63話Assistant /作戦会議
「あ"~……ごめん、逃げられてしまったね」
ため息を付きながら、シーラがそう言った。
あの後、彼女のテレポートと俺の感知能力を駆使して追っていたのだが、うまい事撒かれてしまっていた。
路地を通って行くならば、まだ良いのだが奴は民家の中に平気で侵入し、壁を破壊し家主を盾にしなりふり構わずと言った様子であり、追っていた最中彼女はとても嫌そうな顔をしていた。
「いや、相手の方が上手かった。と言うか、俺達に取って嫌な手を使って来ていた感じだし仕方ない。で、逃したら行けない理由ってのは?」
追跡中、聞かず保留にしていた事を問いかける。
「そうだね。何処から話したものかな」
突然新たな情報開示があり急いで広げると書かれている内容に目を通していく。
そして、書かれている内容に、驚き目を見開いた。
「……フェーズ5についてでも書かれていたかい?」
「ッ!? 知ってたのか」
『ユニー、ちゃん。これどういう事ですか?』
返答はかえって来ず、アンナから送られて来たテレパシーに対し、応答する。
『すまん。俺もさっき知ったんだ』
一服置き、シーラの口が動きはじめる。
「……そりゃぁ、知っていたからこそ追ったんだよ。逃げる直前何か薬品を投与していた。そして、悪化しフェーズ5への移行。たまたまだ。と、済ませれば楽なのかもしれないけれど、それじゃぁ虫が良すぎるからね。吐きそうな相手でなくとも、確保さえすれば何かしら手掛かりが見つかるかもしれない」
「なるほどな。となると逃がしたのは手痛い」
フェーズ5の暴走と浄化によってもたらされる消滅による死。
ワザワザ脱獄させたが、このままでは逃げきれないと悟り証拠隠滅と時間稼ぎの両立を図った結果。
俺は更にこう続ける。
「でも確保しても、似た感じで証拠隠滅するんじゃないか?」
「否定は出来ないね。自害される可能性は高いかもしれない。とりあえず、合流しようか。他の戦況も気になるからね」
俺達はテレポートしつつ移動しギルドに戻り合流すると、状況の整理に入った。
まずシーラが俺に話した事を話し、次にアンナ達の報告に入った。フェーズ5は倒せたが、鎧の変異体は逃がす形になってしまったそうだ。状況を考えわざと逃がしたそうだ。
被害はガリアードが重症らしく命に関わるほどではないが、当分は動くな。と言い渡されていた。
エミリア側も似た状態で、七賢人と対峙。更にミノタウロスのような変異体の乱入。敵対をする素振りはなく利用する形で戦闘をしていたが、更にフェーズ4の乱入を皮切りに謎の部隊が出現。七賢人を逃がすように動かれ撤退させられたという。その混乱の中何時の間にか変異体にも逃げられまんまとやられた。とエミリアがぼやいていた。
ジェームズ側は特に何もなく、再度捕縛した4人を搬送していただけだった。
「フルプレートのような七賢人……アバスか」
シーラがそう呟き、更にこう続ける。
「いきなりで悪いけど、今夜時間はあるかい? その七賢人の巣をつつきたいのだけれど」
「巣をつつくって?」
「そりゃ、襲うのさ。今回の件に関わっているという事は、何か知っているかもしれないし、早めに対処しておいた方がこの町にとって良いかもしれない」
『どうする? 個人的には断る理由はないし、今ならギルド連中も多少は動かせるからアリだと思うけど』
ソファーに座っているエミリアからテレパシーが送られてくる。
『私も乗っていいと思います』
『俺も異論なし。けど、アンナ肩は大丈夫か?』
『変身中は平気です。それに今を逃すと後々面倒そうですし』
『分かった』「シーラ。俺達は乗る方向で行く」
続いてツバキが、お店暇だし。と答え、ジェームズ、ルチア、リアも参加する流れとなった。
「問題は巣がどこなのか。って話だけど」
「トラバント商会。その屋敷さ」
◇
ボロボロとなったローブを着た男は1件の空き家に周囲を警戒しながら足を踏み入れる。
至る所に穴が空き、軋む床は今にも抜けそうであった。
中に進んでいくと1人の濃い化粧を施している男が彼の瞳に映る。
「その様子、失敗したようだな。アルファに怒られない?」
「お前も人のことは言えんだろう。大剣はどうしたんだ」
埃を被っているイスを引き彼は腰掛ける。
男は言葉につまり、舌打ちをする。
「で、ブツはあの男に聞いた通り此処にある分だけなのか?」
「そうだ。アロエリット商会で運ぶ予定だったものが全てある」
彼らは、これまでアロエリット商会を通じてとある薬品を入手していた。
だが、スノージュームの1件で状況が一変。強制介入が入る前に移動させたはいいが、輸送する事ができなくなってしまっていた。
仕方なくトラバント商会を使う事となったのだが、アロエリット商会の協力者から嵌められこう言う自体となった。と、情報を入手していた。故にブツを運びだすまで利用し潰す予定だったのだが、今回の不手際により計画の大半が消し飛んでいた。
「ま、運びだせればいいっしょ。アルファからは、無理に潰さなくても良いってお達しなんだしさ」
「そう言う分けに行くか。俺は非常に頭に来ている。だからワザワザこのよう地まで足を運んだんだろう。忘れたか単細胞」
「忘れてないけど、俺は別にどうでもいいからこっから先はやんなら1人でやって来れよ」
「ふん。言われずともわかっている」
保険として2日ほど音信不通であった場合、彼らのボスがこの地に訪れる事となっていた。
◇
ガーエーションへと移動し、ジェームズの奢りで摘むものを用意し作戦会議の足運びとなった。
「んじゃ、私達が敵を引き付ける形でいいでありんすな?」
屋敷の内部構造はシーラが盗みだした間取り図を元に作戦をたてられた。
3つの部隊に分かれ、それぞれで襲撃するというもの。
ただし、質で
「いや、待ちなさいよ。一応、襲撃って
「一応、分かってはいる。と思うよ。ウメ、ごめんだけど、装備貰ってきて」
疲れた様子のウメは項垂れており、空返事を返し一服置くとこう続ける。
「あ、ごめん。ドホドフさんとこ?」
「そ。……大丈夫?」
「平気、平気」
「装備って矢の補充とか?」
俺はピーナッツを口に放り込みながら問いかける。
「違う」
「んだねー。違うね~。ツバキのフル装備はなんというか全身武器?」
「全身武器?」
俺は思わず反復していた。
一切ピンとこんぞ。
「ま、見てからのお楽しみ。って事で」
「ツバキお姉ちゃんのフル装備久々だね。此処で働くよぉになってから装備してないんだっけ?」
ルチアが確認し、ツバキんは右手で顎を触り少し思考を巡らせる。
「うん。確か2年ぶり?」
「話に花咲してる所悪いが、逸れてる。ユニーも乗るなよ」
ガリアードが顔を手で覆いつつ、遠回しにもうやめろと釘を刺してくる。
「だってよ、全身武器気になんだろ?」
「否定はせんが、一区切りついてからにしてくれ。で、排除する組はエミリアちゃんが言ってくれたように、隠密行動厳で頼む。見つかった場合は派手にやっても構わんが極力避けてくれ」
「分かってるわ」「了解」「了解でありんす~」
リアちゃんは不安だが。とジェームズは呟いた。
「まぁいい。次はユニーと、ルチアだが」
「援護しながら指揮しろだろ?」
ただ、3部隊に分け隠密行動に徹した所で、即席のチームでは連携が取りづらい。
そこでテレパシーの出番である。俺、エミリア、アンナを分けそれぞれ連絡を取り合うのだ。
まずはエミリアを始め、リア、ツバキの計3人。このチームはメインで敵を倒して行く。もしバレた場合は敵を引き付ける囮としての役割もある。そのため戦闘力が比較的高いメンツを固めてある。
「分かってるならいい。俺は隠密行動とか無理だから、ユニーお前が頼りだぞ」
「了解。って、ふと思ったんだが俺達側戦闘はどうすればいいんだ?」
今は変身が出来ない。ルチアも戦闘はできるが、浄化は行えない。
故に状況整理、指示、進言等は出来ても援護がしづらい。
「直接出る必要はないと思うわよ? でも、一応ナイフ渡すからそれでなんとかしてちょうだい。ダメそうなら此方と合流して」
話によると、ウェポンクリフトによる武器の浄化能力は、エミリア以外の他者が使用しても効果は一応現れるようでそれを活用するとのこと。
本人が扱える武器が減り、戦闘がやりにくくなったりするが致し方ないと言っていた。
「隠密は任せて下さい。寧ろその手の訓練ばかりしとるんで」
「おや? 怪盗にでもなる気かな?」
「え? 単純に僕の師匠が密偵ってだけです。じゃけど、僕自身は密偵になる気はあまりないんですけどね」
「なるほど。では、君も怪盗になろうじゃないか!」
「流れに則ってる風にみせかけた唐突な勧誘やめい!」
「む。彼女は有望だとは思わないかね? ピッキング技術さえ叩き込めばかなりいい線行きそうだと思うのだけれど」
「性格的にそうとは思わないから止めてんだ! つか一応、ルチア男だからな?」
中性的な顔立ちの彼を見て、シーラはゆっくりと口を開く。
「またまた、そんなバカな。……ホント?」
今度は厨房から追加の料理を持ってきているアンナに目線を向け、問いかけていた。
「はい。本当ですよ」
「……そうか。申し訳ない」
「いいんですよ。結局、初めて会う人からは大抵女の子として見られてもーって、違うけぇってゆっても信じてもらえんし、現に今だって……はぁ、一々たいぎいなってだけなんで」
悲壮感を漂わせながら彼はそう言い。
「で、シーラちゃんとアンナちゃんは、本命を頼む形になる。強いだろうから、場合によってはエミリアちゃん側から応援を頼む形でよろしく」
何事もなかったようにジェームズが話を続けた。
2人は七賢人である当主を狙う足運びとなっている。本来はエミリアとシーラが行うはずだったが、シーラがアンナとペアを組む。と言ったため現在の組み合わせとなっていた。
火力面もそうだが、アンナの方が一度一緒に戦った事から連携しやすく相性がいいとの事だ。
「慣れてんな」
「そりゃな。俺達は動けそうな連中声掛けて近場で待機してっから」
「ルチアさん、また様相の事でお悩みでしょうか?」
水を入れたジョッキを持ってリューンが歩いて来た。
「リューンさん。どぉやったら男らしゅうなれますかね」
「以前にも申し上げましたが、その様相が武器となりえる場面が来るかもしれません。それにルチアさんの個性ではありませんか。無理に変える必要はないと
彼女はそう言いながら、ジョッキをテーブルの上においていく。
「じゃけん、こぉやってちぃーっと喋り方変えたんです。じゃけど、何も変わらんかったです」
微妙な空気が漂い、最後のジョッキを置き彼女は微笑んでこういった。
「人間、諦めが肝心ですよ」
「やっぱ世の中腐っとりますね」
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