引き抜きつがえると、足を狙って引く。


 しかし、瞬時に跳ばれ避けられ、矢は地面に突き立つ。更に視界を外すように跳んでおり、着地と同時に地面をもう一度踏みしめ彼女の横っ腹に向け距離を詰めた。


「思ったより……」


 再び腕のブレードを展開し、振るわれる鎌を反らしながら、体を捻りその場にしゃがみ込む。

 カチンッという固定器具が外れる音がし、ブレードがせり出し放たれた回し蹴りが変異体を襲ものの、バッタのような足を盾にするかの如く刃先と生身の身体の間に割り込ませ、金属音のような甲高い音が周囲に鳴り響く。

 両者は同時に後方へと跳ぶと距離を取り、体勢を整え直した。


「前のめりじゃなくて、やりにくい。なぁ、もう」


「寄っても弱くはない。……ならば」



 後、2体。

 ツバキから返却された片手剣を順手で持ち構え、正面に居る個体に目線を向ける。

 当然と言えば当然ではあるが、ひとえにフェーズ4と言っても個体差がある。

 姿もそうだが、本人の戦闘能力が色濃く出る。故に、下積みをちゃんとこなしている変異体は手強い。


『ユニー。一旦此方来てもらっていい?』


 2人の合流は済んでいた。だが、相手をしている個体が手強く。


『分かった!』


『頼むわよッ!』


 変異体は壁や天井を使い、縦横無尽飛び跳ねながらエミリアに近づいてくる。


「ガード!」


 咄嗟に壁に触れ、移動先を予測して土の壁を生成し挟み込もうと画策するが寸前で見切られてしまう。


『じゃないと、ツバキの方に行けないのよ!!!』


 手強く、残してツバキの増援に向かえば残した3人が狩られてしまう恐れがあったのだ。

 懐に飛び込まれ腕を突かれ、剣で軌道をずらしながら体勢を倒す。 

 次の瞬間、腕は瞬時に引かれ今度は鞭のようにしなる足が、ミリアの髪を弾き通り抜けていた。

 手を床に付き足を蹴り上げるも、片足で天井へと向かって跳ばれており攻撃が当たる事はなかった。


 読まれてたか。あたしも強化されてるとはいえ、身体能力差が此処まであると……!

 天井に手を付き、少し曲げると身体を力一杯押しのけ、飛び蹴りをするような格好をしながら急降下して来る。

 エミリアはバク転をし、蹴りあげていた足を床に付けるとソレを支点にもう一回転した。

 そして、放たれた飛び蹴りは彼女が移動した事により捉える事が出来ず、床を突き抜け1階へと落ちていく。


「あっぶな。ガード」


 土壁を消し瞬時に足元から生やし、剣を投げ捨て天井に吊るされている小さなシャンデリアに飛び移りぶら下がると、生やした壁の根本が破壊され変異体が這い上がってきた。


「アタック」


 空いた腕を向け、指を弾く。すると、発生した衝撃波が奴に襲いかかるが腕で守られ、負っているであろうダメージは限りなく少ないものであった。


『あーもう、ほんと面倒くさっ! ユニーそのまま後ろから突っ込んでッ!』


 彼女のテレパシーを送ると共に、振り子のように体を揺らし足を天井に付け、自重を右手で持つシャンデリアを支えるチェーンに任せ、ランスを生成し始める。


『了解!』


 直後、ユニーが張っている防壁を使い変異体の真後ろから、体当たりを食らわせ押し出した。同時にエミリアの体重を支えているモノの根本がバギバキと悲鳴を上げ始める。


「すぅー……」


 その攻撃は直接的なダメージには成り得ないが、体勢を崩すには最適であった。

 息を整え狙いを定め、チェーンから手を離した直後、指を弾いて天井を踏み込む。


「ダッシュ!」


 先程奴がやった手に加速魔法を加えた彼女は高速で落下し、ランスの先が変異体を捉えると奴事床を突き抜け、轟音と共に1階へと到達し衝撃で床に亀裂が入っていく。


「こっわ!? こわ!!!」


 合流後、ユニーの第一声がそれであった。

 プロテクトを張っていたとはいえ、目の前を高速で通りぬけかと思えば、対象が消え今度は砂煙が撒う中を突っ切っていたのだ。致し方ないだろう。

 変異体の体が元の人へと戻り黒い球体が排出されるのを確認する。落ちてくる、砂埃を払いながら見上げた。


「助かったわ。この手、結構いいわね。またやりましょ」


「嫌だよ! 俺目線滅茶苦茶怖いんだよ!」


 ユニーが空いた穴から覗き込みながら反論してくる。


「またやりたいって~? 流石ユニー、話分かってるじゃないの。ガード」


 気絶している男を蹴り飛ばすと、足元から土壁を発生させ2階へと身体を押し上げた。


「嫌だつってんだろうがー!!! このまま俺は2人の援護に戻るから、エミリアはツバキ頼む!」


「分かってる。気をつけてね」



「がはッ!?」


 再び寄られ攻撃を受け流し、カウンターを入れようとした時の事であった。

 ツバキの腹部にバッタのような足が当てられ、彼女を足場に思いっきり跳んだのだ。

 吹き飛ばしながら、変異体は館へと向かう一手であった。

 痛みで顔を歪ませながら、着地し苦し紛れに矢を矢筒から引き抜きつがえ狙いを定め。

 

「行かせる、分けには!」


 わざと狙いをずらして弓を引き、次の矢を四角い矢筒から引き抜く。

 放たれた矢は変異体の進行方向の先へと飛んでいき、奴の目の前に突き刺さるが足を止める気配を見せずに走りぬけエミリアが生成した土の棘に跳び移って移動していく。


「止まらない、か!」


 今度は狙いを定め、弓を引いた。

 予測した奴の進行方向に向け飛んでいき、腹部を捉えるも変異した鎌で斬り落とされてしまった。

 変異体は鼻で笑い、次の矢をつがえる姿を横目で確認し備えていると目の前の窓が割れ、1人の真っ白い服に身を包み右手に片手剣を携えたハーフウルフの女性が現れる。


「はぁい」


「ッ! 魔法少女ッ!!!」


 彼女は壁に手を付き、ガードと呟く。

 次の瞬間、横っ腹目掛けて突如生えてきた土の壁に彼は押し退けられた。

 土の壁にしがみつき、登って足場とし移動をしようと試みるも、ソレはこつ然と消滅し空中で体勢が完全に崩れた。


「なにっ!?」


 射られた矢が変異体の肩に命中し、棘を伝って接近したエミリアに蹴り飛ばされ、足場となる棘から更に遠ざけられる。直後、片手剣を投擲され、合わせるように射られた矢が同時に変異体を襲った。

 器用に鎌で片手剣を弾き落とし、矢を蹴り飛ばす。が、エミリアが腕を翳し。


「アタック!」


 指が一度弾かれ、衝撃が発生し変異体の身体に直撃した。

 唸り声と共に地面へと落下し肩で息をしながら、再び射られた矢を跳び避けた。


「今の完全に奇襲出来てたと思うんだけどね」


 片手剣を生成しながら、エミリアは土の棘を伝って地面へと降りていく。


「っぺ。ちゃんと、ダメージ入ってる」


 血反吐を吐き捨て、一番上の四角い矢筒が押し退けられる形で排出、宙を舞い中央の2つ目の矢筒が一番上へと移動し新たな矢が顔を出す。

 挟まれる形で陣取られた変異体は、両者に目線を交互に向け突き刺さった矢を引き抜き一筋の血が流れる。


「だとしてもよ。これ、二人がかりでも結構手間じゃない?」


「ボヤいても、始まらない」


 ゆっくりと矢つがえ、こう続ける。


「獲物は、狩らないと」


「まっ、そうね。削って、削って……あたし達が刻み斬らないとね!!!」


 言い終わると同時に前に飛び出し、ツバキは弓を引く。同時に変異体も動き出し、弓の放物線上から移動し、エミリアへと向かって行く。

━━ツバキの状態を見るに、接近戦は五分かちょっとあたしが不利か。

 剣を逆手に持ち変え、地面すれすれから斜めに振り上げられた鎌を体を反らし避けると、腹部にむけ剣を振り抜こうとする。

 だが、直前にバッタのような足を振り上げられており、蹴り飛ばされてしまう。


「くっ! ガード!」


 飛ばされる中、左手を地面へと伸ばし、ブレーキを掛けながら魔法を行使する条件をクリアする。

 発生した土の壁は、地面から"斜めに"生え変異体を背中から押し上げた。


「ちぃ!」 


 館に向け走りながらツバキは弓を引き、直ぐ様次の矢を引き抜きつがえる。

 風を斬るように飛んで行く矢は頬を掠め闇夜に吸い込まれるように飛んで行く。

 立ち止まり狙いを定めると、第2射は変異体の着地際を狙い弓を引いた。


「その程度」


 飛んでくる矢の軌道を読み着地と同時に切り払う。直後、パチンッと言う音がし一陣の風と共に、エミリアが変異体に急接近していた。

 背中から、左下腹部にかけ片手剣が切り裂くようにすり抜け振りぬかれる。


「矢は、囮か!!」


 ツバキの放った先ほどの1射目は自身に注意を引くためのものであった。そして、着地際に本命を射るとそう思わせ、その対応をし一瞬でも隙を生み出すための。

 辛うじて動く左足でエミリアを再び蹴り飛ばし、その場に倒れこんだ。


「ぐ……ぅ、足がっ」


 動かない左足をに目線を向け、射られた矢を払いのけると残った右足で大きく跳躍する。


「いったー。けど、大きいのは入ったわね」


「うん。後は回復される前に」


 矢を射り。


「押し切る!」


 エミリアが勢い良く飛び出だした。


「ぐッ!!」


 矢を弾くも、彼女の接近から逃れれるほどの機動力は彼には残っていなかった。

 視界を外し奇襲地味た幾重もの剣筋を防いでいくも、全てを防ぐ事は出来ず次第に浅い傷が刻まれ始める。

 真正面から戦うためのモノの剣技ではない。ただ、隙を伺い急所を抉るためのモノであった。


「ぬぁあああああ!!!!」


 唸り声と共に横薙ぎに振るわれた鎌がエミリアの腹部に命中し通りぬけ、痛みと共に薄っすらと切り傷を作る。


「大振り……!」


 攻撃の手が止まり、攻撃を受けたにも関わらず彼女の顔は薄っすらと笑っていた。

 この時、彼は気がつくべきであった。援護射撃が"一切"なかった事に。

 カチンッ。という何かの金具が外れる音がし、一閃が奴の変異した鎌のような腕を襲った。

 金属音と共に火花が飛び散り、浅い傷とヒビが入る。


「硬い」


 再び振るわれた鎌を後ろに飛び退け、今度はエミリアが背後から迫る。

 残っていた足の健を切りつけ、回し蹴りを食らわせ。

 

「はいっ」


 彼女の動きに合わせるように懐に飛び込んだツバキは固定金具を外し足を振り上げ、せり出した足のブレードを鎌のひび割れた箇所を狙っていた。

 金属音の後にメキメキと鈍い音がし、ブレードの刃が肉を切り裂き腕が切断され宙を舞う。変異体の身体は地面にうつ伏せで横たわった。


「いっちょ上がり」


「……くそったれがっ」


「どうする? 先に情報聞く?」


 カチッという音がし、せり出していた足のブレードが音と立てて長方形の箱の中に収納された。


「ま、そうね。この状態なら少しの間はまともに動けないでしょ。一応、残った左腕も……」


 両足は動かず、右腕の鎌は斬り落とされ、左腕も肩に矢を受けていることで動かす度に激痛が走る状態であった。

 まともな反撃はない。という考えの元くだされた判断であった。


「貴様らに話す、事は何もない。……アルファ。済まない」


 念のため残った左腕も動かせないようにしようと、身体を仰向けにした。

 すると、左手が懐に入っており針がついた何かを手にしていた。


「俺は此処までだ」


「まさ━━」


 そう言い残すと、唸り声と共に自身の身体にその何かを自身の腹部に突き刺した。


「━━かッ! 話にあった促進剤!」


 エミリアは急いで止めを刺し完全に浄化しようと、片手剣を胸に突き立てる。

 

「アッ……アァ……! グ……アッ」


 始まった更なる変異はすぐに止まったものの、変異して居ない生身の体ごと朽ち始めていた。


「はぁ、やられた」


 恐らくフェーズ5とやらと同じで、生身の人が出てくる事はないだろう。つまり、死なれ逃げられたのだ。


「ゲホッ。自害って、此処まで早いの?」


「する奴は迷いがないからね。ま、これ以上の連戦にならなかったのは不幸中の幸い」


 力なくエミリアはその場に座り込み、テレパシーにてユニー達側が変異体を倒した事を確認した後、変身を解除する。


「もう、魔力がほぼないから」


 だからアンナ。あたしはそっちにいけないわよ。

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