66話Assistant/乱入

 屋敷の2階から土の棘のような物が1階と3階に居る者を無差別に襲っていく。

 そして事前に、ユニーとルチアの2人には退避するように伝えていた。アンナ達はまだ屋根裏に居るため攻撃は届かない。


「……なんか、轟音が聞こえたのはわかるんでありんすけど、具体的に何やったんでありんす?」


「外見りゃ分かるわよ」


 そう言われるがまま窓を覗き込むと、変わり果てたリアはテンションを上げて騒ぎ始める。


「これ、なんでありんすかー!? とんでもないことになってるー!!!」


 土の棘は、2階を中心に屋敷の壁からも生えており外観が見るも無残な姿へと変貌していた。


「範囲はいいんだけど」


 感知魔法により、3階と1階から2階に上がってくる個体を数体察知する。


「単純に"攻撃に使う"だけなら、単発威力はそこまでじゃないのが難点なのよね」


「十分だと」


 四角い矢筒からパチンッと言う音と共に1本の矢が顔を出し、ソレを引き抜くとツバキはつがえ廊下の先を狙う。


「思うけどね」


 月明かりに照らされ薄っすらと見えた化物に向け、弓を引く。

 放たれた矢は弧を描きながら化物の脳天に向け飛んで行くが、振るわれた腕に叩き落とされてしまった。


「っち、中距離はダメか。エミリア、剣かして」


「ほいほい、ソードクリフト。そっちは任せるわよ」


 剣を左手で受け取り、弓を矢筒と平行に背負うと受け取った剣を右手に持ち変え逆手に持ち構える。


「余裕。リア、撹乱と援護お願い」


「任されたでありんす」


 2人が相手をする変異体は見えている分だけで2体。

 エミリアが相手をする変異体は。


「ガード!」


 通路を遮るように土の壁を発生させ、部屋に入りランスを生成していく。

 見えているだけで3体。計5体左右から挟まれている形となっている。だが、地形が、この暗がりが、条件が良い。故にメインの装備を貸出し欠いている状態であろうと、負ける気はしない。


 相手が取る行動は大まかに3つ。土壁を破壊し、あたしを無視して2人を挟み撃ち。

 次に部屋の壁を破壊してあたしを3人がかりで倒す。

 最後に分散して両方を同時に行う。

 どれにしても取る行動は大きくは変わらない。


 感知魔法のおかげで、何時もより視界がクリアに感じる。相手の動きが何時もより鮮明に。

 先程入ってきた出入り口に向かってランスを構え走り出す。

 

「ダッシュ!」


 タイミングを見計らい指を弾き急加速して行く。

 すると、土の壁を破壊する音と砂煙と共に一体の変異体がエミリアの進行方向上に出現した。


「んなッ!?」


 ランスは変異体の腹部を突き刺し、屋敷の壁を破壊すると黒い球体が排出された生身の身体が投げ出され壁から生える棘の上にぶら下がった。


「まず、1人」


「派手」


 背後から聞こえてくる音を聞き、攻撃を捌きながらツバキは呟いた。

 だが、注意を引くにはこれぐらいがちょうど良いのだろう。

 此方はそれぞれが1体ずつ担当する流れとなっていた。動きそのものは素人とそう変わらない。が、力、攻撃速度、反応速度が一定のラインを超えており動きの割には手強いという印象であった。

 壁を破壊し、部屋に侵入すると剣を振りぬくが大きく後ろに飛ばれ距離を取られる。


「噂は、所詮噂。何がランク詐欺筆頭だ。何がビランチャ最強だ。この程度で名乗るなど」


「井の中の蛙。ってのは承知してる」



 カチンッという音と共に左腕に付けている長方形の金属からブレードが飛び出し出しきるとガチンッという音を奏でブレードを固定する。


「けど、私に勝てる。なんて、……考えないで?」


「大口を!!」


 身体能力をフルに使い跳んだ変異体は、壁を経由しツバキの直上へと跳び上がる。


「だから」


 天井を蹴り、急降下し着地際に鋭利な爪を携えている腕を振るった。

 だが、左手に固定されたブレードに軌道をずらされ、体を捻っていた彼女の身体を捉える事は叶わなかった。


「んなっ!?」


 彼女は呟きつつ、そのまま足を上げ回し蹴りを放つ。

 変異体は咄嗟に後ろへと飛ぶが、金属音が周囲に鳴り響き腹部に浅い"切り傷"が付き黒い煙が吹き出した。


「避けたはずっ!」


 未だ地に足がついていない右足に付いている長方形の箱から、ブレードが顔を出し、次の瞬間カチンッ。と言う音と共に収納された。


「絵空事なんだって」


 地に右足が着いた瞬間、彼女は前へと飛び再び開いた間合いを詰めに入る。

 苦し紛れに、腕が突かれるも難なく軌道がずらされ、突かれた固定ブレードが首筋をかすめ、瞬時に薙ぎられる。

 刃先は火花を飛び散らせながら、表面をなぞっていく。


「硬い、けど」


 何時の間にか変異体が振り上げていた左腕が振り下ろされるが、左脇へと前方に倒れるように転がっていき、出していたブレードを収納する。

 そして、片手剣を順手に持ち変えると、足を狙い低く飛ぶ。

 背後を取られている。と、変異体は頭で理解していても、体が動くまでワンテンポ遅れてしまいその隙を縫って振りぬかれた剣は足の建を斬るように通り抜けていく。


「がっ、あ!!」


「不思議な━━」



 左手を付き、足を振り上げカチンッと言う音が鳴りブレードがせり出す。そして体勢が崩れ、倒れゆく変異体の腋に右足のソレを滑り込ませた。


「━━感触」


 ガキンッ! と言う金属音が鳴り響き、後を追うようにして振り上げられた左足のブレードが重なり、皮膚がひび割れ刃先がめり込んだ。次の瞬間、腕が切断されおびただしい黒い煙が吹き出し始める。


「がああああ、あああああああ!!!!」

 

 変異体はそのまま倒れこみ、ツバキは後方倒立回転するように体を倒し、せり出していたブレードは勢い良く長方形の箱の中に戻っていく。

 立ち上がり、振り向くと切断された腕を押さえいる変異体を見下ろし、視線を切断した腕に向けた。

 ソレは黒い煙を吹き出しながら、消滅していっていた。だが、元の腕がソレから出てくる様子は見受けられない。


「もしかして」


 片手剣を投擲し、変異体の胸に突き刺さるとその場に倒れ黒いもやに包まれたのち、"五体満足"の状態で気絶している男性が出てくる。


「……なるほど、ね」


 幾ら身体を切断しようと、浄化してしてしまえば五体満足で戻ってこれる。

 逆に殺してしまった場合は? と彼女は考えつつ倒れている男の元へと歩いて行き剣を引き抜いた。

 すると、後方から何かを破壊する音が聞こえ振り向く。


「そっか。ゆっくり考える、時間なかった」



「えっと、何時になったら動くんですか?」


 屋根裏に隠れていた魔力温存のため変身していないアンナがそう問いかけた。

 戦闘が始まり、既に数分が経っている。だが、シーラは様子を伺うばかりで動こうという気配が見受けられない。


「おやおや、せっかちなのは関心しないな。どうせなら、両方狩ってしまいたいと思わないかい?」


「漁夫の利を得ようと?」


「そっ、もう少し削り合って貰った方が都合がいい。けど、此方の動きが読まれてたようだね。動きが引き気味だ。助手君。ユニー君に気をつけるように言っておいてくれ。何かあるかもしれないと」


「助手じゃありませんって! 後、了解です」


 テレパシーを送ると、再び何かが壊れるような轟音と共に屋敷が微かに揺れる。


「にしても、些かやんちゃが過ぎないかな」


『何、今の。アンナそっちはまだ動いてないのよね?』


『え!? はい、動いてないです』


 エミリア達だと考えていた彼女は、驚きを隠せず顔に出てしまっていた。


「その様子、此方じゃないようだね。本命側でも無いから」


「あるとしたら、あの変異仕切っていないフェーズ4」


『エミリア、外に昼間取り逃がした奴が居る。相手頼めるか!?』


『了解。って言いたい所だけど、追加が来て、まだ此方残ってるのよねッ!!』


『分かった。なら、俺達が向かうからツバキ連れて対処に向かってくれ』


『はいはい。じゃぁ速く来てよね。先にツバキ向かわせて足止めしてもらうから!』


 テレパシーを送り指示を仰ごうとするも、どんどん話が進んでいき割り込む隙が見つからなかった。

 結局ただ聞いているだけとなってしまい、眉間にシワを寄せてしまう。

 状況をなんとなく察したのか、シーラがアンナの頭に手をのせた。


「あの2人はなんだかんだ判断が早いから、そういう時もあるさ。さて、ボクらもそろそろおもむこう」


「……はい。変身」


 アンナの身体が光に包まれ、弾けると魔法少女の姿へと変わる。


「じゃぁ、手筈通りに頼むよ。調整はボクがやる」


 指をパチンを1度弾いた。



「流石ニ、強イな」


 引き気味に戦う彼らに向かって、変異体が話しかけた。


「それは、此方の台詞だ。これで交えるのは3度目だと言うのに、確実に倒す手段が見つからない。いやはや、心が踊る」


 土の鎧を纏ったアバンは砕かれた盾を作り直し、ながら答える。

 確実性の欠く手段は見当たる。それも、2対1のこの構図での話でだ。

 1対1では、いい所刺し違えれるかどうか。といった所であった。


「コレでモ、同類内じゃ、最弱。ナノだガナ」


「面白い情報を吐くな。……お嬢様が動いてからが勝負だ。簡単に狩られてくれるなよ」


「心得ております。旦那様」


 両腕がランスのような形状となっているフェーズ4が返答し、睨み合いが続く。


「こノまマ、でハ場は動カナイ。だが……」


 青い変異体はひび割れた窓を、その先の外に目線を向けこう続ける。


「動ク、一手ヲ待ってイル。だガ、状況ハ悪化すルノではナイか?」


「良く、状況が見えてるじゃないか。1ついい事を教えてやろう。待っている相手は」


 突然どこからともなく、1つのナイフが天井から落下し床に音を立てて落ちた。そして、無数の紙が宙を舞い始める。


「君の考えているような行動を取る人物ではない」


 すると、舞う紙の中ワンドを持った少女と怪盗衣装に身を包んだ女性が突然現れ、得物の先はアバスへと向いていた。


「アクアバズーカ!!!」


 先から水が柱のように放出され、彼は体を反らし盾を斜めにし受け流すような体勢を取る。

 盾が水と接触し、受け流しきれず弾き飛ばされるように数歩後ずさりし、彼を弾いたそれは壁を破壊し外へと向かっていった。程なくして、水の放出が止まり。


「流石に奇襲一発で終わる分けない、か」


 2人の背後から迫っていた変異体がランスのような腕を突くが、接触する寸前で姿が消え、今度は青い変異体の目の前に出現する。


「ファイアキュート!」


 左手に炎の玉を発生させ、一歩踏み出して押しこむように前に突き出した。

 咄嗟に肥大化した腕でソレを防ぐ。一瞬弾けた炎で視界が遮られ、晴れると2人の姿が消えており、今度は両者から距離を取るように窓際に立っていた。


「やっぱり付け焼き刃じゃ……そう、上手く行かないものだね」


「いいえ、十分様にはなっていると思いますよ」


 ワンドを振りかぶったアンナがそう答える。

 今回の標的は七賢人であるアバンに加え、イレギュラーである青い変異体の確保も加わっていた。

 奇襲しどちらか倒せれば、最高の結果であった。が、それを安々と許してくれる相手ではなかった。


 そして、狙ってくる可能性が低い青い変異体に擦り寄っていき倒すまで協力する手もあった。が、何時裏切られるか分からない、裏切らないという確証がない以上、嫌らしいタイミングで攻撃され窮地に陥る可能性が残されている。ならば、はなっから敵対してしまえばいい。

 一見三つ巴の構図にしつつ、かき乱すように動き削り合わせる。そういうやり方の方が、シーラから見てやりやすかった。そして理由はもう1つあった。


「おやおや、強気だね。だけど、見せすぎも良くない。から、次の手行くよ」 

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